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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
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第6話 地上 1

 ジリジリと照りつける灼熱の日射しから避難するべく、無数に転がっていた大きな岩のややせり出した部分の下に日陰を見つけて潜り込んでいた。

 この酷暑の日の下にさらされ続けていたら、たちまちミイラになってしまうのではないか。

 暑さもさる事ながら、現在の状況がさっぱり掴めず、蛍太郎は混乱を極めていた。



 地上に出た時、ルシオールは、自分が名付けられた事にも気付いていないかのように、青空を一心に見ていた。

 青空は少女の瞳のようなすっきりとした色合いで、空が瞳に映っているのか、瞳の輝きが空に色を付けたのか・・・・・・。

 しかし、瞳を輝かして感情を顕わにしているルシオールから周囲に視線を巡らせて、蛍太郎はギョッとした。


 そこには、蛍太郎がもといた大島と、かけ離れた景色が広がっていた。

 足元の地面の流れるような砂の感触に、一瞬砂浜かと思ったのだが、大きな間違いであった事に気付く。

 そこは見渡す限り一面がほぼ白くキラキラ輝く砂に覆われていた。

 空気は乾燥しきっており、焼けつく様な太陽は容赦なく地面を照りつけて、砂を高温のフライパンの様に焦がしていた。その砂から反射するのは光ばかりではなく、強烈な熱気も上がり、容赦なく蛍太郎を焼き殺そうとしているかのようだった。

 近くには大きな岩がいくつか転がっているだけで、ゆらゆらと揺れる地面の向こうには水があるようにも見えるが、それは夏のアスファルトの上に見える陽炎をよりはっきりさせたものだった。

 

 地上に出て地獄から脱したつもりが、まだ地獄・・・灼熱地獄だったのかと希望を失いそうになる。

 やっとの思いで地上に出たものの、そこは大島ではなく、見知らぬ砂漠の真っ只中だったのである。

 

 日本に砂漠があるとしたら、蛍太郎には鳥取砂丘しか思い浮かばなかったが、この灼熱の空気は、日本ではないと直感的に確信が持てた。

 だとしたら、ここはどこなのだろうか・・・・・・。

 混乱する中、いろいろと考えをまとめようとしたが、それどころではない重要な事に気が付いた。

 この炎天下で、日射しに焼かれていたら、すぐに日射病になったり脱水症状に襲われるかもしれない。何より、ルシオールは裸足だったのだ。

 慌てて蛍太郎はルシオールを背負って岩の連立している方へ急いだ。そして、ようやく岩の下に日陰の穴を見つけて潜り込んだのである。



 蛍太郎はすぐにルシオールの足を確認したが、ルシオールは素足にもかかわらず、足を火傷した様子はなかった。蛍太郎は、ルシオールが纏っているシーツの端を引き裂いて、ルシオールの足をぐるぐる巻きにして覆った。

 靴の代わりにはならないだろうが、裸足よりはマシだろう。

 そして、パーカーを一度脱がせると、長い髪を何とかまとめて後ろに垂らし、その上からパーカーを着せてフードをかぶせる。


 ルシオールは蛍太郎にされるがまま、大人しくしていた。

 一通りの作業が済むと、蛍太郎はルシオールに訊ねてみた。

「なあ、ルシオール。ここはどこだ?」

「地上だ」

 やはり地上には間違いないのだと、やや安堵した。しかし、地上のどこなのだろうか、エジプトか?中国か?オーストラリアか?ほかに砂漠のある国は・・・などと考えてみた。

「日本じゃないだろ?」

 ルシオールは、蛍太郎の質問の意味が分からないらしく、キュッと目を細めた。

「『にっぽん』?知らぬ」

「俺のいた国だよ!」

「ここは違うところだ」

「じゃあ、なんて国だ?」

「・・・・・・知らぬ。ケータローのいた所とは違う所だ」

「・・・・・・おいおい」

 蛍太郎は天を(実際には岩の天井だが)仰いで呻いた。

 すると、ルシオールが補足を入れた。

「うむ。ここはケータローの世界とは異なる世界だ。あの道の作り方だが・・・・・・よくわからぬのだ」

 では、地獄から下った道と、上ってきた道は誰が作ったというのか?

「ルシオールがあの道を作ったんじゃないのか?」

 その問いにはルシオールは答えなかった。

 またしても、キュッと目を細めて何かを考えていた。頭もコックリコックリと傾げていた。


「・・・・・・ケータロー。『るしおーる』とはなんだ?」

 蛍太郎は、なんだか気恥かしさを覚えて、顔が赤くなるのを感じた。

「き、君の名前だよ。勝手に付けてみたんだけど・・・気に入らないかな?」

「ルシオール?ケータロー?」

 ルシオールは小首をかしげて蛍太郎を見つめた。

 そして、蛍太郎を指して「ケータロー」と言い、次に自分を指して「ケータロー」と言った。

「いやいや。蛍太郎は俺の名前。君を呼ぶ時に名前が必要だろ」

「ケータローではいかんのか?」

 どうやら、自分も「ケータロー」がよかったらしい。

 この少女は「名前」というものがよくわかっていないのかもしれない。

「俺が蛍太郎で、君はルシオール。それでいいかい?君の事を『ルシオール』と呼びたいんだけど・・・・・・」

 すると、少女は自分を指差して「ルシオール?」と確認した。そして、思いがけずにニッコリと笑った。

「ルシオール!」

 少女の喜びの感情が表出した一瞬だった。その笑顔は、こぼれるような輝きで、細められた青い瞳は清らかな水のように煌めき、この灼熱の世界を潤すかのように思えた。その笑顔も一瞬の事で、また、眠そうな無表情に戻る。


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