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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
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第5話 黄泉路 4

 次の階層に着いた。相変わらず赤黒い空だった。さっきどれぐらい蛍太郎は寝ていたのか分からないが、通常なら日は陰っていてもおかしくはないのではないだろうか。

 だが、この世界には太陽はなかった。つまり、この世界に夜はなく、常にこの赤黒い光の世界なのかもしれない。

 蛍太郎は恐る恐る周囲を見回した。周囲はぐるりと砂漠に囲まれていた。草木は一本も見えず、遠くに岩山が連なってそびえていた。


 蛍太郎が恐れたのは、また化け物たちが蛍太郎たちを、血眼になって探していないかと言う事である。

 この階層の化け物たちは、怪獣映画に出てきそうな大きさにもかかわらず、貴族風の服装をしていたのを見た。服を着ているという行為が、おかしさを超えて恐ろしさにつながっていた。蛍太郎にとって、下の階層の大きすぎる化け物たちは、想像の枠を超えているので、恐ろしさより、驚きのほうが大きかった。

 しかし、この階層と、その上の階層は、テレビなどで見てきた想像上の化け物の大きさと重なるだけ、よりリアルに恐怖を感じてしまう。

 だから、蛍太郎はこの階層では化け物の姿を見ずに済めばと願っていた。


 そして、その願いは聞き届けられたのか、障害物のないこの世界で周囲を見回したが、化け物の姿は全く見つけられなかった。

 蛍太郎はホッとした。

「よかった。ここでは化け物に合わなくて済みそうだ」

 少女は蛍太郎の顔を見つめて「うむ」と頷いた。

「大丈夫か?」


 少女が蛍太郎に訊ねた。蛍太郎が「よかった」と言いつつ、とても苦しそうな顔をしていたからである。

「・・・・・・この次の階で、俺の友達が化け物に食い殺されたんだ」

 蛍太郎が絞り出すように答えた。

 蛍太郎は正確に階層を数えていた。次の階層で殺されていった友人たちの顔を思い浮かべる。

 同時に殺されていく様もはっきりと思い浮かべてしまっていた。


 千鶴が「山里君」と最後まで蛍太郎の事を呼んで助けを求めていた、その声が耳の奥で繰り返し再生されていた。

 その悪夢の階層を再び通るのかと思うと、悔しさと悲しさと、恐怖、何よりも憎悪が蛍太郎の心をザワザワと渦巻いて行くのが感じられた。

 

 それでも、蛍太郎は、少女の存在に心を慰められて、なんとか足を進める事が出来た。

 今は果たさなければならない役割があるのだ。この少女を地上に連れ出し、青空を見せ、食事をする喜びを経験させてやるのだ。

 それが蛍太郎に力を与えていた。逆に言えば、そんな事でも支えにしなければ、力尽きてしまいそうだった。

 そして、歩くごとに、今日初めて会ったばかりの、正体のわからぬこの少女に対して、不思議な、不可解な責任感が蛍太郎の中に生れていた。

 なぜ自分は、こんなにもこの少女を擁護したがっているのだろうか?歩きながらその事ばかり考えてしまった。

 

 気付くと、この階層を通り過ぎて、闇の中にいた。

 闇の中でも蛍太郎は歩みを止めず、しっかりと覚悟を決めた。

 惨劇の起きた現場へ戻るのだ。





 しばらく歩いて、再び悪夢の階層に到着した。

 蛍太郎が裂け目から落ちて、気付いた時にいた階層だ。

 しかし、そこは、惨劇の現場そのものではなかった。

 見覚えのない山の中腹だった。周囲を見ると、そこここに大小の化け物たちがうろうろしていた。大きな化け物が、小さな化け物を殺して喰らっているのも見つけられた。

 ここは修羅地獄だろうか、殺戮が当たり前で、出会い頭にいきなり牙をむいて殺し合っているのだった。

 そして、殺されれば喰われるのだ。

 多田たちの様な普通の人間など、檻に閉じ込められたニワトリの様に、いかにも喰ってくださいと言わんばかりの獲物だったのではないかと思った。


 蛍太郎は、自分が思っていたより冷静でいられた。ただ、この階層の化け物へは恐怖より、はるかに憎悪が上回っており、そのために、化け物を見ても気が動転したりしなかったのだろうか。

 それとも、その下の階層で、さらに常軌を逸する化け物どもを見て来たから、慣れてしまっただけなのだろうか。それは判別できなかったが、蛍太郎は速度を落とさず歩き続けた。

 生死がわからない夏帆と結衣の姿が見つけられないかと辺りを見回したりしたが無駄だった。


 そして、すぐに暗闇にのまれた。いよいよ地上なのだろうか・・・・・・。蛍太郎の心は急いた。

「もうすぐだ、がんばれ」

 蛍太郎は、少女を励ますとともに、自分をも励ましていた。

「あい」

 少女のいらえは短い。




 光が見えた。

 それは、澄み渡った青空に、光輝く日の光ではなかった。赤黒いぼんやりとした明かりだった。

「そ、そんな・・・・・・」

 蛍太郎は、期待を裏切られた衝撃に思わず膝をつく。少女は無表情で蛍太郎を見つめていた。

「さらに上の階層があるのか・・・・・・。だとすると、あとどれくらい上ればいいんだ?」


 蛍太郎は呟いた。心が折れてしまいそうだった。そんな時に、少女はまた蛍太郎の頭をなで始めた。蛍太郎は少女を見上げた。

「ケータロー」

「ほたる?」

 なぜそう言ったのか、蛍太郎にすら分からなかった。その少女とほたるとが重なって見えた気がした。

 そこで、ようやく蛍太郎は悟った。何故自分がこの少女への責任を感じ、守りたいと思いだしたのかが。

 蛍太郎は、この少女と妹を重ね合わせて、この少女を守る事で、自分の妹への後悔の念を解きほぐしていこうとしているのだった。それが蛍太郎にとっての救いとなると感じていたからだった。


 もうひとつ気付いた事があった。少女の髪のにおいである。

 これは蛍太郎の家で使っているシャンプーのにおいと同じだった。

 それがなぜかは分からないが、確かに同じ香りがほのかに匂って来ていたのだった。

 道理で嗅いだ事があるはずである。

 蛍太郎は、よくほたるの髪をとかしたり乾かしたり、結んでやったり、時には切ってやったりもしていた。

 だから、この少女の髪を嗅いだ事により、少女とほたるの同視化が強化されてしまったのではないだろうか。

 

 全てを知った上でこの少女がそれを企んだのなら、蛍太郎ももう助けようなどとは思わなくなっていたであろう。

 しかし、少女は不思議そうな表情で小首をかしげて「ほたる?」とつぶやいたのだ。

「俺の妹だ。知らないかな?」

「妹?妹とは?」

 少女は「妹」の定義も知らなかった。


 蛍太郎はため息を付きながら立ち上がると、少女の手を引きながら再び歩きはじめた。

 歩きながら、妹や家族について少女に教えていった。

 その上で、蛍太郎の妹、ほたるの事も話したが、少女は理解しているのか理解していないのか判別付きかねる様子で、不思議そうに聞き入っていた。


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