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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
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第4話 邂逅 6

 蛍太郎と少女は、真っ暗なトンネルに入った。

 無言で手を引きながら歩く少女に、蛍太郎は訊ねずにはおれなかった。

「ここは、やっぱり地獄なのかい?」

 少女は闇に溶け込んで、全く姿が見えないが、手をつないでいる事で、誰もいない世界に取り残されたのだという不安は抱かずに済んだ。


 さっきは友達の死を目の当たりにし極限状態だったので、そんな不安は抱かず、ただただ無我夢中だったのだが、今は少女がいる事で、逆に不安な気持ちばかりが増殖していた。

 自分はこの少女の事を何も知らない。手を引いて連れて行かれた先に何が待っているのかもわからない。

 だから、暗闇に飲まれると、何かしゃべらずにはいられなかったのである。


 少女は、また首でも傾げているのか、もとより何も答える気がないのか、返事を返してこなかった。

「地獄じゃないのか?」

 不安になる事で思い出した事があった。

「そうだ!この上にはとんでもない化け物たちがいるんだ。こっちが見える奴らもいる・・・・・・。あ、他の所では奴らに見つからなかったんだけど、この上の階層の奴らには見つかるみたいなんだ」

 しゃべりながら、蛍太郎は何を説明しているのかも分からなくなったし、何が言いたいのかも分からなくなった。

 何でもいいからしゃべりたかったのかもしれない。肝試しの時など、無意味にしゃべったり歌ったりして、怖い気持ちをごまかすのに似ていた。


「ここは、地獄」

 少女はぽつりと答えた。

「え・・・・・・?」

 唐突な答えに、蛍太郎が驚く。

「たぶん・・・・・・」

 答えながらあくびをする。

「地獄?」

「寝てる時に、夢で見た。ケータローの事も。だから時々起きた時には呼んでみた」

「夢で?あの小屋の中で見たのかい?」

 蛍太郎の質問の度に、手が一瞬引かれるように動くのは、もしかしたら頷いているのかもしれない。暗闇の中だから蛍太郎からは見えないのだと気付いていないようだ。

「ずっと、長い間寝ていた。時々少しだけ目が覚める事があった。その時だけ外に呼びかけられた。やっとケータローが来た」

 少女の答えは要領を得ない。

「でも、俺は地割れに落ちたらここに来たんだ。偶然だよ。それに、地割れに落ちた人間は他にもいたんだ」

 蛍太郎は急に感情が高まって行くのを感じた。込み上げてくる気持ちを抑える事ができなくなった。

「そうだよ、他にもいたんだ!でも、そいつらはこの空間に守られず、化け物どもに食われちまったんだぜ。なんでだよ!」

 蛍太郎は、多田や千鶴の最期を生々しく思い出し、涙が零れ落ちた。


「なんでだよ!なんでみんなを助けてくれなかったんだよ!お前が呼んだんなら、助ける事だって出来ただろ?みんないいやつらばっかりだったんだぞ!」

 知り合ったばかりだが、蛍太郎の事をすぐに受け入れてくれた。辛抱強く声を掛け続けてくれた。

 本当に、今思えば、もっと早くに打ち解けていれば良かったと思えるくらい、良い連中だった。

 蛍太郎はがっくり膝を付いて泣きじゃくった。ついさっきの惨劇は、瞬時に蛍太郎の心を破壊しそうな深い傷を負わせていた。

 涙が止まらなかった。

 感情も爆発しそうで、暗闇の中、目の前にいるであろう少女に怒りをぶつけたくてたまらなかった。


 その時、少女の手が、蛍太郎の頭の上に置かれた。

「なんで泣く?」

 少女の言葉に、蛍太郎は小さな声で呟く。

「知っている人が死んだんだ。悲しいんだよ・・・・・・」

 少女は、その意味が理解できたのか、理解できていないのかはわからないが、ぎこちない様子で、無言のまま蛍太郎の頭をなでる。

 まるで、小さい子を慰めるかのように。


 蛍太郎は一瞬驚き、それから何も考えられなくなり、小さい子が母親に慰めを求めるように、少女にしがみ付き泣いた。大声を上げて泣き続けた。

 少女はその間、ずっと蛍太郎の頭をなで続けていた。無言で、何の説明も答えも得られなかったが、今はその方が助かるような気がした。

 今はただ、無心に泣き叫びたかった。

 誰かに慰めてほしかった。

 それが自分より小さな少女だとしてもかまわなかった。


 大声で泣き叫んでいると、不思議と心が落ち着いてくるのがわかった。涙が止まり、呼吸が整ってくると、急に恥ずかしさが襲ってきた。

 怖ず怖ずと少女から体を剥がし、ゆっくり立ち上がった。少女を見失わないように、頭の上に置かれていた手を握る。

 そして、ガラガラに枯れてしまった声で、「ごめん」と言った。

「ごめん。・・・・・・その、ありがとう」

 少女の姿は見えないが、きっと首でも傾げているのだろう。

 しばらくしてから、少女は不思議な事を話し出した。

「ケータローもこうしてくれた」

「え?君の頭をなでたって?いつ?」

 蛍太郎は、少女と出会ってからの事を思い返してみたが、髪を切っているときにも頭をなでた記憶はなかった。

「いや、やってないよ」

 なんだか言い訳しているみたいな感じになっているのが情けなかった。

「夢の中で」

 少女はさっきから、夢の話をしていた。夢とはいえ、なんだか馬鹿に出来ない雰囲気だった。

「眠いといったら、なでてくれた。そしたら眠った」

 夢の中で眠るという事もあるものなのか、などと、妙な事に感心してしまい、結局それがどういう事なのか考えられなくなってしまった。

 さっきから、肝心な事は考えられなくなってしまっていた。

 無意識に事の真相に触れるのを拒んでいるかのようだった。

 確かに、今は真相など知りたくなかった。知ってしまったら―それがとても恐ろしい事だったら―今の蛍太郎には耐えられる自信はなかった。

「もう大丈夫だ。行こう」

 今度は蛍太郎が少女の手を引いて前を歩きだした。少女は少しの抵抗もなく、手を引かれるままに蛍太郎に従った。


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