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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
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第4話 邂逅 2

 水から上がったが、そこで、タオルなど持っていないのだと気付いた。仕方がないので、Tシャツを洗い、きつく絞ると体を拭いた。

 全身を拭き終わると、服を着る。ぬれたTシャツは、きつく絞ると手に持った。落雷を間近でうけたあの時に、時を刻むのをやめてしまった腕時計をズボンのポケットに入れる。


 小川沿いに歩いて行くと、すぐに木々の間から赤い屋根の小屋が見えた。

 小屋は、側面にも二つずつの窓があり、白いレースのカーテンが引いてあった。裏手の屋根には天窓も付いていた。煉瓦の煙突もよく見え、吹き出し口あたりは煤で汚れているようだが、今は煙が上がっていない。

 小屋の周りには、特に花が多く、みな同じ、白い小さな花が咲き乱れていた。

 側面から小屋に近寄り、窓から室内の様子を窺って見たが、薄いレースのカーテンが引いてあるだけなのに、なぜか中の様子は見えなかった。

 窓には、窓枠に棒を突き刺して固定する鍵がかかっていた。聞き耳を立ててみたが、コトリとも物音はしなかった。

 しかし、この中には確実に何者かがいるはずであった。


 小屋の側面を回り込んで正面に行くと、五段の階段があり、玄関のドアへと続いていた。

 チークニスで色づけた様なアーチ型のドアの横には、紐を引くと鐘が鳴るタイプの呼び鈴が付いていた。呼び鈴の上には青銅製の小鳥のプレートが付いているのが、メルヘンな世界を強調しているかのようだった。

 ドアには、丸い飾り窓も付いていたが、ここにもレースのカーテンが引いてあり、中の様子は全く見えなかった。


 蛍太郎は、少し戸惑いながらも、呼び鈴の紐を引いた。かわいらしい小さな鐘の鳴る音が響いた。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 しばらく待つ。

 しかし、何も応答がない。もう一度紐を引く。チリリーン、と心地よい音が響く。

 しかし、やはり何の応答もない。

 蛍太郎は、ポーチの手すりに、濡れたTシャツを干すように置くと、息を呑んでドアに近づく。



 蛍太郎は恐る恐るドアノブに手をかける。

 窓には鍵が掛っていたというのに、玄関のドアには鍵は掛かっていないようで、ガチャリと音がしてドアノブが手の中で回る。

 慎重にドアを押して中の様子をそっとのぞき見る。

 明かりがないためか、部屋の中は薄暗かった。

 「不思議」とか、「不自然」とか考えるのが面倒になってきた蛍太郎は、思い切って部屋の中に入り、ドアを後ろ手に閉めた。

 ここまできた以上、いまさら警戒したところで無意味だろう。


 ドアを閉めて顔を上げたとたん、急に部屋が明るくなった。

いや、眩しいくらいに、光が満ち溢れてきたと言ったほうが正確だろう。

 小さな小屋の中が金色の輝きに満たされた。

 部屋中で、金色の何かが煌めき、光を放っているようだった。

 蛍太郎は目がチカチカして、なかなか部屋の中の様子が確められず、眩しい輝きに眩暈を起してガックリと膝をついてしまった。

 目を閉じても、緑や白い光るものが目の奥にいるように感じる。


 一度目を閉じて、恐る恐る薄目を開けてみた。まずは床についている自分の手から見て、それがはっきり見えると、ゆっくりと目線を上げていった。

 すぐに金色の物が見えた。

 それは金色に輝きを放つ糸の束だった。

 その糸の束は、ウネウネと螺旋を描きながら、ずっと伸びていた。まるで黄金の大蛇のようだった。そして、小さな小屋の中は、そのほとんどの空間を黄金の蛇によって埋め尽くされていた。

 小屋の中の家具は、部屋の真ん中に置かれたベッドが一つあるだけのようだった。

 黄金の蛇は、そのベッドの上に一番集中しており、ベッドの姿をほとんど埋没させていた。僅かにベッドの端が見えるので、そこにベッドがあるらしいという事が推理されたのだ。


 そして、そのベッドの上に、一人の少女が座っているようだった。少女もまた、黄金の蛇にすっかり埋まっていた。

 辛うじて、少女の顔と、揃えて突き上げられた両腕だけが見えていた。

 少女の存在を確認すると同時に、黄金の糸の束と思っていた物の正体に気付いた。

 それは、部屋中に溢れるほどに伸びた、輝くばかりの少女の髪の毛だった。


 ウネウネと螺旋を描くようなカールのかかった美しい金髪は、蔦植物のように柱や梁にも巻きついて、天井にまでも届いていた。

 少女の突き上げられている腕には、黒光りする太い鎖が巻きついていて、その先端は天井の梁にめり込んでいた。

 髪の毛にすっかり埋まった体にも何本もの鎖が巻きついているようで、体があるであろうあたりから無数の鎖が伸びて、四方の壁や柱にめり込んで少女をこの小屋につなぎ止めていた。

 そして、少女の顔には、何かが書かれた紙の短冊が張り付けられていた。

 その短冊は、どうやら御札のようで、鎖や小屋の壁のあちこちにも張り付けられていた。

 御札を顔に張り付けられた少女の様子は、まるで子どもの頃に見た映画の「キョンシー」のようだった。

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