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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
蘇る狂気
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第1話 初夏 5

「ほんと、何だろーね。こんな時期に転校生。ん?転入生っていうのかな?まあ、どっちでもいいけど」

 美奈が千鶴の机に腰掛けて笑って言う。

「うん」

 千鶴はややぎこちない笑いをする。東京からの転校生の男子。怖いイメージしか沸いてこない。

 せっかくこのクラスで、少しずつ男子にも慣れてきたし、ちょうどいい人間関係が出来上がったのに、ここに未知の異分子が入ってくるのに抵抗感がある。

「私って、保守的なのかな」

 千鶴は口の中でつぶやいただけなのに、美奈が耳ざとく聞き付けた。

「ええ?!自覚なかったの?保守的じゃない人間が進路希望で『主婦』なんて書かないって」

「ひょええええっっ!そ、それはもう言わないで!!」

 真っ赤になる千鶴。

「全く、誰の『主婦』になるつもりだったのか、お姉さんはそこのところをきっちりみっちり、小一時間ほど問い詰めたいよ」

 転入生騒ぎをしていたはずの近くの男子たちが耳をそばだてる。

「そ、そんなの考えてもいなかったの!魔が差しただけだから」

「くっ・・・・・・。将来の夢が『お嫁さん』とかって、どんだけ男子人気を高めたいんだい、この子は!!」

 美奈が面白がって声高に言うので、千鶴は真っ赤になってしまう。確かに言われてみればとんでもない事を書いたものだ。我ながら『頭、お花畑』と思わざるを得ない。



 予鈴が鳴り、ざわめきを残しつつも、生徒たちは自分の席に着く。

 すぐに担任がやってきた。担任は四十代の女性で、どうやら独身らしい。生徒とコミュニケーションをとるタイプではないので、取っつきにくい。

「聞いてると思うが、転入生だ」

 実に淡泊な先生だ。無駄がない。ついでに人気もない。

 その担任に続いて入ってきたのは、また同じく淡々とした様子の男子だった。緊張するでもなく、無表情に教室に入ってきた。急なことで制服が間に合わなかったようで、紺のズボンの制服に、白い縦線が一本だけ入った紺のネクタイ姿。白いワイシャツには紺のラインが一本入っている。

 肩からは、バスケットボール用のショルダーバック。

 適度な長さの髪は軽く流れるようにはねていて、すっきり整った顔立ちと相まって、とてもスタイリッシュに見える。

 「東京から来た」という前情報が、そんな印象を抱かせたのだろうか・・・・・・。


「山里蛍太郎です。よろしくお願いします」

 イメージ通りに淡泊な挨拶だったが、クラスメイトは、女子はもちろんだが、男子も大いに沸いた。



 山里蛍太郎は、クラスでも浮いた存在になっていた。これはクラスメイトが狭量だったわけではない。彼自身の方がクラスメイトと距離を置きたがっているようだった為だ。

 彼は無口で無表情。

 協調性が無い訳ではないのだが、必要以上に人間関係を増やしたがっていないのは、誰の目からも明らかだった。

 女子の間では、そんな態度が「クールでかっこいい」ともてはやされたりもしていた。


 クラスメイトは狭量などでは決してない。むしろ、底抜けにお人好しなのではないかと思う。

 特に男子。

 普通であれば、都会から来たから気取っていて、田舎者の自分たちとは付き合えないんじゃないか、などと言って、攻撃したり、不快に思うであろうところだが、どれだけ素っ気ない態度を返されても、しつこく話しかけて友好関係を築こうとしていた。


「山里~。今日帰りに海に行かねぇ?」

「釣りして遊ぼうジャン」

「磯で小魚探しの方が楽しいだろ?」

「男子って、ほんとにガキだね。高三にもなって磯遊びとかって・・・・・・」

 美奈がため息をつく。さすがにかばいきれない千鶴は素直にうなずく。

「悪い。今日も放課後勉強があるんだ」

 東京から来た新クラスメイトは今回も断っていた。

「勉強とかって、真面目だな」

「ま、ま。やっぱ転校って大変なんだよ。俺らした事ねぇからわかんないけどさ」

 いつも始めに声かけたり、かばったりするのは多田寅太だった。

「だな。先生とかにもしょっちゅう呼ばれてるしな。俺、転校とかしたらやっていける自信ないわ」

「勉強教えてやるって自信あるやついる?」

「ノ~~~ッ!俺らじゃ無理ジャン」

 多田が大げさに落ち込むふりをすると、みんなして笑う。

「すまんな、また誘うな!」

 誘って断られたのに、逆に謝る始末である。山里も、すまなさそうに会釈で返す。



 千鶴はつくづく良いクラスだと思う。

 千鶴もこのクラスでなかったら、辛かったのではないかと思う。


 千鶴自身は自覚しているが、自分は周りがイメージしているような「いい子」ではない。

 幼い頃から自分の容姿が「かわいい」という自覚があった。周りの人もそう褒めてくれる。

 小学校の頃には「将来はアイドルになりたい」と、半ば当然そうなるだろうとすら思っていた。

 鏡を見るのも、髪をいじるのも大好きだった。

 「かわいい」と言われる為にはどうしたらいいか研究もしたりしていた。

 中学の時は「いい子」のふりをして、容姿が劣るクラスメイトを見下すような心境になっていた。


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