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深淵のルシオール  作者: 三木 カイタ
第一巻 黄金の髪の魔王
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第3話 地獄 3

 悲鳴が上がった。

 久恵たちも怪物に気づいたようだ。

 久恵と結衣と夏帆は、すぐに立ち上がった。三人で体を震わせて成す術もなく固まっていた。

 森田は仰向けに寝かされたまま、意識を取り戻す気配はなかった。

 小夜子は、座りこんだまま立ち上がる事も出来ず、恐怖に顔を引きつらせて口をパクパクさせていた。口の横から泡を吹いて、失神寸前の状態だった。

 

 のそりのそりと、その怪物は歩を進める。

 ようやく我に返った久恵は、小夜子を立ち上がらせようと腕を引っ張る。夏帆と結衣も倒れている森田を引きずろうと体に手をかけた。

 しかし、二人とも全く動かす事ができなかった。

 結衣と夏帆は、森田から離れて、なおも小夜子を助け起こそうとしている久恵の腕を掴んで、小夜子から引き離す。

「ダメよ!ダメだったら!」

 そう叫ぶ久恵を引きずるようにして、化け物から離れようとする。

 しかし、数メートルも行かないうちに立ち止まる事になった。反対からも、別の化け物が出てきた。

 その化け物は、最初の化け物とは全く違う姿をしていた。

 蛇のように節のない長い胴体だが、ムカデのように無数の小さな足が突き出ていた。不快さを誘うのは、その足が人間の足のように見えたからだ。

 そして、頭と思われる部分は、まるで巨大な花のようだった。花と言っても、美しさを感じさせるものではなく、見るからにおぞましい花だった。

 形だけは薔薇のようにも見えたが、花弁は分厚い深緑の肉の花で、中央には目玉があり、よく見ると、目の下の花弁の下に隠されたような口が開いていた。

 その口から、触手のような舌が垂れ下がっていた。やはり巨大な姿で、花弁の中央の大きな一つ目には、それでも知性が窺えた。残忍で、無慈悲で、貪欲な知性が・・・。


 化け物はそれだけではなかった。少し離れた岩の上にも巨大な翼をもった化け物が降り立った。地面から、巨大なドリルのようなものも飛び出して来ていた。どの化け物も、象より一回り大きかった。


 久恵たちは、化け物たちに囲まれつつあった。

 そんな状況の中では、ただの女子高校生の久恵たちは、悲鳴をあげて立ち尽くすしかなかった。

 最初の巨獣が、ゆっくりと小夜子と森田の方に向かった。小夜子は眼を皿のように大きくし、口をパクパクさせて、迫りくる巨獣を見据えていた。化け物は、目がないのに小夜子の様子を楽しそうに眺めて、ゆっくりと大きな口を開いた。そして、気を失って倒れている森田にその牙を突き立てた。あっけなく森田の胴体が引き裂かれた。

 久恵たちの絶叫が響く。小夜子は、間近でその光景を眺めつつ、声一つ上げることができなかった。恐怖のあまり、呼吸困難に陥っているようで、顔が紫色になってきている。割座になっている足の間から液体が流れ出し、地面に広がって行った。

 動けない小夜子をあざ笑うかのように、化け物はゆっくりと森田を食らう。ビチャビチャ、ゴリゴリと、悪夢のような音が響く。


 蛍太郎は半狂乱で叫びながら、なんとか前に進もうと暴れまわっていた。叩こうとしても、蹴ろうとしても、勢いをつけてジャンプしても、やはりどういう訳か、全く進めなかった。

 こちらからは見えるし、音もはっきり聞こえてくるにもかかわらず、久恵たちも、化け物たちも、全く蛍太郎の存在に気付かない。


 これが事態を改善する助けにはならないだろうか。

 最初の化け物は、蛍太郎の体の中をすり抜けて行った。つまり、ここは同じ空間であるが、別の次元であるかもしれない。そういう事があるのかもしれない。

 もし、蛍太郎の空間に久恵たちを連れ込める事が出来たなら、助かる可能性が残されている。そんな、藁をもすがりたい思いだった。

 しかし、どれだけ大声を出そうと、その声は久恵たちには届いていなかった。


 化け物は森田をすっかり平らげると、ゆっくりと小夜子に向き直る。

 大きく裂けた口から、森田の血が滴り落ちていた。化け物は、血が滴る口元を舌舐めずりする。


 そして、鉤爪の付いた腕を伸ばすと、小夜子の左腕を掴んで軽々持ち上げた。

 持ち上げられた小夜子は、ぐったりとして力が入らず、左右に振られると、手足がブラブラ揺れて、まるで人形のように見えた。

 

 そして、化け物は口を上に向けて広げると、持ち上げた小夜子の、すらりと伸びた白い左足に、無造作にかじりついた。

 鮮血が飛び散り、左足は根元からぶっつりと噛み切られていた。小夜子はようやく悲鳴を上げた。

 しかし化け物は、小夜子の様子にはお構いなしに、ゆっくりと小夜子の体を味わうつもりのようだった。

 満足そうに、「ゲッゲッ」と呻くと、小夜子の足を飲み込んだ。そして、舌を伸ばすと、血が噴き出る傷口をペロペロとなめて、血の味を楽しみだした。


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