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違和感

あれから妹はいつも通りだった。

あの日、妹はたまたま疲れていて反応できなかったのではないかと思ってしまう。

思い出すだけで恐怖を感じてしまっていた。

日常を送ってる妹を見るたびにあの日の出来事が幻だったと記憶薄れさせた。


地獄に突き落とされたかのような暑い日々を過ぎ去ろうとしていたと同時、異常に見えた妹の姿の片鱗すら見えずにいつも通りな様子を見るたびに、あの日の出来事が幻だったと記憶を薄れさせた。


「あれ?制服は?」


中学三年間通い見慣れた制服を身に纏う筈の妹が体育の時間に使用されるジャージを着ていた。


「ついに負けたよ。朝練はジャージが楽だよね」


「でしょ?前から言ったじゃん」


運動部に所属してる妹は朝練が必須でであった。

ジャージで登校するのがダサいと感じていた妹は制服で登校し態々着替えていた。

私自身通った道であり、ダサいという認識はあっても朝の早い時間に余計な手間を送りたくなかった。

着替えるための時間確保のために元々早めに起きなくてはいけない時間を更に早めるのはキツイものだった。

その分、ギリギリまで寝ていたい。

妹もその結論に至ってたのをみて慣れたのだと感じる。

周りがジャージ登校してしまってるからダサいと感じなくなってしまう。

これが青春のマジックなのだろうか。


颯爽と登校した妹を見送りリビングに入る。

そこには優雅に朝ごはんを食べていた両親。


「おはよう」


「あら、休日に珍しく早起きね」


休日は午前中ずっと寝たりゴロゴロとしている事が多く部屋に引きこもっていた。


「たまたまね。お腹空いた」


そう言いながら定位置に着く。


「えー待って」


お母さんはそう言いながら食べていたご飯を中断して席を立ちキッチンへと行った。


「さつきジャージだったよ」


「あんなにダサいからやらないって言ってたのにね」


スープと取り皿とコップをお母さんは私の前に置く。

サラダやパン等、大皿に乗っかっていて好きなのを取るスタイルだ。


「夏の間もジャージだったわよ」


「最近じゃなくて?」


「そうよ」


そんなに前から妹は脱落していたとは思わなかった。

夏の間は上は半そでTシャツに下はジャージのを捲って着るのがあるあるだった。


「日焼けしたくないんだって」


前から日焼け止めのクリームを塗って対策をしていたが直接肌を日に晒さない系女子になったのか...。

一年前、まだ妹が小学6年生だった時は日焼け止め塗って半袖で友達と走り回って遊んでいた印象が強かった。

中学に上がるとそんなに変わるのかと自分が中学生だった時を思い出そうとした。


「もうお腹いっぱいなのか?」


ふいにお父さんに声を掛けられて気づいた。

思考に耽て食事の手を止めていた。


「まさか何処か体調悪いの?」


「ううん。寝起きでボーッとしてただけ」


続けて心配の言葉をくれたお母さんに慌てて返事をした。

食べ進めて少し温くなったスープに口をつける。

お母さんの手作りのオニオンスープは玉ねぎの甘みを生かした美味しい一品である。

作っている所を見学して分かったのはじっくりと炒めて煮込むときも焦がさないように弱火で時間かけて玉ねぎをトロトロにしていた。

スープ一つでここまで手間の込んだ料理だと知ってからは家族全員の好物となった。


「美味しい」


「そう?ありがとう。嬉しいわ。そういえば、久しぶりに作ったわね」


最近、仕事が忙しくて時短の料理を振舞っていた。


久しく口にしたオニオンスープはぬるくなっても愛情を感じて、異常状態の妹を見た日からどこか緊張感が走っていた心をじんわりと解していた。


「そうそう。今日はお父さんとお母さん、夜ご飯食べに行くね」


弾む声でお母さんは宣告した。


「そういえば、今日なんだね~」


「そうなんだよ~」


ふと、思い出した私にお母さんの声は浮かれていた。


両親は一年に一回子供と離れて二人で過ごす習慣があった。

去年、妹が小学性だった時までは近所に住んでいる祖父母の家に預けられていた。


「何かあれば、おじいちゃん家に行くんだよ」


「そうよ。寂しくなって私達に電話してもいいのよ?直ぐに切り上げるから」


「大丈夫!なんかあれば、爺ちゃんの家に行くから安心して!高校生にもなって寂しいとかないから仲良くデートに集中して」


両親が居ない夜は非日常的でとても楽しみにしていた。


「は~あ、この間までママ~ってトイレまで追っかけてのに...なんか、寂しいわ」


「いつの話してるの...」


両親からすれば高校生になった私でもまだまだ子供だと言われてる。


「あっ!今日バイトのシフト入ってるかも」


「えっ...何時?」


スマホを出してシフト表を確認する。


「11時から16時まで入ってる」


「さつきと大体一緒だね」


大会が近いらしく、一日中部活をやっていた。


「レギュラーに選ばれたんでしょ?」


「そうなの。一年で凄いよね」


元々、妹は運動神経が良かったと思っていたけど直ぐにレギュラーに選ばれる程度だとは思わなかった。

そして、妹はハマったかのように家でもトレーニングを続けていた。


妹の凄さを話題に朝食を終えた。

自分の部屋に戻ってバイトの時間まで適当に写真投稿で有名なSNSを開く。


本日はシフト時間通りに終わることは無かった。

休日は忙しくて店長に頼まれて残業して働くことになった。

19時過ぎ、辺りは暗くなっていた。

朝限定のメニューで余ったパンを大量に貰って家に帰る。

妹のお気に入りのパンがあるから喜んでくれるかなと楽しみにしていた。


「ただいま」


真っ暗なリビング。

気にせず、自室に行こうと二階に上がった。

ふと、妹の部屋のドア下を覗いた。

ドア下の隙間から明かりが無かった。

まさか...。

妹が異常だった時を思い出す。


トントン。


二回ノックをしてみた。

中から反応が無くてドアを開けると___。


「さつき?」


夜になると閉められてる筈のカーテンが開いていた。

月明りが部屋の中を照らす。

前の時と一緒の所に座っていた。


「そんな所で寝てると風邪引くよ?」


電気を付けた瞬間。

ポタポタと滴る真っ赤な血液。


何が起きてるのか分からなかった。

だが、妹の命が危ないと必死に駆け寄った。

足に力が入らなくて転びそうになりながら妹の傍に...。


お腹に包丁が刺さっていた。


「さつきっ」


呼びかけてもその日、目を開けること無かった。

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