第6章 予期せぬ事件
それから数週間が過ぎ、リオたちの修行は順調に進んでいった。剣術では相変わらず上達が早く、魔法の才能も開花していった。
ある日の午後、リオとエマは町の市場に買い出しに出かけた。
「ねえリオ、あっちの八百屋さんによろうよ」
エマに導かれるまま、リオは人ごみをかき分けて進んでいく。そのとき、
「あっ!」
リオは思わず声を上げた。目の前で、一人の少年が果物を盗み、走って逃げ出したのだ。
「待て、こら!」
八百屋のおじさんが怒鳴る。しかし、少年の姿はすぐに人ごみに紛れてしまった。
「追いかけよう!」
リオは咄嗟にエマの手を引いて、少年を追いかけた。
人ごみをすり抜け、路地を駆け抜ける。不思議なことに、リオの目には少年の姿がはっきりと見えていた。まるで、どこに曲がるべきか誰かが教えてくれているかのように。
「リオ、あっち!」エマが指さす方向に、確かに少年の姿があった。
二人は全力で走り、ついに少年に追いついた。
「はぁ...はぁ...もう逃げないで」リオが息を切らしながら言う。
少年は怯えた表情で立ち止まった。痩せこけた体つきで、服もボロボロだ。
「ごめんなさい...でも、妹が病気で...」
少年は泣きそうな顔で説明した。家族が貧しく、病気の妹のために食べ物を盗んだのだという。
リオとエマは顔を見合わせた。
「分かった。一緒に八百屋さんに戻ろう。僕たちが説明するから」
リオの優しい言葉に、少年は驚いた様子で頷いた。
三人で八百屋に戻ると、リオとエマは事情を説明した。最初は怒っていた八百屋のおじさんも、事情を聞いて表情を和らげた。
「そうか...大変だったんだな」
おじさんは少年を見つめ、しばらく考え込んだ。そして、
「よし、うちで働いてみないか?給料はちゃんと払うし、時々野菜もおまけしよう」
少年の目が輝いた。「本当ですか!?ありがとうございます!」
リオとエマも安堵の表情を浮かべた。
その夜、リオは再び自分のステータスを確認した。
『スキル:運 Lv4』
『新スキル獲得:直感 Lv1』
(直感...?)
リオは首を傾げた。少年を追いかけるとき、なぜか進むべき道が分かったのは、この新しいスキルのおかげだったのかもしれない。
「運のスキルが上がるたびに、新しい能力が芽生えていくのかな...」
リオは窓の外を見つめながら、これからの未来に思いを馳せた。自分の力が強くなっていくことへの期待と、その力をどう使うべきかという責任感。様々な思いが胸の中でうねった。
「とにかく、明日からまた頑張ろう」
リオは心を落ち着かせ、ベッドに横たわった。明日はどんな出来事が待っているのだろうか。そんなことを考えながら、少年は穏やかな眠りについたのだった。