第3章 修行の始まり
リオが広場に着くと、先ほどの厳しい表情の男性が待っていた。周りには10人ほどの少年少女たちが集まっている。どうやら同じ年頃の子供たちのようだ。
「よし、全員揃ったな」男性が声を上げた。「俺はレオン・ストームブレイド。お前たちの指導官だ。今日からお前たちは王国騎士団の見習いとして、厳しい修行に励むことになる」
ざわめきが起こる中、リオは驚きを隠せなかった。騎士団の見習い?自分にそんな素質があるのだろうか。
レオンは続けた。「まずは基礎体力だ。3キロ走るぞ!」
「えっ」リオは思わず声を上げそうになった。10歳の体で3キロも?
しかし、文句を言う暇もなく、全員が走り始めた。リオも必死について行く。
最初の1キロは何とかなったが、2キロを過ぎたあたりから息が上がり始めた。脚も重くなり、ペースが落ちていく。
(もうダメかも...)
そう思った瞬間、リオの足元に小さな石ころが転がっていた。普通なら躓いてしまいそうなものだが、リオの足は不思議とそれを避けていた。
「おっと」
バランスを崩しかけたリオだったが、それをきっかけに体が前のめりになる。するとどういうわけか、そのままの勢いで走り続けられるようになった。
(なんだこれ...?)
気づけば、リオは集団の中程に位置していた。最後尾になると思っていたのに、まさかの結果だ。
3キロを走り終えると、レオンが再び全員を集めた。
「次は基礎筋力だ。腕立て伏せ、50回」
リオは内心で悲鳴を上げた。筋力は平均的なはずなのに、こんなにハードな練習についていけるのだろうか。
しかし、不思議なことに腕立て伏せを始めると、体が軽く感じられた。50回と言われて絶望的だと思ったのに、40回を超えてもまだ余力がある。
「48...49...50!」
リオが最後の一回を終えると同時に、隣で練習していた少年が腕を滑らせて倒れてしまった。その勢いでリオにぶつかりそうになったが、リオは咄嗟によけることができた。
「おい、そこの小僧」レオンがリオを指さした。「名前は?」
「リ、リオです」
「ふむ。お前、なかなかやるじゃないか。明日からはお前がペースメーカーだ」
「はい!」
リオは困惑しながらも、しっかりと返事をした。
その日の修行が終わると、リオは疲れ切って自室に戻った。体は痛いが、不思議と達成感も感じていた。
「やっぱり、この『運』って凄いのかも...」
リオはベッドに横たわりながら、今日一日を振り返った。
走るときに石を避けられたこと。
腕立て伏せで体が軽く感じられたこと。
隣の少年の失敗に巻き込まれなかったこと。
どれも小さな幸運だが、それらが重なって好結果につながっている。
「でも、これだけじゃ足りない」
リオは天井を見上げながら考えを巡らせた。運だけに頼っていては、本当の強さは得られない。基礎をしっかり固めなければ。
「よし、明日からもっと頑張ろう」
そう心に誓って、リオは瞼を閉じた。明日はどんな修行が待っているのだろう。期待と不安が入り混じる中、少年は深い眠りについたのだった。