第2章 最弱スキルの少年
柔らかな陽の光と小鳥のさえずり。遼はゆっくりと目を開けた。
「ここは...?」
見慣れない天井。木造の梁が見える。遼は慌てて起き上がり、周囲を見回した。
質素だが清潔な部屋。どこか中世ヨーロッパを思わせる雰囲気だ。窓の外には緑豊かな森が広がっている。
「本当に...異世界に来たのか」
呟きながら、遼は自分の体を確認した。服は麻のようなざらっとした素材の簡素な作り。手足をまさぐると、筋肉が落ち、少し小柄になっているのがわかる。
「どうやら子供の体になったみたいだな...」
その時、ノックの音と共にドアが開いた。
「リオ、起きたか?」
中年の男性が顔を覗かせる。鋭い目つきと、たくましい体つきが印象的だ。
「あ、はい...」
遼...いや、リオは戸惑いながら答えた。
「よし、準備ができたら広場に来い。今日からお前の修行が始まるぞ」
男は厳しい口調でそう言うと、さっさとドアを閉めて立ち去った。
「修行...?」
リオは困惑しながらも、とりあえずベッドから降り立った。部屋の隅に置かれた鏡に映る自分の姿に驚く。
確かに10歳くらいの少年になっていた。黒髪に茶色の瞳。日本人の面影は残っているが、どこか異世界の雰囲気が漂う。
「よし、まずは状況を整理しないと」
リオは深呼吸をして、頭の中で情報を整理し始めた。
1. 自分は事故で死に、異世界に転生した
2. 与えられたスキルは「運」のみ
3. ここは「ファンタジア」という魔法と剣技の世界
4. 今の自分はリオという10歳くらいの少年
5. どうやら今日から修行が始まるらしい
「運だけか...他のスキルは無いのかな」
リオは念のため、心の中で「ステータス」と唱えてみた。すると視界の端に小さな半透明の窓が現れた。
『名前:リオ』
『年齢:10歳』
『スキル:運 Lv1』
『ステータス』
『 筋力:5』
『 敏捷:5』
『 知力:5』
『 精神:5』
『 幸運:10』
「やっぱり運しかない...しかもレベル1か」
他のステータスは平均的な値のようだが、幸運だけが際立って高い。
「これでどうやって生き残ればいいんだ...」
不安を感じながらも、リオは部屋を出る準備を始めた。扉の横に掛けられた素朴な服に着替え、深呼吸をして部屋を後にした。
廊下を歩いていくと、階段を見つけた。どうやらこの建物は二階建てのようだ。階下に降りると、質素な作りの食堂のような場所に出た。
「おはよう、リオ」
優しそうな中年の女性が声をかけてきた。
「あ、おはようございます」
「朝ごはんをどうぞ。今日から大変だろうけど、頑張ってね」
テーブルの上には、パンと野菜のスープ、そして小さな果物が置かれていた。
「いただきます」
リオは空腹を感じていたので、ありがたくいただいた。味は素朴だが、体に染み渡る温かさを感じる。
食事を終えると、先ほどの女性が外に続くドアを指さした。
「広場はあっちよ。気をつけて行ってらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
リオは一礼すると、ゆっくりとドアに向かった。開けると、まぶしい朝日が目に飛び込んでくる。
「さて...」
深呼吸をして心を落ち着かせると、リオは一歩を踏み出した。これから始まる未知の世界での生活。不安と期待が入り混じる中、少年の冒険の一歩が始まったのだった。