〈光の御子〉の犠牲【ルーカスと紫桔舞】
シリーズモノの短編集なので、こちらの話は本編「光と共に」と前日譚の短編「光と共に~あの日の影を追い求めて~」を読んでからをオススメします。
〈光の御子〉がガッツリ絡んでくるお話なので(汗)
これ単体だとあまりピンと来ないと思うので、よろしくお願いいたします!
それは、紫桔舞の言葉遣いに変化が生まれた頃のこと。彼女が光陽王国の王都へやって来てから3年ほど経った頃。紫桔舞の言葉が優しくなってきた時期のことだった。
「あなたも━━、香花が好きなのね」
「━━紫桔舞か。いきなりなんだよ」
団員の紫桔舞の言葉に、ルークことルーカスはそう口にする。2人の視線の先には、いつも通り表情の乏しい聖と、笑顔の香花の姿があった。距離はあるが、2人の視力はそれを容易に捉える。
「見ていたら判るわ」
丁寧な語尾でそう口にする紫桔舞。
「……場所変えような」
そう言って歩き出すルークに、紫桔舞はついて行く。
「で、オレが嬢ちゃんを好きかって?」
〈混沌の矛盾〉に与えられた広いダイニングルームにやって来たルークと紫桔舞。
紫桔舞が紅茶を入れていると、ルークが壁に背中をつけて寄り掛かりながら、腕を組んで訊いてくる。
「そう。━━見ていれば判るわ」
「そんなにオレ、顔に出てるか?」
そう口にするルークに紫桔舞は答える。
「顔と言うより、目かもしれない」
「……目?」
「あなたが香花を見る目が、とても楽しそうで慈しみが多かったから」
でも、と紫桔舞は続けた。
「聖と一緒にいる香花を遠くから見る目が、どこか切なそうな時もあったからよ」
それに、と更に続ける紫桔舞。
「香花は、あなたにとって唯一対等で、そしてあなたより強い存在だった。力も精神力も」
━━違う? と紫桔舞はルークに視線をやって問う。
「お前がそこまでお見通しなら……いや、嬢ちゃんはずっと解ってるんだろうな」
ルークは窓の奥の空に視線をやりながら、言葉を零す。
「……いつから香花のことを━━?」
紫桔舞が問う。
「初めて嬢ちゃんと会って一緒に旅をして、オレの世界は広がった。嬢ちゃんはずっと前から明るくて、そして光を放ってた」
また会えるなんて思ってなかったが、あの頃に惚れたのは事実だな。とルークは口にした。
「……あなたと香花は1500年以上の付き合いなんでしょう? 何故、そんなに長い間一緒にいて、想っているだけなの」
「嬢ちゃんを見れば解るだろ。嬢ちゃんの使命は途方もない。オレなんかよりも、もっと特異な存在だ。……お前は話に聞いただけかもしれないが〈光の御子〉だからな。それはそうだろう。━━でもだからって、普通の女の子みたく嬢ちゃんも幸せになって良いはずだって、思ったさ。オレもな」
「なら━━どうして」
「嬢ちゃんに訊いたことがある。子供が欲しいって思ったことはないのかってな。悩んだ末に、あると嬢ちゃんは答えた」
ルークは続ける。
「だが、それと子供が〈光の御子〉の跡継ぎという重い運命を背負うのは別問題だって嬢ちゃんは言った。……嬢ちゃんはな、聖族と契ることが絶対じゃないと考える。そりゃ〈光の御子〉なんだ。そう考えるだろうさ。だが、その決断によって子供の力が半減した時に、子供自身が自らを守る術を持てない可能性を容認できない。……それが嬢ちゃんの答えだった」
ルークは視線を紫桔舞に戻す。
「そんなの聞いたら、言えるわけないだろ? オレは嬢ちゃんの想いを尊重する。そう決めたんだ」
ルークと離れて、城の長い廊下を歩く紫桔舞。
自分のことではなく、自身の子供になる他者を想う。香花らしいと紫桔舞は思った。しかし、同時に宿命によって娘としての幸せすら望めない彼女を思えば切なくもなる。
想像すら出来ないと、紫桔舞は語る。どんな想いで、僅か16にして世界を背負ったのだろう、と。
この世界は〈光の御子〉である香花の犠牲の上に成り立っていると、香花の身近にいる紫桔舞は思うのだ。
城の庭で聖と共に笑っている香花の姿が紫桔舞の目に映る。彼女の笑顔は偽りではない。しかし、紫桔舞は知っていた。香花の考えを。
世界を背負うのは自分だけでいい。他の誰にも辛い宿命は背負わせない。それが香花の決意だった。
それを知っていた紫桔舞を含める〈混沌の矛盾〉。こちら側の世界、現世界最強の魔導騎士団〈混沌の矛盾〉は、香花に救われた者が殆どだった。香花を想う者ばかりなのだ。
(━━決して、あなたを独りにはしないわ)
紫桔舞は思う。自身を孤独から救ってくれた恩人に対して。
紫桔舞は香花への気持ちを更に大きくするのだ。
はい! というわけで、ルークことルーカスと、紫桔舞を中心に香花のことがガッツリ絡んでくるお話でした!!
作者はルークと紫桔舞の組み合わせが大好きです。ルークと組み合わせるなら、紫桔舞か香花しかいないですね! ホント!
え? ルークって本編に出てきたかって? いやー実は本格的にはまだですね。でも前日譚の短編「光と共に~あの日の影を追い求めて~」には登場してますよ。3ページ目くらいに。
ルークはとてもお気に入りなのに、全然出番なくて作者の私は悲しいです。なので短編集にも出しました!!
とても良いお話になったと、個人的には思っております!
この調子でルークの出番も増やしたいですね!!
お読み頂きありがとうございました!!