表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

幼少期の一時【透琉と歌恋】

 


 そのころの彼らは、日々(ひび)一緒いっしょにいるのが楽しくて。ただ、楽しかったのだ。自分じぶんたちたみの生きる世界のせまさなんて、らなかった。



 ◇◇◇


 

「と。お。る……!」


 よわい3歳(さんさい)おさない女の子は、幼馴染おさななじみの名前を練習していた。何度なんども、何度も。


 となりにいるおない年のおとこの子は、子供こどもけの本を手に取って読んでいた。


 性別せいべつちがう2人のおさな子供こどもは、そのころから学力がくりょくちがいがあった。


 (のち)に、学問がくもん天才てんさいだと思われるようになる男の子、透琉とおるは、歌恋かれんばれる女の子の学力がくりょくが自分とちがう事をそのおさな年齢ねんれいなんとなくで理解りかいしながらも、それでも彼女かのじょからはなれる事はなかった。


 学問がくもん天才てんさいと、おなたみの女の子は幼馴染おさななじみとしてともそだつのである。


 数日すうじつち、歌恋かれんはお手本てほん文字もじを見ずに透琉とおるの名前を平仮名ひらがなで書く。その時、「()()()()にかけるようになったね」と透琉とおるに言われた言葉がうれしくてたまらないという、可憐かれん幼馴染おさななじみの笑顔えがおを、透琉とおるはきっとわすれないだろう。


 いつだって、彼女の一生懸命いっしょうけんめいで、感情かんじょうゆたかな可愛かわいさが、透琉とおるたからだったのだから。




 歌恋かれんは女の子だった。子供こどもだった。うたも、はなも、子供こどもの女の子がきそうなモノは大体だいたいきだった。


「とおる! このはななんていうの?」


薔薇ばらだよ」


 よわい6歳(ろくさい)になるころには、透琉とおるはある程度ていど漢字かんじきが出来できるようになっていた。もっと情報量じょうほうりょうおお場所ばしょそだったなら、薔薇バラこまかい名称めいしょうまでおぼえていただろう。


「ばら?」


とげがあるからさわっちゃダメだよ」


「とげ? ほんとにある!」


歌恋かれんさわらない」


 ツンツンとっつこうと手をばす歌恋かれんに、もう一度そう口にする透琉とおる


さわるなら牡丹百合(ぼたんゆり)にして」


 牡丹ぼたん百合ゆり別名べつめいチューリップ、鬱金香(うっこんこう)ばれるはなである。


「なんで? ばらはダメなの?」


怪我けがするからね。いたいのがきなの?」 


 歌恋かれん疑問ぎもんに、透琉とおるはそうかえす。


「すき……じゃない……」


「じゃあ薔薇ざらさわっちゃダメ。とげがないはなならいくらでもさわればいいんだから」


 歌恋かれん透琉とおるの言葉にうなづき、そして2人は歩く。いつものようにあそんで、いつものよう日々(ひび)ごす。――この世界せかいせまさに気付きづいても、彼女かのじょいて選択肢せんたくし透琉とおるの中にはなかったから。


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ