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脳あるオタクは爪を隠す。


――――


 ようやく学校が終わった。

 休憩時間のたびに堂園と天宮が神谷のもとに来る為、神谷と席が近い俺に頻繁に声をかけてきた。


 その都度寝ているフリをして無視していたのだが、しつこく話しかけくる。

 因みに今に始まった事ではなく、ずっとである。

 早く席替えしないかな。


 学校が終わり、バイト先に向かおうとする道中。


「ぶつかっておいて謝罪もねぇのかよ!!」


「ひっ、あ、謝りましたけど……」


 目の前でうちの学校の制服を着た女子生徒が明らかに柄の悪そうな奴に絡まれていた。


「ぁあんっ!?謝るだけじゃ足りねーよ。慰謝料を出せや。払えないなら体で払ってもらおうか?」


「そ、そんなの無理ですよ……」


 女子生徒は泣きそう顔をしており、誰かに助けを求めている感じであるが、通りすがる人たちは厄介ごとに巻き込まれたくないのか、見て見ぬフリをしていた。


 当の俺はというと……。


「てめぇ、何いじめてるんだよ!!さっさと消えねぇとぶっ飛ばすぞ」


 勿論、見て見ぬフリはできない、

 何故なら俺はいじめがこの世で一番嫌いなんだよ。


「はぁっ!?何気安く声かけてるんだよ?……って、お前もしかして鬼頭か?」


「地頭だ。その名前はお前らみたいなチンピラが勝手に付けただけだ」


「なるほどねぇ、お前は幸徳高校とかいう弱い奴らしか集まってない高校にいったんだな?調子に乗っていた奴らは全員ヤキ入れてやったぞ」


 不良はニヤニヤした表情で煽ってきた。


「そんなの興味ねぇよ!俺はただお前らみたいなクズが気にいらねぇんだよ!!」


 俺はコイツに拳を喰らわせた。


 すると周囲からざわめきが起きた。


「痛えなぁ。先に手を出したんなら覚悟できてるよな?」


 付いてこいとばかりに不良は手招きをしていた。


「上等だよ。お前の歯をへし折ってやるよ」


 俺はそいつに付いていく事にした。

 とりあえず、バイト先の店長には休養ができたと連絡だけはしておこう。


「あ、あの……助けてくれてありがとうございます。でも、私のせいであなたが……」


 女子生徒から頭を下げられお礼を言われ、そして心配された。


「俺はただアイツがムカついたから殴った。そして喧嘩を売られたから買うだけだ。気にするな」


 俺は不良の後ろに付いて行った。










――――



 油断した……その一言に尽きる。


 不良が付いて行った先は路地裏だった。


 そこでタイマンを張るのかと思っていたが、急に頭に激痛が走った。


 目の前にいた不良とは別の不良が後ろから鉄パイプで殴ってきたのだ。

 俺じゃなかったら死んでたぞ。


 流石に不意を突かれて俺は膝から崩れ落ちた。


「へっへー、流石の鬼頭も不意を突かれてはざまぁないな」


 5〜6人の不良を引き連れた奴が現れ、いかにも悪役みたいなセリフを吐くコイツに見覚えがあった。


「お前は清高の佐賀(さが)かっ!?」


 このオールバックの不良の名前は清和(せいわ)高校の佐賀。

 佐賀は清和高校、通称清高で頭を張っている男だ。

 コイツの悪名は数知れず、喧嘩も強く、体格も俺と同じぐらいある。

 俺が中学の時に何度も佐賀のグループにスカウトされていた。

 勿論、悪事に手を染める気はなかったので丁重にお断りしたのだが……。


「ふん、舎弟が世話になったようだな。俺のスカウトを断ってただで済むと思ったのか?」


「そんなもん知るか!!俺はお前が嫌いなんだよ!!」


「先輩に向かってその口の聞き方はよくないよなぁ」


 佐賀の拳が俺の顔面を捉えた。


「がはぁ……っ」


「ちょっと強いぐらいで生きがってんじゃねぇよ!!」


 俺は文字通り佐賀にボコボコにされた。

 悔しいがコイツは強い、不意打ちを喰らってなくても勝てる気がしない。

 やがて俺は地面に倒れた。


「ふぅ、まだ寝るのは早いぜ。誰かコイツを立たせろ」


「流石は佐賀さんだ。佐賀さんが市内で一番強い強いっすよ!」


 他の不良たちからは佐賀を賛辞する声が上がっていた。


 俺はここで終わりなのか……諦めかけていたその時……



「そこまでよっ!!!!」


 聞き慣れたムカつく声が聞こえてきた。


「なんだこのオタクどもは……?」


 声の主は神谷であった。

 そしてすぐそばには堂園もいた。


「私の街の住人を泣かせる奴は絶対許さない!!正義の味方ビクトリー花子見参っ!!!!」


 ……空気が死んだ気がした。

 変な決めポーズをとる神谷に流石の佐賀も唖然としていた。


「決まったな佑……」


「あぁ、一度はこのセリフを使って見たかったんだよな」


 神谷と堂園は何故か満足そうな表情であった。


「な、何だコイツらは?おい、鬼頭っ!?お前の知り合いか?」


 出来ることなら他人のフリをしたいのだが……。


「この男は私の友達よ!!そう大事な大事な……友達。泣かせる奴は私が許さないわっ!!」


「おぉ、そのセリフはアニメの第4話で好きだけど友達止まりの太郎(たろう)がピンチに駆けつけたビクトリー花子のセリフだ!!くぅー、熱いっ!!


 いや、泣いてないし、勝手に盛り上がっているところ申し訳ないがお前ら以外そのセリフ理解できてないぞ。


「何さっきから意味の分かんねぇ事いってんだ!!お前はコイツら黙らせろっ!!!!」


 不良たちは2人に襲いかかった。





――――


 のだが…………


「馬鹿な俺がこんな奴にやられるなんて……」


 なんと神谷と堂園は6〜7人はいた不良と佐賀に喧嘩で勝利したのだ。

 しかも無傷で。


「ふっ、お前たちの敗因は【戦う美少女戦士花子ちゃん】を見てなかったからだ」


「因みに僕も原作漫画、アニメともに視聴済みだよ」


「お、お前らなんでここに来たんだよ……」


 こんな路地裏に用があったとは思えないしな。


「あぁ、久志と下校中にあわあわしていた女の子がいて声をかけたら、何やらお前が不良に連れて行かれたって聞いてさ」


「まぁ、よく話をする仲だし、心配だったから来てみたわけだよ」


「お前らが一方的に話しているだけだと思うのだがな……」


「それより、その筋肉は飾りなのか?これをみて一から鍛え直した方がいいぞ」


 おもむろに神谷が差し出した物は【戦う美少女戦士花子ちゃん】と書かれていたDVDである。

 これって、神谷が真似していたアニメだよな?


「いやいや、こんなの見ても意味ないだろ……」


「いいからいいから、この【戦う美少女戦士花子ちゃん】は見ないと人生損するぞ?」


「その通りだよ」


「そ、そうなのか?」


 一応助けてもらったわけだからな……見るだけ見ておこう。



 そして、ここから俺はオタク道の道を歩むこととなり、巨乳派である事を高らかに宣言できるようになったのである。

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