裸エプロンってお願いすることなの?
「なぁなぁ、お前さんは巨乳派?それとも貧乳派?」
入学式初日にいきなり声をかけてきたのは神谷佑って男だ。
長髪黒縁メガネでやや小柄なコイツはやけに馴れ馴れしく俺に声をかけてくる。
よく不良どもからは声をかけられるのだが、こういう奴から声をかけられるのは初めてだ。
ついつい、反射的に『くたばれ』と言ってしまって申し訳ないとは思うのだが、コイツの話しかけてくる内容が下ネタが多いから謝らなくてもいいか。
「やっぱ、どっちもいいけど獣耳がないとだね」
「ふっ、勿論貧乳だよね。貧乳こそ至高の賜物」
神谷の友人と思われる天宮爽太に加え、何故か入学式初日に神谷に突っかかっていた堂園久志までもがこのくだらない話に加えていた。
いつの間に仲良くなったんだ?
「あー、もしかして、無乳派なのか?確かに無乳ってのも良いものだよな」
神谷は勝手に俺の事を無乳派だと決めていた。
因みに俺は無乳派ではない。
どちらかといえば大きい方が好みだ。
「そうか、無乳派か……貧乳を超えた存在だよな。実に興味深い」
全国の女性から批判が来る発言だと思うのだが……。
勿論、天宮を除くこの2人は女性陣より普段から煙たがれている。
それはそうだ、こんな会話を毎日繰り返していればそうなるよな。
「……コイツ、何言っても反応がないね」
「確かに、いつも机に顔を伏せてるよね。具合でも悪いのかな?」
体調が悪いわけではない。
入学してからバイト三昧で疲れているだけだ。
そして、極力人と関わらないこと、そうすれば静かに過ごせるのだ。
「じゃあ、俺が起こしてやるよ」
神谷が俺の耳元で……
「実は俺……未来の奥さんに裸エプロンをしてもらうのが夢なんだ」
自分の夢について囁いた。
「そんなくだらない夢を持つんじゃねぇよ!!」
コイツらの話は無視するつもりだったが、つい立ち上がり、大声のツッコミを入れてしまった。
「よし、勝ったな」
神谷は満足そうにガッツポーズを決めていた。
しかし、周囲のクラスメイトが静まり返る。
やっぱり、俺の強面と190cm近くの体格の俺が大声を上げたことが原因だ。
『やっぱり地頭くんって怖いよね……』
『だよね……。あのバカ眼鏡、余計な事はしないで欲しいよね』
クラスの女子たちはヒソヒソと小声で陰口を言っていた。
やはり、俺は何もしないで黙っておこう。
それがクラスの為にも一番良いはずだ。
そして、自分の席に再度座り、顔を机に伏せていた。
「うーむ、なんとも難儀な性格だこと」
以後も神谷は俺に話しかけて来たが、全部俺は無視して過ごしていた。