桃歌っ、初のコスプレ!
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「というわけで、今日の放課後は特別練習です!」
放課後、空き教室に集まったのは、あたし・李里奈・美久、そして何故か当然のように佑もいた。
「……あのさ、佑。なんでいるの?」
「え、俺企画した側だし。責任持って最後まで付き合うのが男ってもんだよ!」
爽やかに笑って言うけど、こっちは内心大混乱である。
「で、衣装はどこ?」
「はいはーい、じゃーん!」
李里奈が誇らしげに差し出してきたのは、フリルとレースがふんだんにあしらわれた、ピンク色の――
「……メイド服?」
「うん! 爽太くんが好きなゲームのヒロインだよ。猫耳メイドの『ミルフィーユ』ちゃん!」
なんでそんなに嬉しそうなの、あなたたち。
「いや、無理! これ着て放送なんて死ぬ!」
「大丈夫だって、桃歌なら絶対似合うし!」
「そうそう、むしろ爽太くんが倒れるかもよ?」
「それはそれで困るわよ!!」
「いいから着てみよ。ほら、空き教室だし、人もいないし」
「本当に誰も来ないんでしょうね……?」
「大丈夫。佑が見張りしてるから!」
「任せとけ!」
……その男を信じるのが一番危ない気がするんだけど。
仕方なく着替えると、あたしは鏡の前で固まった。
ピンク色のメイド服に、つけ耳としっぽ。思ってたより完成度が高くて、逆に恥ずかしい。
「……うわぁ……」
「おおっ……!」
教室に戻ると、李里奈と美久が目を丸くして歓声を上げた。
「ちょ、ちょっと! そんなに見るなってば!」
「やばい、これはやばい。爽太くん、マジで落ちるって……!」
「写真撮っとこ!」
「だ、駄目ぇぇぇ!!」
「というわけで、本番の前に“撮影練習”しまーす!」
「練習って何よ!? 撮影って何よ!?」
「ほら、佑も手伝って!」
「おう! 俺に任せて! いいカメラ持ってきたから!」
「なんでそんな準備いいのよ!? ていうかもう帰ってぇぇ!」
大騒ぎしながら、なんやかんやで何枚か写真を撮られてしまった。何度も断ったけど、「これは資料用だから」とか訳の分からない理由で押し切られた。
「なぁ、桃歌」
と、その時、教室の扉がカラリと開いた。
「――って、え?」
その声で振り返ると、そこには見慣れた少年――爽太くんが立っていた。
「……」
「…………」
時が止まった。
「…………お、お邪魔だった?」
「ま、待って違うの!! これは、その、練習で!!」
「おお、爽ちゃん、いいとこ来たな! 今日の桃歌、どう思う?」
佑、今だけは黙ってて!!!
「……あー……」
爽太くんは、あたしをじーっと見てから、ふと優しく笑った。
「……似合ってる、と思う」
「っ……!」
その瞬間、顔が真っ赤になって崩れ落ちそうだった。
「そ、そんなことないし! 別に、誰かのためとかじゃないし!」
「そう?」
少し首を傾げる仕草が、なんだか妙に可愛らしくて、こっちの鼓動がうるさい。
「でも、猫耳も似合ってる。……本当に、ミルフィーユみたいだね」
「ちょ、ちょっと! からかわないでよ!」
「からかってないよ?」
……爽太くんの笑顔が、いつもより柔らかくて、心臓がまた跳ねた。
そんな中、李里奈と美久はニヤニヤしながら、あたしの方を見ている。
「……ふふっ、やっぱり桃歌、やるじゃん」
「まさかここまで効くとは……作戦成功だね?」
何よその「してやったり」な顔は。ほんと、からかわれてばかりだ。
「そうそう、次の放送は俺が休みで爽ちゃんと桃歌でやってくれよな。俺もたまには昼休みゆっくりしたいし」
「まぁ、佑ちゃんも鳥牧さんとご飯を食べたいだろうしね!」
「あ、あぁ、そうだな」
あたしは佑が僅かに目線が明日の方を向いたのを見逃さなかった。
確か杏ちゃんは……料理が苦手だったけ?
「そうね。佑は杏ちゃん特製のお弁当を堪能しておきなさい。あたしから杏ちゃんに連絡はしておくから」
「ちょっ!! 桃歌やめろっ!!」
「返信来たよ。『愛情込めて作りますね!』だってさ。良かったねぇ、愛する彼女の弁当を食べる事が出来て」
「桃歌、覚えとけよ……」
「すぐに忘れるわよ」
あたしは爽くんと二人きりの放送でドキドキするから、あんたもしなさいよね。
……自分の命の危機に。