恥ずかしがっている人のコスプレ、萌えっ!
例の放送があってしばらくが経った頃、売店に行くと李里奈が妙にニヤニヤしながら近づいてきた。
「よっ、桃歌。爽太くんとの関係は進展した?」
「してないわよ……って、朝から何よ?」
「いやね、この間のエンタメ部の放送、面白かったじゃん? で、次の企画、何やるのかなーって思って」
「そんなの知らないわよ。私はエンタメ部じゃないし」
「でも爽太くんがいるじゃん?」
李里奈はニヤリと笑い、まるで何かを企んでいるかのように目を輝かせている。
「それにしても、爽太くんって本当に二次元好きだよね」
「ええ、まぁ……」
「獣耳……」
「……えっ?」
その一言に、あたしは思わず固まってしまった。
「昨日、自分で言ってたじゃん? 爽太くんにアプローチするには獣耳が必要だって」
「あ、あれはその場のノリというか、深く考えてなくて……」
「ふーん? でも、もし本当に獣耳があったら、爽太くんは確実に振り向くよね?」
「それは……まぁ、可能性はあるかもだけど……」
いやいや、そんなことできるわけない。フィクションじゃないんだから。
「ということで、私と美久で考えました! 次のエンタメ部の企画、『コスプレ発表会』です!」
「……はい?」
「いやぁ、爽太くんってさ、推しのキャラとかいるでしょ? そこを狙って、桃歌がそのキャラになりきればいいんじゃないかって!」
「ちょ、ちょっと待って! 誰がそんなことするって言ったのよ!?」
「だってさー、好きな人に振り向いてもらいたいんでしょ? だったら試す価値あるじゃん!」
李里奈は完全にノリノリで、隣で美久も楽しそうに頷いている。
「でも、そんなのエンタメ部が許可するわけ……」
「それがね、昨日佑に相談したら『おぉ、それ面白そうじゃん! 爽ちゃんの反応も気になるし』ってノリ気だったよ」
「……なんで佑に相談してるのよ」
「だってエンタメ部の部員だし」
妙なところでフットワークが軽いのよ、この子たちは。
「それで、桃歌のコスプレ衣装なんだけど、もう手配済み!」
「えっ!? ちょっと待って、何を……!?」
「安心して、爽太くんの好きなキャラを調べて、それっぽい衣装を注文したから!」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ!!」
あたしが動揺していると、ちょうどそのタイミングで昼の放送が始まった。
『さぁーっ、今日もやってまいりました【幸徳エンタメラジオ】! 進行は神谷佑とーー』
『天宮爽太でお送りします』
爽太くんの落ち着いた声が、スピーカーから流れる。
『さて、今日は特別なお知らせがあります! まだ日にちは未定ですが、エンタメ部主催の「コスプレ発表会」を行います!』
……は?
『エンタメ部の企画として、放送メンバーや特別ゲストがコスプレをして登場! 知っているキャラから知らないキャラまで登場予定ですので皆さんもぜひ楽しみにしていてください!』
……まさか。
「はい、桃歌、逃げられないね!」
「ちょ、ちょっと待って!? どういうこと!?」
「私たちの企画がもう採用された! 放送で言ったら、もう実行するしかないじゃん!」
いやいや、そんなバカな。
でも、爽太くんが好きなキャラのコスプレをすれば、もしかしたら……。
――って、何を考えてるのよ、あたしは!?
「さて、桃歌、週末に衣装が届くから、しっかり準備してね!」
「ま、待って……!」
こうして、あたしの運命のコスプレ企画が始まることになったのだった。