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一応部活動もしているのですよ。



「ねぇねぇ、桃歌。爽太くんと進展あった?」


 梅雨の時期、雨の音が窓を叩き続ける中、私たちはいつものように教室の隅で昼食をとっていた。湿気で髪が少し広がってしまったけれど、それでも気にせず話に集中していた。


 教室の外では体育の授業が中止になったクラスメイトたちが廊下で暇を持て余している。そんな喧騒をよそに、李里奈が私に向けていつもの話題を振ってきた。


「そんなもの……ないわよ」


 ため息をつきながら答えた私に、李里奈はにやりと笑い、美久は少し呆れたように肩をすくめる。


「やっぱり桃歌は奥手だからねー。見た目は中々勝気な雰囲気なのにさ」


 李里奈の指摘に、私は心の中で「余計なお世話だ」と思いつつも言い返せなかった。確かに、自分から積極的に動けない性格が悔しい時もある。


「えーとさ、桃歌は爽太くんと付き合いたいんだよね?」


 美久が真顔でそう言った瞬間、私は慌てて手に持っていた箸を落としそうになった。少し赤くなった顔を隠すように目を逸らしながら、曖昧な返事をする。


「えっ!? ま、まぁそれができたら一番良いんだけど……」


 正直に答えたら彼女たちに何を言われるかわからない。それでも、嘘をつくのも違う気がして、ぎりぎりのラインで返事をした。


「幾ら爽太くんが二次元にしか興味がないとはいえ、学年ナンバーワンのイケメンなんだよ? もたもたしていると他の女の子に先を越されちゃうよ」


 美久の言葉に、ふっとある日の出来事を思い出した。


―――――とある日の部室にて


『おー、爽ちゃんまたラブレター貰ったの? モテモテでいいねー』


『そういう佑ちゃんは今可愛い彼女がいるでしょ? でも何で俺ばかりにラブレターが来るんだろ?』


『鏡を見れば分かるよ』


『えー、鏡はいつも髪をセットする時に見てるよ〜。はぁ、せめて獣耳の子から貰ったら検討の余地があるんだけどなぁ』


『1年ぐらい同級生を見て来たけど、そんな子いねーよ』


――――――


「……獣耳を生やすことってできるのかな?」


 つい、口に出してしまった私のつぶやきに、李里奈と美久が顔を見合わせた。


「桃歌? 頭おかしくなった?」


 美久が呆れ顔で言う。李里奈も「さすがにそれはないでしょ」と笑っている。けれど、私は本気で考えていた。爽太くんとの関係を進展させるためには獣耳が必要だと。


『さぁーっ、またお昼に始まりました【幸徳エンタメラジオ】の時間です!! 今日の進行は神谷佑とーー』


『天宮爽太でお送りしていきます』


 教室に響く爽やかな声に、私は思わず顔を上げた。この2人は当然、放送部ではない。私たちが所属するエンターテイメント部、通称「エンタメ部」が週に1回、放送部に協力してもらって昼休みに流しているラジオ番組だ。


 1年生の時は特に気にも留めていなかったけれど、今では毎週の楽しみになっている。特に爽太くんの声を聴くと、なんだか胸が高鳴る。


『えーと、最初にお便りを読んでいくんだけど……何々? 「今彼女との関係が倦怠期です。どうしたら良いのでしょう?」。匿名希望さんからのお便りですねー』


『確かによくアニメや漫画でもカップルが倦怠期を迎えるってイベントがあるよね。俺はリアルの彼女がいないから気持ちはわからないけど、彼女がいる佑ちゃんはどう思う?』


『残念ながら俺もそんなイベントは訪れていないからなぁ……。とりあえず倦怠期を迎えるという事は、何か刺激が足りないってことだよな? よし、2人で旅行に行け! そうだ。京都に行こう!!』


「……なんちゅう答えを出すのよ」


 小声でそう呟いた私に気づくことなく、放送は続いていく。


『おー、ナイスアイデアだよ、佑ちゃん!』


 爽太くんの楽しそうな声に、私は複雑な気持ちになる。刺激が欲しい、という部分には納得できるけれど、旅行で解決するのかは疑問だ。


「あー、なんか分かるわー。旅行の件は置いておいて、何か刺激が欲しいとは思うよねー」


 李里奈が納得するように頷いた。彼女の言うことも一理あるけれど、私はまだモヤモヤした気持ちを抱えたままだった。


『次のお便りは……これまた絶対匿名希望さんですね。……『この間オタバレしてしまいました! 周囲からの視線が気になります。やっぱりオタクってカースト最下層の位置にいますよね?』』


『なるほどなるほど……とりあえず俺もオタクだし、君とは友達になれそうだ』


『因みに俺もオタクだよー』


『まぁ、俺としてはオタクってだけで馬鹿にされるのは少々鼻につくな。ただ、アニメや漫画が好きなだけでお前たちには何も迷惑をかけてないぞ。そりゃ、何かしら問題を起こしたら敬遠されるかもしれないけど、真面目にオタ活しているだけで馬鹿にすんなって話だよ』


 佑の発言に、教室がざわめくのを感じた。オタクを公言する人は少ないけれど、彼らの堂々とした態度に共感する人も多いのだろう。


『安心して、三次元は裏切るかもしれないけど、二次元は決して君を裏切らない。君の信じる二次元を大切にするんだ!』


 爽太くんの発言は、もはや何かの勧誘のようだった。


『とりあえず、俺が絶対匿名希望さんに聞きたい事は……好きなエ○ゲは何?ーーーって止めろー!! 離せーっ!!』


 その瞬間、放送がぷつりと途切れた。佑が先生に連行される姿を想像して、私は少し笑ってしまった。


 因みに佑は先生に連れて後しばらくこってり絞られたらしい。

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