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コイツ…リア充してやがる。


試合後、グラウンドを後にした俺は、全身の疲れを感じながらベンチに腰を下ろしていた。汗ばんだシャツが肌に張り付き、不快感が増すが、やり切った充実感も少しだけあった。そんなとき、ふいに背後から明るい声が聞こえた。


「佑くん、終わったんだね!」


振り返ると、杏ちゃんが爽やかな笑顔でこちらに駆け寄ってきた。彼女は無邪気な笑顔を浮かべていて、その姿を見るだけで少し元気が出てくる。日差しの中で、彼女の髪がキラキラと輝いているように見えた。


「ああ、まあ、終わったけど…正直、負けちゃったな」


俺がちょっと肩を落として言うと、杏ちゃんは軽く首をかしげながら笑う。


「負けちゃったけど、楽しそうだったよ? それに、どんな状況でも諦めない佑くんって、カッコよかったよ!」


「ほんとか? でも、あのシュートは完全にやらかしたよな」


試合の最中、佐が俺に向けて放った顔面シュートを思い出す。いや、なんで真横にいた俺にシュートが飛んでくるんだ? 思い返すだけで情けなくなってくる。杏ちゃんはその反応を見てクスッと笑ってから、俺の肩を軽く叩いてきた。


「そんなこと気にしないで。ああいうのって、むしろ思い出になるんじゃないかな? みんなで笑って話せるネタですし」


「うーん、それはそうかもしれないけどな。まあ、杏ちゃんの言う通りかな」


俺が感心して言うと、杏ちゃんはちょっと得意げな顔をして言った。


「サッカーといえば、この間から放送されてる【君と繋ぐパスワーク】、見ました?」


杏ちゃんが話しているのは通称“君パス”。いわゆる腐女子向けのアニメだ。その界隈ではかなりの高評価を受けていると聞いたことがあるが、俺には縁遠い世界だと思っていた。


「あー、一応知識程度には知ってるけど」


俺が曖昧に答えると、杏ちゃんは目を輝かせて反応する。


「ほんと!? じゃあ、今度一緒にスマホ版をプレイしてみようよ! 協力プレイとかも楽しそう!」


「え、スマホ版はまだ未プレイで…」


「それならこれを機にプレイしよう!」


杏ちゃんが嬉しそうに言う。普段なら腐女子向けのゲームには手を出さないのだけど、杏ちゃんがこんなに楽しそうなら試してみるのも悪くないかもしれない。


「あ、あとさ、今度アニメのイベントとか、一緒に行こうよ」


「お、いいね! 何かオススメのイベントある?」


「最近、好きな声優さんが出演するイベントがあるんだよね。行ってみようかなって思ってるんだけど、佑くんもどう?」


「俺も行きたい! それ、絶対楽しいに決まってるじゃん」


杏ちゃんと一緒に過ごす時間は、まるで二人だけの特別な世界に浸っているみたいで、心が温かくなる。


俺たちはその後もアニメやゲームの話で盛り上がった。「君パス」の推しキャラの話や、次に見るべきアニメのおすすめなど、話題は尽きない。試合後で体はクタクタなはずなのに、不思議と疲れを感じさせない時間だった。


「そういえば佑くん、試合中、佐くんとちょっとドタバタしてたよね。顔面シュートの瞬間、私、思わず笑っちゃったんだけど」


「あれな…。いや、なんで真横にいた俺に撃つんだよって思ったけど、実際には佐のタイミングがずれてたっぽい」


「ふふ、でも佑くんも意外と動きが良かったよ。なんか、初心者には見えなかった」


「それ、ほめてるのか微妙なんだけど…まあ、体育の授業でやったことぐらいは覚えてるから」


俺が肩をすくめると、杏ちゃんはクスクス笑った。その笑顔に、自然と俺の口角も上がる。


「あ、そういえば、佑くんって君パスで好きな声優さんいる?」


杏ちゃんが不意にそう尋ねてきた。


「そうねー、特に秀でて好きな人はいないな」


「えー、じゃあ今度私が色々教えてあげる! 入門として、君パスの特典映像から見るのがおすすめだよ!」


 杏ちゃんの嬉しそうな顔を見ていると、やっぱ俺も嬉しいよなぁ。


『おーい、佑ーっ!』


 遠くからクラスメイトたちの声が聞こえた。


「あ、呼ばれてるみたいだね」


「だな。じゃあ、また後で」


「うん、放課後にまたね!」


 杏ちゃんと一緒に帰る放課後を楽しみにしながら、俺はクラスメートたちの元へ駆け寄った。色々あった球技大会も、こうして杏ちゃんとの会話で締めくくると、悪くない一日だったと思える。


 因みにサッカーの試合結果だが、琢磨と久志のクラスが優勝した。いや、あんなオールスターチームには勝てるわけがないだろう。


 それでも俺にとっては、今日の球技大会も、杏ちゃんとの時間も、何より楽しい思い出になったな。

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