高嶺のキミへ
『何……バカ佑のくせにいい声してんじゃん……』
『え……ドラムの子って男だったのか……』
佑の事を知る同級生はどよめいていた。
最初の曲とは違い、この曲はバラードで、いつものふざけている佑とは思えない程の優しい声で歌っており、爽太も歌は上手かったが、佑も負けないぐらいに上手かった。
それに……
「この歌詞もしかして……」
歌詞の内容は桜子そのものをイメージしており、まさに桜子の為に歌っている感じである。
これには俺には勝てない……。
俺は今日に至るまで告白するタイミングはあった。
しかし、告白できない臆病者だ。
それに対して佑はこんな大勢の前で桜子の為に作詞作曲した曲を歌い、桜子に告白しようとしている。
まさに有言実行を成し遂げようとしている。
「すげぇよな……佑は……」
俺が佑に勝とうと思っていたのが馬鹿らしくなってきた。
佑と桜子……お似合いだぜ。
「うん……佑くん凄いよ。私、何か涙が出てきたよ……」
周りを見渡してみたら何人かが桜子と同様に涙を流していた。
「そうだな……、歌詞の内容を知れば尚更」
佑がどれだけ桜子の事を思っているのかが分るよな……。
そう口にしようとした時……
【高嶺のキミが見ているのは、無骨な者で。無骨な者が見ているのは高嶺のキミで】
え、ちょっと待て……、なんだこの歌詞は……?
無骨な者って……俺の事か?それじゃあ、俺が桜子を見ているって事は分かるが、桜子も俺を見ているって事なのか!?
これじゃあこの歌は……。
【そんな二人は両想いであった】
俺と桜子が両想い?そんな訳ないだろ!!
佑……お前、何考えているんだよ。
【けれども、お互いに気持ちを伝えられず。そんな二人にこの言葉を贈るよ】
まさか、最初から佑は桜子に告白するつもりはなくて
【ほんの少しだけの一歩踏み出す勇気を持って欲しい】
俺が桜子に告白するように仕向けていたのか……。
「えっと……佐くん……」
隣の桜子は顔を真っ赤に染めていた。
流石に佑が歌っている歌詞の内容を理解したようだった。
……気まずい。
そうこうしているうちに佑は歌い終えていた。
会場は先ほどの歓声ではなく拍手が沸き起こった。
「湿っぽいぞーーーっっ!!!!!」
そこに水を差すように地頭が大声を上げた。
「確かに僕ららしくない歌だね。YOU、もっと盛り上がる歌を歌おうよ!!」
堂園も同様の意見を述べていた。
「確かにな!!じゃあ最後の曲は盛り上がる曲でいくぞ!!【みんなが大好きなもの】!!!!」
佑の掛け声に合わせて最後の曲の演奏が始まった。
ノリの良い音楽に合わせて佑が歌いだす。
【みんなの大好きなもの。それは今も昔も変わる事ない。だけど今は口にすると恥ずかしく、昔平気に口にできた頃を思い出す】
会場は歌に合わせて手拍子をしており、佑たちの雰囲気に飲み込まれている様だ。
【だけど誰もいないとこで一人で叫ぶよ……】
本当に……すげぇよ……。
佑と双子である事が本当に誇らしいぞ。
【せーの、おーーーーっ〇い!! おーーーーっ〇い!! おーーーーっ〇い!!!!】
……前言撤回、お前と双子である事が恥ずかしいぞ。
『きゃあああぁぁぁっっ!!!!へんたーーいっ!!!!』
『アイツやっぱりヤバい奴よ!!!!』
『なんだアイツ!?めっちゃおもろいな!!!!』
『流石俺たちの佑だぜ!!俺たちのできない事をやってくれるな!!!!』
『俺もおっ〇い好きだぞーーーっ!!!!』
女子からは悲鳴が上がり、男子は歓喜の嵐、そして先生たちはざわついている。
会場はまさに混沌としていた。
『確保ーーーーっっっっ!!!!』
流石にこれ以上はヤバいと感じたのか風紀委員の奴らが佑たちの確保に動いた。
「げっ!!七三だ!!!!みんなずらかるぞ!!」
佑たちは慌てて風紀委員から逃げて行った。
この状況は何だろうか?
あとがきです!
今回は佑が暴走した回となってしまいました。
いや、私も好きですよ……本当に。