幸せになってください。
「ごめんね、私。結婚するの。」
君は僕の目の前で、そう告げた。
隣にいる男も、申し訳なさそうに頭を下げた。
「え、どゆこと?」
「彼女は、僕が幸せにします。」
スーツを着た、真面目そうな男は、真剣な表情で、その真っ直ぐな瞳で、そう答えた。
「そっか…。そっか。」
「君には、本当に悪いと思ってる。」
本当に申し訳なさそうな顔で、彼女は謝った。
「けど、彼じゃなきゃ。ダメなの。」
「ううん。気にしないで。」
昔から、僕は性格が温厚だと言われる。
こんな時にも、怒りのひとつも湧いてこない。
文句のひとつでも、言ってやりたいのにな。
「彼は…その。すごい優しくて。私が落ち込んでる時にも支えてくれて……。」
「そか。それなら安心やね。」
せめて、相手が人の良さそうな男でよかった。
そんなふうにまで、思ってしまう自分がいる。
「だから、その…許してくれるかなぁ……。」
「うん。いいよいいよ。許す許す。」
だから、泣かないでよ。
君は、そんなに脆い女性じゃなかったでしょ。
「……大丈夫かい?」
「…うん、ありがとう。」
すかさず、男が彼女の肩を抱く。
「………ええ男やん。僕なんかより。」
思わず、口からこぼれ落ちてしまう。
「…すみません。彼女は、ボクが貰います。どうか、どうか。許してください。」
真剣な目で、僕のことを真っ直ぐに見つめる。
そんな男に、好感を持ってしまう自分がいる。
僕から、彼女を奪おうとしている男だぞ。
恨み言のひとつでも、言ってやらねば。
「……ねぇ、幸せにしたってや。頼むから。」
「…。」
男は、何も言わない。
「その子、意外と繊細な子やねん。君なら知っとるかもしれへんけど。強気っぽくて、ぴんしゃんっとしとるけど。優しくて、ええ子なんよ。」
「……。」
まだ、男は何も言わない。
「………幸せにせえへんかったら、許さんで。」
これで、僕の言葉は終わり。
「…………許して、くれただろうか。」
「………彼は優しいし、きっと大丈夫。」
「そやで。大丈夫や。」
彼女は、胸に抱えていた花束を、僕の足元に置く。
「…………次は、お盆に来るからね。」
「別に来んでもええよ。幸せなら。」
僕はポケットに手を入れて、彼女を見守る。
「……行こうか。」
「…………うん。」
2人は揃って、元来た方に振り返る。
「………またね。」
「うん、また。」
彼女の瞳から、涙が落ちて、地面に跡が残る。
揃って去っていくのを、僕はただ見守るだけ。
「2人とも。」
ただ、笑顔で。
「幸せになってください。」
僕の頬を確かに伝っていったはずの涙は、地面に落ちることも、跡が残ることもなかった。
ここまで読んでくださり、有難うございます。
どうしようも無いくらいベタベタで、オリジナリティの欠片も感じられないような作品かもしれませんが、どうか許してください。
語ることも何も、物語を読んで、貴方様が感じたことが全てですので、特に何を言うことも無いです。
強いて言うなら、楽しんでくださった方がいらっしゃいましたら、それが励みになります。
今後とも、貴方様の素晴らしいストーリーライフを、心の底からお祈り申し上げております。
いだすけさんでした。