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39,別の場所では





―――第1都市第ニ防衛線。


蟻が地面の下から現れ、大きな被害が出た。

前線で戦っている軍人たちからすれば挟撃されたようなものだ。


司令部も麻痺しており、逃げ出す部隊まで現れた。



軍は人を想定して訓練されている。

魔物を相手に少ない物資で戦うには士気が足りていなかった。


蟻は円を作るように囲んでいく。

戦闘機も落とされ、このままでは全滅しかねない。


現状を理解して、もはや時間稼ぎもできないとゲルマンは判断する。



情報分析室次長のゲルマンは、装甲車が切断され爆発する直前に部下に押し出されていた。


生き残ったが、機材のほとんどが装甲車の中だ。

予備を頼るにも第三防衛線はどこも似たような状況で、第二防衛線へと逃げるしかなかった。


軍と合流し第二防衛線にて通信の回復を待っていたが、どこも混沌としていて、正しい情報が伝わらない現状。

出せる指示は後退以外に無かった。


「時間稼ぎもできん。こうなれば包囲網に穴をあけ撤退する」


制空権の無い状況で撤退。

相手が戦闘機なら絶望的な状況だろう。


だが、相手は戦闘機では無く蟻である。魔法も持っていないため、空から一方的に攻撃はできない。


「友軍が予定地まで後退を確認次第、起爆する」


元々は蟻の足を削り時間を稼ぐ為の作戦であったが、蟻が広範囲に広がった事で意味のない作戦へとなった。

だが、爆薬はある訳で、これを使わない手はない。


予定地を爆破後、残りの物資で追撃し包囲網に穴を開ける。

そこから駐屯軍基地へ撤退し、そちらで時間稼ぎに徹する。


……街はもはや見捨てる他ない。

運が良ければ全軍引き寄せられるかもしれないが、蟻の目的を考えればそれは可能性として低い。


蟻の目的は一直線に進軍していた事から、巣の合流だろう。


「撤退の進捗は?」


「おおよそ8割かと。少し遅れが出ているせいで、蟻の先頭が爆破範囲から外れる可能性があります」


本来ならある線を堺に反転し、迅速な撤退、蟻が詰めて来たところを爆破する予定であった。

だが、今の状況では陣形を崩すことが出来ず、ズルズルと下がるしかない。

後方からの火力支援があればまた違った方法も取れるのだが……無いものは無い。


「まあいい。範囲から外れる敵に対してはここから支援する。私と殿(しんがり)に残りたいと言う部隊は手伝ってくれ」


「閣下それは……」


「命を捨てる馬鹿は居るかな?君達も付き合ってくれる必要はないのぞ」


「……閣下だけでは照準もできませんから。後ろから撃たれたでは名誉の戦死にならないでしょう」


もとより作戦予定地から少し離れた場所だ。

ここから殿の部隊が出るのは必然。


敵の作戦本部への強襲。

戦争では常套手段、それを見抜けなかった……いいや、侮っていた事が今に繋がっている。


全ては自分のミスだ。

そのミスを贖う必要がある。


それに付き合わされる友軍には気の毒に思うが。


「……意外に居るものだな勇者は」


援護射撃を手伝ってくれる友軍が多数現れる。

彼らもそれの意味を分かった上だ。


物資が少ないのはどこも同じ。

こことて他より多くても、援護射撃をすればすぐに枯渇する。


そんな状態で殿を務めるのだ。


「皆、覚悟はしていましたから。まさか蟻が相手とは思っていませんでしたが」


「……そうか。これが我々と軍人の違いか。イリーナ殿に嫌われる訳だ」


イリーナ少佐が怒るのも分かる。

情報の正誤で命をかけるのはいつも現場なのだから。


震える右手を逆の手で抑える。


「―――友軍が作戦予定地を超えました」


「そうか。カウント10だ」


「伝えます」


カウントダウンが始まる。

10……9……8……7……


この作戦の成否で友軍の生存率が変わる。

結果の予想はできるが必ずしもそうなるとは限らない。どうか、不測の事態が起きませんように、と神に願う。


振るえる拳をもう一度、強く抑える。

作戦後の方針も決まっている。焦る必要は無い。


―――……1……0。


短くも長いカウントダウンが終わり、起爆の合図が送られる。


大きな爆音と揺れ、土埃が空から襲う。

蟻も飛ばされ大きく道ができた。



「すぐに援護射撃へ入れ!」


結果など見る暇はない。

砲撃が開始され、後退していた友軍も開いた穴に向けて前進する。



「蟻の陣形が動きました!空いた穴を埋めるように動いています」


「ッチ、早いな。どれくらいで塞がれる?」


「逃げられるのは1大隊くらいです。穴を維持するように砲撃すればもう1中隊逃がせるかもしれません」


穴を塞ぐように蟻が移動した事で包囲網の層は薄くなった。

だが、薄くなったが、包囲網に残される軍が勝てる可能性は限りなく低い。


魔蟻と普通の人間ではその身体能力が違いすぎるのだ。

倒せる武器が枯渇した状態では、たとえ戦車であっても噛み砕かれて終わる。


「ここまでか……全部の物資を使ってもいい。友軍をできるだけ逃がすよう全軍に伝えろ」


「了解です」


時間稼ぎの為に物資を残す手もあったが、時間を稼いだところで援軍が来る事は無いだろう。

少なくとも本国は軍を動かす気が無い。


あるとすればイリーナ少佐や日本のハンターが他の都市から駆け付けるくらいだが、ここに来る前他の都市の方角で竜巻や岩が見えた。

どこも激戦で大技を使う状況に追い込まれているという事だろう。


ここに助けが来るとは思えない。


「先頭の部隊が起爆地の蟻に苦戦しています。このままだと遅れが……」


起爆地の蟻はすべてが飛ばされたわけではなかった。

作戦通り足を奪う事に成功していたが、その図体が邪魔をし進行速度に遅れが出ていた。


「面倒な……進路を選ぶ時間もないというのに」


今は砲撃で進路上から蟻を除いているようだが、それもいつまで持つか……。


砲撃する毎に進む速度が遅くなる。

このままでは駐屯地からの立て直しにも影響が出る。


「通常弾でいい。奥を狙って一斉射撃だ。これ以上の遅れは許容できない」


「……了解です」


普通弾により進行上の蟻は退かす事が出来た。

ただ、これにより本格的な物資不足に陥った。


通常弾は蟻を倒すには力が足りないモノの、蟻を退かすには十分な威力があった。

それを後方から使ったのだから当然―――。


「……後方の防衛線崩れ始めました」


「構わん。友軍の道を作れ」


後方部隊に蟻を抑える力が無くなる。

そうなるとここが後方最前線になるな。……後方最前線、言葉にすると失笑がこぼれる。ここまで追い詰められたのは作戦を考えた奴が悪い。

つまり自分だ。


「いよいよ、か」


死ぬことを言い渡されて、覚悟してきたが、やはり震えが止まらない。

死ぬのが怖いと、今にも飛び出して逃げたい気持ちだ。


目を瞑り沈黙する。

話し相手になってくれた軍人も静かに祈る。


死を覚悟しているのは自分だけではないようだ。


「肉壁となり、少しでも時間を稼ぐ。部隊を半分に別け、穴を塞ごうとする蟻と後方の蟻から壁となれ」


「了解しました。伝達―――



―――閣下、援軍です!」


援軍。

一度、その言葉が理解できず頭から抜ける。なぜなら自分で無いと結論付けた言葉だったから。


それ故にその言葉を理解した時、身を乗り出してレーダーを睨む。


「援軍、援軍だと?まさか本国が動いて……」


「いいえ、この反応は日本の―――」


その時、空から弓の雨が降る。

赤く光る矢が次々と蟻を焼き殺していく。


空を飛ぶ蟻も同様に焼き殺され、その先に特徴的なヘリが見える。


日本の自衛隊機。

日本からハンターの援軍が来たのだ。


「ハハッ……」


思わず乾いた笑いが漏れる。

気が抜けて、その場から動けなくなる。


軍人が一匹一匹に苦戦していた魔蟻が、ただの矢に殺されていく。

戦略も作戦も覆す個の力。



これがハンターか……。

侮っていたわけではないが実際の力を見ると―――。



「―――まるで化物だな」


助かったという実感より、現実感のない光景をただ見ているしかできない無力感を味わっていた。


『英雄計画』『超人計画』『第二人類計画』

なるほど、どの国もハンターに力を入れる訳だ。ハンターの国ができるのも道理である。


もはや旧世界の考えは通用しないのだろう。

これからの世界はより強いハンターを持つ国が制する。





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