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38,命削りの戦い





羽を斬り相手の機動力を削いだ。

残念ながらそれだけだ。


速度は変わらず、何度も仕掛けてくる攻撃をなんとか防ぐ。防戦一方だ。

ただ、ギリギリの戦いという訳ではない。相手の能力が分からない為、仕掛けにくい状況なのだ。


それに日本のハンターの2人は敵の動きに付いていけていない。

この状況では逃げる事も出来ない為、二人を守りながらの戦闘となる。


見捨てる事も考えているが、まだ利用価値はある。

土と風の魔法は使い道があるし、最悪囮として逃がす事もできる。……まぁそれで敵に隙ができるとは思えないが。



火で出来た剣を向かってくる敵に向ける。

高温の剣は空気を揺らし、触れただけで大抵の魔物は焼け死ぬ。


だが、蟻の王は素手でそれを掴み折る。

火傷したようには見えない。それどころか、火の一部を吸収したように見える。


おそらく火に対して有利に働く技能だろう。

相性の悪い敵だ。焼けた羽が回復していない事から、欠損は回復できないのだろう。


ならば魔剣本体で斬れる。

ただ、その隙が無い。


一度使った瞬間移動を警戒しているようだ。

火の剣を折ると一度後退しこちらの様子を伺っている。お互い手の内を探っているのだ。


なら―――。



「土の魔法を借りるわよ」


支配者の力で西ハンターから土の魔法の制御を奪う。

聖樹の実によって強化された能力値が、5mを超える土の津波を生み出す。


下で蠢いていた蟻どもは飲み込まれ、地面の中に沈められる。


地面にいた蟻の王も例外ではなく、地面に飲み込まれた。

ただ相手は蟻。土の中に固めても這い出てくるだろう。


「魔力は?」


「まだ大丈夫っす」


大丈夫とは言うものの、二人には疲れの色が見える。

元々長時間の戦闘に加えて、王蟻の気配に当てられて疲れがでたのだろう。このままだとすぐに限界が来る。


―――どうしようかしら。


隙があればアレは倒せる。

だが、この2人で隙を作るのは無理だ。戦った感じから何も考えず餌に喰いつくような敵でもない。


むしろ自身に隙ができるかもしれない。



「……残るか逃げるかはあなた達で決めなさい。残るなら見捨てるわ」


「そうっすね。残っても足手まといになるでしょうし、逃げる事にするっす」


「……私も逃げさせていただきます。夏輝ハンターの回収はどうしますか?」


「それは置いておいて。最悪逃げる手段に使うわ」


ナツキの召喚体なら王蟻の相手でも数分は稼げる。

羽も負傷しているし、あの槍さえ壊せればもっと時間を稼げるはずだ。


支配者の技能で強制召喚すれば逃げる時間は稼げる。


「……分かりました。それでは逃げさせていただきます」


「最後に風の魔法だけ借りるわ。シールドにするけど、何分くらい持ちそう?」


「魔力量から10分程度ですね。魔力切れを起こしたら動けなくなるので、その時は西ハンターが運んでください」


「じゃあ借りるわよ」


10分、ちょうど聖樹の実の効果もそれくらいだ。

戦闘限界として覚えておこう。


風の魔法を奪い体に纏う。

今回の敵には火の魔法が使えない。この風の魔法を上手く使って敵の隙を突く。


2人が離れていくのを背に剣を構える。

まだ土の中から現れる気配が無い。


「……そう、時間稼ぎがしたいのね」


敵も分かっているのだろう。

【支配者の降臨】には制限時間がある。


魔力が切れるまでという制限時間だが、私の場合は聖樹の実の効果が切れるまで。

本来なら瞬間移動一つでも膨大な魔力を消費するのだが、それを回復しているのが聖樹の実なのだ。


聖樹の実の効果が切れると能力を使うごとに魔力が激減していく。


聖樹の実無しで【支配者の降臨】を使うと5分もしないうちに魔力が切れる。


静寂が支配する。

どちらも動かない。動かなければ不利になるのは私だ。


それでも動かない。


「……フー」


3分ほど経った時、ようやく事態が動く。

緊張の息を吐いたと同時に地面から蟻の王が這い出てきた。


蟻には我慢という言葉が無いらしい。


そのまま槍を向けて突っ込んでくる。


よく見ると王蟻の体が少し黒くなっているように見えた。

本当に少しの変化だが、技能が関係しているはずだ。


それが強化された状態なのか、強化が解除された状態なのか……考えるまでも無く後者だ。

あきらかに機動力が落ちている。


おそらく熱に関する技能だろう。土の中で冷えたため機動力が落ちている。

元は赤く光っていて、今は黒くなっている。【火食い】の効果か、他の技能か……。


これなら隙を伺う必要も無い。

一撃で決める。


魔剣から火を消す。

風が冷気を引っ張り、私に有利な戦場を作る。


熱に関する技能ならこれだけでも効果がある。


突きの姿勢で槍を持ち飛んでくる王蟻。

その槍に合わせるよう魔剣を斜めにし……瞬間移動で王蟻の背後を取る。


槍と剣がぶつかる瞬間、王蟻はブレーキをかけていた。

間合いを計るならそれは有効な手段だったが、その攻撃相手が間合いの、それも後ろを取っては意味のない行為だ。


剣を振り降ろす。

羽を切り落とした時と違い、王蟻の反応が遅れる。


首から肺を切り裂く軌道は、直前で王蟻が体を捻った事でズレる。


右肩から右脇腹を通り、槍を持っていた王蟻の右腕を斬り飛ばす。


「KIIIIIII‼」


「……ッ!」


その瞬間、王蟻の体から赤い光が再度噴き出す。

痛みと怒りから発狂する王蟻。理性を失いなりふり構わず左腕を振り回す。


横から来る腕、それを返す刃で防ぐ。


ギチギチと音が鳴る。


片腕になりバランスが悪い状態で、拮抗する剣と腕。

【狂暴】【怒り】の技能が能力値を上げたのだと予想する。一撃で仕留められなかった事が悔やまれる。


「ッ……さっさと、死になさいよ!」


「KIIIIIII‼」


押し返そうとするが、王蟻の方が強く振り切られる。

その反動で体がよろけ……。


「っ―――」


お腹に重い一撃が加わる。


すぐに体を火に変え、その場から逃げる。

後退し、遠くから暴れる王蟻の姿を観察する。


「……はぁはぁ」


一度の拮抗、一度の攻撃、それだけで体力が持っていかれた。

体の痛みは徐々に回復しているが、体力の回復はすぐにはできない。


攻撃を受けるのは避ける必要がある。

それに攻撃手段も考えなければ駄目だ。王蟻が発狂した時、体から熱が出ていた。

火の攻撃は敵を強化する可能性が高い。


もう一度隙を伺う時間も無い。


「……あれを拾えば」


落ちている蟻の腕を見る。

正確にはその手に握られている槍。


『雷神の槍』


聖樹の実の効果が切れてもナツキがいるから逃げる時間は稼げる。

それにこの場を引いてあの王蟻を野放しにすると被害が広がる。


軍の中でアレを倒せる実力者は自分を除けば3人程度だ。


「……」


傷の痛みが無くなった。

残された時間は3分。


体を炎に変え、蟻の腕が落ちている場所に転移する。



落ちている槍を掴んだ瞬間、王蟻の姿が揺れる。

気が付けば目の前に立っていた。


「なっ……」


下から上に蟻の腕が動く。

視認はできていた。でも、一瞬の出来事に思考が追い付かず……一歩下がる事しかできなかった。



風の障壁と衝突する。

風の障壁は腕の勢いを少し削いだ程度で割られ、横腹を殴り飛ばされる。


「……グッ」


まだ思考が追い付かず、受け身の姿勢が取れない。

地面を何度かバウンドし壁にぶつかり止まる。


壁にぶつかった衝撃で肺に入った血が吐き出される。


横腹を殴られ、肋骨が折れたのだ。

追いついた思考で現状を理解し、体を火に変えていく。


体を火に変える事で一時的に傷が無くなり、聖樹の実がそれを回復させる。

残り時間でも、おそらく回復は間に合う。


立ち上がろうとして、膝をつく。


体の回復に体力を持っていかれ、立ち上がる気力もない。

この状態ではもう1つある聖樹の実を食べても意味がない。しばらく動けないのは変わらないのだから。



ゆっくり近づいてくる王蟻。


判断を間違えた。だが、後悔しても遅い。

動けない体を槍を杖にして立ち上がる。


せめて一撃……。


王蟻を見据えて――その王蟻の姿が揺れたとき空に影がかかる。


巨大な剣が空から落ちてきた。




「イリーナ!」


風に飛ばされる私をナツキが受け止めていた。





――――――――――――――――――――





目が覚めると痛みで息が漏れた。

手には真っ二つに割られた重盾の残骸があり、それを持っていた腕は青黒く腫れている。


たぶん骨が折れている。


中級ポーションを取り出し、口に含むと痛みがだんだん引いていく。


どうやら赤い蟻に飛ばされたらしい。

その衝撃でマジックバックがいくつか壊れ、ダメになったポーションも多い。


とりあえず代わりの『風神の盾』を出して、周りの様子を伺う。

魔蟻は居ない。代わりに赤い蟻が中央で叫んでいる。


よく見ると片腕が無い。

たぶんイリーナさんが切り落としたんだ。


「イリーナは……」


あの赤い蟻と戦っているなら近くにいるはずだが、見える範囲にいない。

どこにいるのか探していると、火が出現しそれがイリーナだと気づく。蟻の巣で見た時よりも火が体を包んでいるが、あれがイリーナの本気の姿という事だろう。

そのイリーナが何かを拾った瞬間、赤い蟻が動いた。


残像を残し、まるで瞬間移動したように蟻がイリーナさんの前に出現する。

そしてその腕がイリーナさんを襲った。


―――危ない。


危険な状況だと判断して足を動かす。


「――召喚【バルバトス】」


少しでも時間を稼ぐためバルバトスを召喚する。


赤い蟻は召喚されたバルバトスに気づいていない。気づいていないというより、まるで理性が無く目の前の獲物しか見えていないようだ。


バルバトスが剣を構え――投げる。


「ちょッ!?」


私は急いでイリーナさんの所に向かった。


「―――イリーナ!」


大剣の方が早く着弾したが、何とかイリーナさんをキャッチすることに成功する。


蟻は大剣を避けていた。

その大剣が消しえると、バルバトスが空を跳ぶ。その手には投げた大剣を持っていた。


十メートルの巨体が落下する勢いで大剣を振るう。


その大剣を赤い蟻が受け止める。


片手で受け止められず、地面に片膝を付いた。

怪我もあり押しているように見えるけど、倍以上のバルバトスの攻撃を片手で受け、片膝しかついていない。多分時間稼ぎにしかならない。


「イリーナどうする?逃げる?」


「……あれを野放しには、できないわ」


「でも、イリーナも限界じゃない」


受け止めた時はまだ火が体を覆っていたが、今では元通りになっている。

元通りと言っても、鎧は傷つき横には大きな穴が開いて肌が見える状態になっている。息も切れ胸が上下に動いている。


「ええ。だから、あなたが戦う」


「いや、無理無理。攻撃を受け止められなかったし」


「大丈夫。能力値が上がる……はぁ、ドーピングアイテムが……はぁはぁ。たぶん、これを使えば……降臨も使える。私が、そうだったから」


そういってバックから小さな果物の実を取り出し渡される。

こんなアイテム見た事が無い。たぶん貴重な物だと思う。


「あなたに、賭けてみようと思うの」


「……もし負けても知らないよ」


「この槍も、使って。きっと役に立つから」


そう言って渡された槍を見て、イリーナの考えが分かった。

これは松岡ハンターがもっていた『雷神の槍』。『風神の盾』とセットになる武器だ。


これと降臨も使えば私は松岡ハンターと同等の力を使える。







聖樹の実

rank SS

効果時間15分。

全ステータス基礎値+10

即時欠損を回復。細胞再活性化(若返り)。技能条件をすべて開放する。

【リジェネ(超)】 傷を回復する。

【魔力回復(9000)】 魔力を一秒ごとに10回復する。

【キュア(超)】 状態異常を10秒ごとに1つ解除する。



武蔵 夏輝

聖樹の実バフ


ステータス+10 (9倍)【3倍+攻防実数値6倍】


攻撃力 5+10 (135+144)【495+528】

防御力 6+10 (144+135)【528+495】

体力 4+10 (126)【378】

魔力 16+10 (234)【702】

知力 12+10 (198)【594】

運 30+10





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