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37,赤い流星





壁に取りつく蟻を処理する楽な仕事。

そのはずだったんだけど、蟻が地下を通って現れ、壁の周りを囲まれてしまった。


魔力が無くなった参加しているハンターを下げる事も出来ず、壁の上で膠着状態。

範囲攻撃の少なさが露見した瞬間である。



「次から次に鬱陶しいわね」


「壁を大きく作り過ぎたからでしょうか?」


「大きい壁にしたから敵もこっちに引き付けられてるっすよ。……あ、また上がってきたっす」


蟻の巣と違って見晴らしもよく、蟻も通常個体だけ。

これで苦戦する事は無いけど、数の暴力に守る範囲の広さ、そしてなにより前衛の少なさ。


とにかく人手が足りない。


イリーナさんも魔法を止め、剣で戦っている。


「こう、広範囲にドンって魔法無いの?」


「できますけど、皆さんも巻き込む形になりますよ?」


「ほら喋ってないで蟻の駆除っす。また壁を崩そうとする蟻が……行ってくるっす!」


壁は魔法で頑丈にしているとは言え、蟻の顎は大岩も砕く。

噛みついて砕こうとする蟻は結構いた。


それでも壁が保っていられるのは縦も横も幅も大きく設計されているからだ。

ただ、何度も壁に攻撃されて貫通しているところも存在する。


そのたびに西ハンターが降りて壁の修復をしていた。


「あ、また街の方に向かったわね」


「もうそれはロマノフのハンターに任せましょう」


「まあ、救難信号もなさそうだし大丈夫でしょ」


登ってきた蟻を盾で弾き飛ばし、宙に浮いた蟻を陽子さんが魔法で貫く。基本どの蟻でもこれで片付く。


吹き飛ばした蟻はそのまま絶命したのか、地面に衝突した蟻はひっくり返ったまま動かなくなる。

そしてそれを覆い隠す数の蟻がまた這い出てくる。


「イリーナの魔法ならここら辺をパーッと消せそうだけど」


「魔力の消費を抑えてるんでしょう。魔剣もどれくらいの魔力を消費するか分かりませんし、まだまだ這い出てきそうです」


それは分かってるんだけど、さすがに体力がキツイ。

2時間くらい右に左に走り続けてる。


そんな私と対照的に西ハンターも陽子さんもまだまだ余裕がありそう。


つまり私にはまだ無駄な動きが多いという事だ。


「疲れたから休憩……って言える状況でも無いのよね」


「思ったのですが、魔女杖を使って移動すれば楽ですよ」


「……それもっと前に言ってくれない?」


アイテムバックから魔女の杖を取り出す。

正直売ろうか悩んでたんだけど、体力回復の為に仕方ない。


傷でもついたら値段が下がるから慎重に使おう。


「――【浮遊】」


「あ、私も載せてくださいよ」


「これ1人用だから無理」


次の蟻が昇ってきたので向かう。

地面を一歩蹴るだけで、一気に20メートル以上の距離を移動できる。

空を自由に飛ぶって事では無いけど、これは楽だ。


そのまま勢いで突っ込んでいって盾で押し出す。


蟻は下に落ちたが、反動で私も空に浮かんでしまった。


これは少し考えて攻撃しないといけないな。

体の次は頭を酷使する番か……。


「ねぇナツキ。そんな便利なモノ持ってるなら先に言いなさいよ」


「あ、イリーナ。ちょっと待っててそっちに行くから」


杖に跨いでいる足をパタパタさせて壁に近づく。


意外に杖に跨るのは難しい。

練習すれば跨らなくても乗れるようになるかもしれないけど、今はバランスを崩しそうで怖い。


「ねぇ、それ使って蟻の後ろに行って来て」


「え、1人で突撃とか無理」


「違うわよ。召喚するの」


1人で蟻のヘイトを買ってこいって言われているのかと思ったが違った。

召喚と言われて思いつくのは1つだ。


ただ制御できないし、ちゃんと蟻を攻撃してくれるか分からないけど……。


まぁ、百メートルくらい離れていれば大丈夫でしょ。


「オッケー行ってくる!」


「一人抜ける分の時間くらいなら稼いであげるわ」





街の方に向けて壁を蹴り移動する。

その私の後ろでは火が轟々と蟻を丸焦げにしていく。


その火の勢いが杖の速度を上げ、一気に敵の中央を超える。


「あ、着地どうしよう」


地面までの距離10メートル。

これを有徴に降りていたらさすがにイリーナさんもキレそうだ。


少しづつ高度が落ちるように杖を傾けると、空の私に気づいた蟻が一斉に動き出す。


「うわ……もう召喚しようかな」


壁に攻撃していた蟻の内、半分くらいが釣れてしまった。

もしかしてこれを企んでいた?なんてね。イリーナさんでもここまで予想するのは無理でしょ。


しかし半分。

約1000匹の蟻。


空から見上げるとまるで、蟻がゴミのように見える。


「しかし、落下地点が無い。もう結構離れたし召喚するか――【バルバトス】」


その瞬間、火が空から落ちてきて、地面にたむろしていた蟻を粉砕する。

こんな召喚演出、前には無かったんだけど?


一応盾を構える。

これまでの事から攻撃されないと思うんだけど、今攻撃されたら魔女みたいに潰れそうだし。


「……」


【……】


「バルバトス、蟻を攻撃して」


【……】


ダメだ反応が無い。

まるで屍のようだ。


10mの巨体と目が合う。鬼のような顔だ。

その鬼は馬鹿にするように鼻を鳴らし、手に持っていた大剣を振りかぶる。


それだけで風が起き、『浮遊』していた私は蟻ともども吹き飛ばされる。


「ちょッ……!?」


幸い飛ばされる方角がまだ壁の方だったので、風に流されながら西ハンターにキャッチされる。


「何やってるんすか」


「……アレが悪いのよ、アレが」


指をさした先ではバルバトスが剣を振り回し、そのたびに業風が吹き荒れる。

このままだとまた飛ばされそうなので、杖から降りてバックに仕舞う。


……前の方が言う事も聞いて腕も6本あって絶対便利だった。


ただ、その戦力は高く、バルバトスに群がっていた蟻は一瞬で吹き飛び斬り殺されていく。


「……少しは認めてあげるんだから」


「急にっすか?」


「西ハンターじゃないです」


下ろしてもらい、状況を見る。

私がいなくても問題なく防衛で来ていたようでどこも崩れていない。


それどころか、今は壁を攻撃していた蟻も戸惑っているようだ。

まぁ、蟻からしたら急に10mの化物が後ろに現れ挟撃されているようなものだし。


「というか、あれを暴れさせたのはマズイっすね」


「なんで?」


「下が穴だらけなんで―――」


その言葉と同じタイミングでバルバトスが大剣を地面に叩きつけた。

その瞬間、地面が大きく揺れ、地面が陥没した。


一瞬宙に浮く感覚と重力に引きずられる感覚、まるでアトラクションだ。

受け身を取りそこね尻もちをつく。


「っいつつ」


「お尻痛いっす」


沈没で壁の一部が崩壊して、魔力切れのハンターたちが騒ぎ出す。


私は知らん顔しておこう。


「よく壁がもったわね」


「修繕作業が全部無駄になったっす」


「……そんな恨めしそうな顔で見ないで」


罪悪感が湧くじゃない。

という冗談は置いておいて、蟻のほとんどが沈没に巻き込まれたのは僥倖。これで街に向かう蟻は減るだろう。


4メートルくらい沈没したがまだ壁は地表より高い。

バルバトスが悪さしないか見守らないと。


西ハンターから顔を背けていると背中を杖で突かれる。


「夏輝さん、やってくれましたね」


「……私知らないわ。イリーナがやれって言ったの!」


「知らないのか、知ってるのか、どっちかにしてください。お尻痛いです」


陽子さんが現れ、杖を持っていない手でお尻をさする。

どうやらみんなお尻をぶつけたようだ。


「それよりアレ。もう消してもいいんじゃないですか?」


「そうね。ほかにも迷惑かける前に―――」


―――その時、赤い流星が空から降って来る。


それはバルバトスへと落ちていき、バルバトスの大剣と交差する。

雷が落ちた時のような轟音が鳴り響き、砂塵が広がる。


「―――なに、あれ」


勘が警告を鳴らす。


砂塵が晴れ、バルバトスの姿が見える。

落ちてきた何かと戦っていた。


「……ここから鑑定できる?」


「無理です。逃げましょう」


アレが現れてから体の震えが止まらない。

私の勘が危険だと警告している。


それは他のハンターも同様で、陽子さんも逃げるように提案してくる。


バルバトスならもしかすれば……。

そんな考えも赤い光が消し去る。


「あ……」


喪失感が体を襲い、力が抜けて膝をつく。


直前バルバトスが視界から消えていた。

あの巨体をどう倒したのか分からなかったが、何か放電しているように見えた。ダメージを受けすぎたようだ。


再度召喚するか考え、やめる。

今ここで召喚すれば他のハンターに攻撃がいくかもしれない。


「夏輝さん、鼻から血が……」


「……ほんとだ。倒された反動?」


強力な技能には反動があるというけど、召喚系の技能もあるなんて聞いた事が無い。

初めての事で驚いたが、今は気にしている暇がない。


あの赤い光は間違いなく蟻だろう。

次に狙われるのは私たちだ。


「イリーナと合流して守りを固めないと」


「肩を貸します」


「ありが……っ」


肩を貸してくれた陽子さんを突き飛ばす。

今は重く感じる盾を構え2人を守るように前に出る。



――ドゴッ


次の瞬間、腕とお腹に衝撃を受け宙に浮く。

何も分からず背中に衝撃を受け、私は意識を手放した。





――――――――――――――――――――





「……全員撤退の準備をして。魔法使いを逃がす事を優先」


「「……了解」」


バルバトスにぶつかる赤い蟻がイリーナには見えていた。

魔蟻の中に赤い蟻は居ない。特殊個体だとすぐに結論付ける。


アレと戦うバルバトスは、その大きさが仇となり攻撃を一方的に受けていた。

おそらく炎と雷の攻撃。


炎が皮膚を焼き、雷が内部を攻撃する。


人が受ければ一撃で動けなくなるであろう攻撃を、何十と受け、それでも大剣を振るっている。

だが、やはり一方的にダメージを受けすぎている。


限界はすぐに来るだろう。


「……もう一度召喚させる?……危険ね」


制御できない力を解き放つのは恐ろしい。

これは最後の手段にとっておくべきだ。


「逃げる時間は稼ぐべきね。……今回の作戦は失敗だわ。S級の魔物がいるなんて聞いてない」


「イリーナ、あなたが逃げて。私たちが犠牲になるわ」


「……あなた達では無理よ。時間を稼ぐこともできない」


前衛のアゼフなら少しは時間が稼げるかもしれないが、他はあの速度に反応できない。

つまり時間稼ぎにもならないのだ。


それならば殿を務めるのは自分が適任であるとイリーナは考える。


「一度言ってみたかったのよ。……ここは私に任せて先に行きなさい。すぐに追いつくわ」


「それ死亡フラグでは?」


「最近は違うわよ。強くなって戻ってくるの」


「……ご武運を」


これくらいリラックスした状態の方が戦闘はしやすい。

登って来る蟻を駆除して、その時を待つ。


その時はすぐに訪れる。


巨体が視界から消え、視界の端でナツキが膝をつく姿が映る。

おそらく技能による反動だろう。


イリーナの持つ技能にも強力な反動がある。

それを抑える為に聖樹の実を使っていたりする。


聖樹の実を取り出す。

予備として渡された物だが、使う羽目になった。


この借りはいずれ原因になった国に支払ってもらう。


「――【魔剣イグニス】――【ブレイブ】」


召喚した魔剣を体に取り込む。

中から焼けるような感覚とともに、全能感のような力が湧き上がってくる。


「――【支配者の降臨】」


聖樹の実がある状態でしか使えない強力な技能。

支配者と呼ばれる技能を持つ者だけが使える。


体が火に包まれ、すべてが火へと変換される。



赤い蟻が飛んでくる。

狙いは――ナツキ。


おそらく召喚者を見抜いたのだろう。

魔物の中には危険な技能を持つ人間を狙い撃つ個体がいる。あの赤い蟻も同じだろう。



その場から()が消え、次の瞬間蟻の背中に出現する。


ナツキは盾が割られ、吹き飛ばされてしまったが隙ができている。

蟻の背中に向けて魔剣を振る。


―――捕らえた。


確実に背中を取った不意の一撃。

イリーナは蟻の上下が分断される姿を幻視した。


だが、蟻は寸前でイリーナの存在に気づき、その巨体を逸らす。


イリーナの剣は蟻に当たったが、背中の羽を焼き切るだけになった。


「早乙女、鑑定」


「ッ……ネームドです。『アグニの使徒』能力は―――」


飛べなくなって地面を蹴り逃げる蟻。

直前で鑑定が間に合い、能力が判明する。


「能力は―――【火食い】【狂暴】【怒り】【権能】です。他は王蟻に似てます」


「そう。よりによって王蟻のネームド個体なのね」


それに火の技能がある。

これは少し不味いわ。







ステータスは本編とはあまり関係ありません。



【王蟻〈アグニの使徒〉】 第3世代

危険度 A~SS

全長5m 人型 神属性

世代能力上昇値 3:1.2倍


技能


【軍隊行動】

【王の命令】

【軍隊命令(上級)】

【軍隊士気向上】

【甲殻武器化・鎧化・強化】

【斬・突・打撃耐性(上級)】

【毒・麻痺・睡眠耐性(上級)】

【種族――虫】

【種族特性――蟻】

【火食い】  火を喰らいステータスを上昇させる。上昇値は炎の量<最大2倍

【狂暴】  ステータス1.5倍。理性を失い、怪我をするほどさらにステータスが増す。(1.5×最大1.5=2.25倍)

【怒り】  怒りが体の熱に変わる。5℃上昇するごとにステータス基礎値+10。最大100。(外気温で体温が下がる)

【アグニの権能】  火が体を強くする。火は原初の力。取り込めば体を癒し、神へと近づく。ステータス1.5倍。火回復。【神属性付与】


ステータス (最大時+100)【最大8.1倍】


攻撃力 160:A【1296:SS】

防御力 160:A【1296:SS】

体力  160:A【1296:SS】

魔力  160:A【1296:SS】

知力  160:A【1296:SS】


通常時は250~500。

火を食べると500~1000のステータスになる。(最大になる事は滅多にない。ステータスが800を超えると自身の命を削る)


強化時間は火が冷めるまで。

寒い地域だと短時間で通常時のステータスに戻る。



※本来ならバルバトスの方が強いです。ただ、召喚者のステータスが足りず、バルバトスのステータスは半減、魔剣を召喚する技能以外使えない状態となっています。また、バルバトスの本体が解放されていない状態で、今は本能のままに剣を振るだけの存在になっています。



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