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36,魔女犠牲





第三都市を任された『魔女の茶会』のリーダー立華は不穏な空気を感じ取っていた。

第二都市の方角に竜巻が見えた時に、何か予想外の事がおっ来たのだとすぐに分かったからだ。


「嫌な予感がするわね」


その予感は的中し、ロマノフの情報艦が1人走ってきて情報を伝える。

それは第二都市防衛の崩壊であった。


松岡ハンターが負傷し撤退した後、蟻によって崩壊したと情報が入ったのだ。


「……少なくとも彼が普通の蟻に負けるとは思わないわ」


「特別な蟻がいると言う事ですね。我々も撤退しますか?」


「……ふふ、あなた達だけで撤退しなさい。私にはそれを迎え撃つ必要があるの。危険は承知の上よ」


立華が危惧したのは日本の立場だった。

この氾濫の原因は日本ではないとはいえ、Aランクのハンターがいて一つの都市を落とされている。その責任の矛先が日本人に向かないよう活躍したという事実が欲しかった。


もちろんこの選択に自分の命が危ぶまれるのも承知の上。

ただ、この選択に他の仲間を巻き込みたくはなかった。


また自分が死んだとしても、この目的は達成される。

Aランクハンターが命をかけて守った。この事実があれば日本とロマノフの関係が悪くなっても、市民の感情はそう悪くならないだろう。


「これでも激動の時代を生きてきたの。どんな相手でもそれなりに戦えるわ。あなたたちは撤退の準備をしなさい」


「……分かりました」


「そう、いい子ね。もし私が……いいえ、なんでも無いわ」


撤退の準備をする仲間。

攻めてくる蟻の群れを魔法で迎撃しながら第二都市の方を見る。


Aランクのハンターなら数千の蟻を蹴散らす事ができる。それは人外の領域に足を踏み込んでいるからだ。

簡単な話、人は疲れる。だがAランクのハンターは疲れない、或いはすぐに回復する方法を持っている。


立華の場合は魔女装備と技能が10を超えている事だ。


これにより、魔力という枷を無くしている。



「ふーん。下を通っているのね」


最初にいた蟻のほとんどを片付けた立華は地面が揺れている事に気づき、その揺れが何かに気づく。

蟻の軍隊が地面を通って移動しているのだ。


確かに土の下だと有効な手立ては少なく、戦闘中は揺れに気づきにくい。


ただ、すでに戦場には立華1人しかいない状況。

この状況ならやりようはいくらでもある。


「――【黒の守り】――【闇の引力】」


シールドを張り、技能の黒い球体を空に飛ばす。

その球体は空で膨張し次の瞬間、半径200mの物を吸収しはじめる。


当然地面にいた蟻も、立華が立っている場所以外の壁や地面も、地面の中にいる蟻も空中に吸引され丸く押しつぶされる。


多くの物が空に向かっていく中、赤い光が物を避け向かってくる。


「あら、地面に隠れていたのね」


それが何か立華の肉眼では確認できないが、技能の引力に逆らえる存在であると分かる。


気配を消して地面に隠れていたようだ。


向かってくる光に杖を構える。


「――【闇の手】――【使い魔・カラス】」


黒い手がいくつも現れ、赤い光を掴もうと迫る。

その反対には黒いカラスが出現し、手と挟撃するように動く。


近づいていた敵はその攻撃を警戒し後退するが、どちらも追いかける。


「勘がいいのね」


逃げる光を杖先で捕らえながらタイミングを計る。


一瞬の隙さえあれば叩き込める。

その一瞬の隙はすぐに訪れた。



地面から浮き上がる蟻を盾にしようと掴んだ王蟻だが、その盾にした蟻をすり抜け黒い手が現れる。

反応が遅れ黒い手に捕まり、カラスが襲う。


そして、そこに―――


「――【エーテル・レーザー】」


―――光のレーザーが襲う。



2秒。

そのレーザーが空を貫き消えるまでの時間。


Aランクゲートのボスでも一撃で倒せる威力だ。

おそらく倒せただろう。


「……ふぅー」


緊張していた息を吐く。

九州が収まった球体を見上げ、できた窪みに下ろす。


その球体の天辺に赤と黄色の光が見えて―――



――パリン


バリアが壊れる音と同時に飛び降りる。


「……ッ!――【浮遊】――【黒の守り】――【ストーム】」


壊れたバリアを再度展開し、浮いた体を風で飛ばす。



距離を取るように風で移動する立華を蟻の王は黙ってみていた。

凹んだ立地に一つそびえる塔の天辺で人間を観察する。


先ほどの人間もそうだが、強い。

人間は弱い個体ばかりではないようだ。


蟻の王は考える。

まだ傷も癒えていない中で、さらにダメージを受けた。


さっきまであった体への重圧は無くなったが、次同じことが起きた時反応が遅れるかもしれない。

それは致命的な隙になる。


ここは一旦引くべきか……。


―――いいや、殺すべきだ。


あの攻撃は一瞬で巣を崩壊させかねない。

命をかけても殺す。



「……雷帝で威力を抑えたのね」


雷を纏った蟻を見てあたりを付ける。

蟻が持っているのは松岡ハンターの槍だろう。


動かない蟻の殻は傷つきひび割れている。

雷帝の守りが無ければ倒せていた。


「KIIIIIII‼」


「――【闇の手】【使い魔・猫】」


再び黒い手が出現し、蟻の王を捕まえようと動く。

蟻の王から距離を取る為、召喚した猫に乗り地面に降りる。


そのまま地面を駆け、蟻の王に杖を向ける。



その姿を見た蟻の王は黒い腕から逃げるように飛ぶ。

そのせいで距離ができるとしても、もう一度光のレーザーに当たれば致命傷になると分かっているからだ。


「残念ながら連発はできないの。でも他の能力なら使える」


蟻の王が地面すれすれを移動しているのを見て、作戦が上手くいったと確信する。

窪みを使って姿が見えないように移動しているようだが、関係ない。そこ一帯を焼き尽くせばいい。その材料なら既にある。



「――バン」


その瞬間、吸収されギュウギュウに固められた球体が爆発する。


第2プランとして隠しておいた爆弾魔法だ。

本来地面に作っていたものだけど、吸収されて球体の中心で爆発した。


その威力の凄まじい事。


地面が揺れ、爆風で1キロ離れた建物が崩れる。

窪みは溶解し、赤黒くドロドロと解ける。


猫を進ませ確認する。

温度が下がり黒色の大地ができていた。


前の事もある。

油断せずに探す。


Aランク並の蟻だ。

今の爆発で倒したとしても、死体は残っているはずだ。


無い場合、あれはまだ生きている。



観察する事、数分。

何も動きはない。死体も無い。


倒せたのか、逃げられたのか……。



その時、地面が揺れる。

判断が遅れ猫を犠牲に地面を転がる。


使い魔の猫は蟻の攻撃を防ごうとしたが、槍に突かれて消える。


「さっきの爆発で無傷?……いいえ、回復したのね。面倒な技能を持っているようね」


ヒビが入っていた殻は元に戻り、爆発でついた傷は見当たらない。

熱せられているのか、さらに体は赤くなっているが、それ以外は回復している。


こういう時に鑑定系の技能があれば楽なのに……。

そう思いながら武器を構える。


まだシールドは残っている。

魔力の消費もほとんど無い。体力の消耗も少ない。


油断さえしなければ負ける事は―――



一瞬、蟻の姿が揺れる。

次の瞬間、パリンッ――バリアが壊れる音がして目の前に蟻の王がいた。


「――ガッ」


杖で防御態勢を取ったが一歩お遅く、蟻の王の手が立華の左胸を貫いた。



致命傷。

意識を失う直前、蟻が急に強くなった理由を知る。


蟻の王の体からは薄く火と煙が出ており、体が赤いのはその熱だった。

爆弾魔法で熱せられた空気が蟻の王を強化したのだ。



―――鑑定系の技能があれば……。ごめんね志穂しほ


遠のく意識の中、最後に自分の娘を思い浮かべ地面に倒れる。





蟻の王は口を歪ませ笑う。


「KIKI」


投げた槍を拾い蟻の王は次の戦場に向かう。





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