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32,一時帰還


2ヵ月ぶりの投稿。

遅くなりました(;'∀')汗m(__)m






北中国にある研究都市。

20年前ゲートが出現し、まだ南北に別れていなかった時に作られた未知の生物や技能を研究するための都市。


20年の間に多くの研究が行われ、10以上の研究ドームが作られた。

その研究内容は機密情報。知る者は少ない。


どこの国もゲートについて研究する機関が存在するが、北中国は自分たち以上に研究が進んでいる機関は無いと自負していた。

なぜなら、この施設では魔物を飼っているのだから。


……そう、北中国は魔物の制御に成功していた。だが、これは過去の話になる。



―――その研究都市が魔物によって崩壊した。


特に被害が多かったのは蟻を飼っていた地下施設。

蟻はその性質上、金の卵を産む鶏だ。ただの鉄がレアメタル以上の価値にもなる。だから際限なく使役する数を増やした。結果、研究都市だけでなく多くの街に被害を及ぼす結果となる。





「―――馬鹿なッなぜ蟻の制御が……」


そう叫んだ所長だった男は頭を蟻に喰われ絶命する。


「ヒッ……」


研究員たちはその光景に怯え、5メートルはある人型の蟻を見る。

蟻の頭でありながら、その顔は憤怒に満ちていた。


王蟻であろうと女王の指示に従う。

それが蟻の世界でのルール。


だが、蟻たちが女王だと信じていた存在は女王では無かった。


女王は殺されていたのだ。

蟻の頂点は女王である。使役する上で女王は不要だったのだ。


女王には繁殖能力があるとはいえ巣は他にもある。蟻はどこからでも補充できたのだから。



「だ、だから反対したんだ!魔物を飼うなど……」


ゆっくりと下ろされる手。

まるでギロチンのように、その手が触れた瞬間一人の人間が引裂かれる。

ゆっくり一人ずつ……逃げようとしても他の蟻に喰い殺される。研究員たちに逃げ場はなかった。


「超人たちはまだなのか!」


「ま、まさか見捨てられた……」


「た、助けてくれぇ……」


「たかが蟻ごときに、超人部隊が負けたと言うのか……」


研究員たちが蟻を制御できたのは超人の技能があったからだ。その制御が無くなった。



1人、また1人と蟻に殺されていく。

ゆっくりと、じわじわと敵が迫る。


待てど救援は来ない。

そして、最後の1人がその死神の鎌に裂かれる。


「―――」



蟻の王が叫ぶ。

その声に反応して蟻の軍勢が一斉に動き出す。


目指すのは新たな女王が住む地。



蟻の王は最後に手を振り上げ、カメラを破壊した。



―――蟻の手が振り下ろされるのを最後に映像が終わる。



「それで、原因は何だ?」


「使役していた超人の死亡が原因かと……」


「そんなもの見ればわかる。なぜ死んだか聞いているのだ。ただ蟻を連れて帰るだけの任務だったはずだ。敵の超人がいるならすぐに撤退するよう伝えてあったはずだが?」


魔物使いの超人が死んだ場合こうなる事は目に見えていた。

だからこそ、精鋭を護衛に付け万に一つも失敗は無いと考えていた。


だが結果はどうだ?


北中国が誇る研究都市は崩壊、周辺の町は魔物の波に飲み込まれ多くの超人を失う事になった。

それにまだ魔物は国内に残っている。このまま繁殖でもされれば何十年と脅威になるだろう。


「蟻は北上したが、本来の計画と大きく異なる。このままロマノフが弱体化し併合されるような事になれば……」


「我々には戦争する余力がありません」


「……ふ、まさか敵国の勝利を願う日が来るとはな……閣下には私から伝える。私の首一つで済めばいいが、死にたくないなら亡命の準備でもするんだな」





――――――――――――――――――――





王蟻の撃破。

魔剣を取り込んだイリーナさんは炎に包まれ、8本の炎の魔剣を召喚した。その内3本の魔剣に貫かれ王蟻は死亡。蟻の援軍も無いし、本当に蟻の数が少なかったようだ。


魔剣の炎が爆発を起こすのでは?と少し心配したが炎に見えるそれは光っているだけの魔力のようだ。


私が王蟻に刺さった魔剣を見ていると、その魔剣が消える。

イリーナさんが召喚を解除したようだ。


「ナツキ、その死体を回収しといて。私はこっちの遺体を調べるわ」


そう言って王蟻が持っていた死体を調べ始める。

もしかしたら蟻の援軍が来るかもしれないし、私もする事をしよう。


私はアイテムバックからアイテムバックを取り出し、解体道具を取り出す。

アイテムバックの中にアイテムバックを入れるのは割りと知られている裏技。デメリットは重くなるのと戦闘中に二度手間がかかるくらいで、戦闘用のアイテムバックも持っていれば関係ない。

これにより複数のアイテムバックを持ち、かなりの量の食料や水、アイテムなどを持ち運べる。



「魔石が砕けてる……これじゃ売れないわね」


蟻を解体してアイテムバックに詰めていると、剣が刺さった部分から光る欠片が落ちてきた。

魔石の欠片だ。運悪く、あるいは致命的なダメージとして魔石に剣が刺さったのだろう。


魔石は魔物の心臓。これが破壊されればたとえSランクの魔物でも即死するという。


魔石はそこそこの値段で取引されるが、壊れた魔石に価値は無い。

Bランクなら500万前後、Aランクなら1000万くらい。魔石の大きさ的にAランクだと思うんだけど、残念ながら魔石はイリーナさんの剣で砕けている。


魔石の使い道は武具の強化や、武器を作るときに混ぜる事で特殊な武具を作る事。

砕けているとその効果が無くなるのだ。


だからどうしても勿体ないと思ってしまう。



「イリーナ、解体が終わったわ。そっちはどう?」


「……」


「イリーナ?」


アイテムバックに蟻の王を仕舞い近づくと、イリーナさんは死体のアイテムバックから何か特徴的なマークの遺品を取り出し見ていた。

何か思う所があったのか、私の声に反応が遅れる。


「ぁ……考え事をしていた。この遺体、たぶん北中国の奴らね。超人部隊って知ってる?」


「超人部隊って中国の政策だっけ?」


「そう。半分失敗したアレ」


超人部隊、他国では半英雄部隊って呼ばれてる。



技能によって人は本来のスペックを大きく超える事ができるようになった。

中国ではそれを超人と讃え、超人計画を指導した。


超人計画は簡単に言うと、技能を1人に集め英雄級のハンターに作る。それらを量産する事でアジアの武力的支配に乗り出そうとした。

結果はイリーナさんが言うように半分失敗。


1人に100億の技能を買い集めても戦闘機の方が強いし、なにより急激に能力を上げた人間は使い物にならなかったからだ。

中国の目的が武力によるアジアの支配であったため失敗だった。その上、これが原因で南北に国が二分する結果となった。


ただ、すべてがすべて失敗だったわけではない。

実際超人部隊は戦争で一定の活躍を見せている。また、魔物に対しても同様に成果を見せており、他国が半英雄部隊と言うように英雄には劣るがBランクハンター並の戦力を一人一人が持っていた。

そして、その武力を背景に救援という名目で北中国は魔物に侵略されていた国を支配したのだ。


ただ、それも長くは続かない。

一定の成果を見た他国が同様に技能書を買い集め兵士に技能書を持たせたからだ。むしろ相性のいい技能を見つけより強い部隊を作った。結果、超人部隊はそこまで脅威ではないという認識が広がった。

ちなみに、これのせいで能力値の上がる技能書は高くなり、物によっては国が争うため個人で購入ができない金額にもなる。


「あの国の超人部隊の紋章よ」


「じゃあこの死体って……」


「連中ね。先日の件と言い、何か悪だくみがありそうだわ」


先日の件とはデパートの事だろう。

あのテロにも超人が1人いたようだし、何を考えているのかよく分からない。


まさか本気で戦争でもする気なのだろうか?


まあ国の思想なんてハンターには関係ない。

知り合いの死体じゃなくてよかったと思っておこう。


『何かを仕掛けようとして運悪く蟻の王とぶつかった?でも、蟻の王も怪我をしていた。王の側近も居ない……側近が足止めしている?王だけが逃げたなら、それほどの脅威がいたという事……この状況でそんな戦力と戦えるの?』


「イリーナ?」


『逃げる?……戦闘後なら消耗しているはず。能力解放で傷も癒えた、勝算はある。再使用までのクールタイムはアレがある―――』


何かを考えていたイリーナさんがいきなり黙る。

その瞬間空気に緊張が走る。


美人系なイリーナさんが黙るとなんか怖いよね。

普段ニコニコなのに、急に空気が冷たくなる感じ。


「どうしたの?」


「……ナツキは何か感じない?」


「?」


「たぶん斥候技能を持った人ね。すぐに迎撃の準備をして」


何かを察知したのか私にさっきの場所へ行くよう言われる。

その指示に従って王蟻と出くわした横穴の壁に張り付く。


静寂の中、だんだん近づく音。

王蟻とは違い気配や音を最小限に抑えている。


おそらく人間だ。

数は……あれ?


気配を探した瞬間近くから反応があって、壁に付けていた背中から手が伸び拘束される。


「……ゥ!?」


「あれ?夏輝ちゃんじゃないっすか」


「……え?」


土壁から出た腕に拘束されたかと思ったら、すぐに解放される。

手が出た土壁を見ると西ハンターがいた。


「なんで?」


「なんでって、松岡先輩に誘われたからっすけど?それより夏輝ちゃんこそなんでこんな下層にいるんすか?」


「上が崩壊したから」


ズドーンと落ちた。

説明を省いてそう伝えると可哀想な人を見るような目で見つめられる。


その目が、“だから言ったっすよね”って言ってる。


確かに忠告は受けたけど、こんな事になるなんて予想できないじゃん。


「それは別としてっす、王蟻をわざと逃がして追跡してたんすけど、こっちに来てないっすか?女王蟻の所まで案内してもらう予定だったんすけど」


「……王蟻は倒しちゃったわ。それより後ろのお仲間に伝えてきてくれない?攻撃されるのも嫌だし」


「うーん、まぁいいっす。じゃあ伝えて来るっす」


私もイリーナさんに伝えてこよう。

というか、こっち見てるはずだし大丈夫でしょう。


まさか土壁から出てくる上に西ハンターだとは思わなかった。

あれが敵だったらと思うとぞっとする。今度からは土の中も警戒しないとね。


「こっちに向かってるのは『ドラゴンハント』みたい。西ハンターだったわ」


「そうみたいね。予想が外れてよかったわ」


「予想?」


「てっきり連中の仲間が来ると思ったから」


イリーナさんの予想を聞いて納得する。

蟻王が一匹だったのは近衛蟻が倒された証拠。進化した近衛蟻の大群を倒すほどの実力者はAランクハンターでも上位の存在だろう。イリーナさんが強いとは言っても、そんな連中と戦うのはリスクがある。


かといって道も分からないし、戦う以外だと隠れるくらいしか選択肢が無かった。

殺気イリーナさんが考えていたはこの事だろう。もし壁から現れたのが西ハンターじゃ無かったら、致命的な隙になっていた。


王蟻を倒して気が緩んでいたかもしれない。

帰るまでが攻略だ。気を引き締めないと。





『ドラゴンハント』のハンター達と合流して現状のすり合わせをする。

蟻の王を倒してしまった事で女王蟻の居場所が分からず、最悪崩落で穴が塞がっている可能性もある。また未確認の部隊、イリーナさん曰く北中国の超人部隊が巣の中で行動している。

『ドラゴンハント』のほうでも知らない装備や防具があったという事で、超人部隊がいたというのは確実だ。


皆が寝ているところに戻るとカミラさんが意識を取り戻していた。

他のハンターはどうやら昏睡状態らしく、体が頑丈なハンターとは言っても意識が戻るのは当分後らしい。


話し合いの結果、女王蟻の居場所も分からないという事でいったん撤退する事になった。


まぁ怪我人が結構いて、目的が不明の超人部隊もまだいる可能性がある。

この状態で進むのは危険と判断したのだ。






不満ありありといった表情で私を睨む松岡ハンター。

さっさとこの巣を駆除したい彼にとってみれば、私たちは邪魔しただけになる。―――ごめんね。


『ドラゴンハント』の面々を先頭に少し速足で帰る。

罠も行きに確認してあるらしく、西ハンターが先導する。



「―――爆発したってのは可燃性の物質が集まってたのか?ガスの可能性もあるが……」


「……私たちが逃げるときにまいた爆薬かもね」


松岡ハンター以外の人達はフレンドリーに話しかけてくれる。

後略を中断させてしまった上に、怪我人も運んでくれている。ふつうこういった場合は、事故を起こしたチームのリーダーが文句を言われる。

ハンターには人格破綻者も多いというのに、実に優しい先輩たちだ。


「まぁ何にしても不幸だったな!リーダーの事は気にしなくていいぞ。不機嫌なのはいつもの事だから」


「昭和のヤンキーに憧れてるだけだから。チームの名前も最初は『仏恥義理ぶっちぎり唯尊だぞん』とかで……あの時阻止するのは大変だったわ」


「火が危険って分かっただけでも収穫だし、それに他の層からでもあの空洞に繋がってる。なら探索も楽になるだろ。あとは女王蟻の居場所を探すだけだし攻略は目の前って事で英気を養える。あのままだと帰らずそのまま直行してただろうしな」


「リーダーはもう少し僕達の事も考えてほしいよね」


だんだん話が盛り上がり、松岡ハンターへの愚痴が始まる。

目が鋭くて怖い見た目とは裏腹に、仲間の愚痴には寛容なようだ。半分悪口のような愚痴でも聞き流している。


そんな器の大きい松岡ハンターも一つだけ許せない事があるらしく……。


「ネーミングセンスあるだろ。かっこいいだろ」


「リーダー、そろそろ認めてください」


「キザな態度も改めろー」


「かっこいいと思ってるのはリーダーだけよ」


「女子にデレデレなのもきもいっす!」


「いいや、かっこいいね。ネーミングも態度もかっこいいね。おい西、お前は後で殴る」


どうやらセンスが無いらしい。

そしてその事を言われるのが許せないらしい。


「……おいお前、今何考えた」


「センス無いんですね」


「おいおいおい、殴る奴増えたわ。動画の企画もう一回やれよ。今度は殴りに行ってやるから」


断固拒否する。


「もうそろそろ入り口ですね……ん?誰かがこっちに来てますね。二人なのでたぶん露払いを受けたハンターだと思うけど……」


「ちょうどいい。このお荷物をそいつらに持たせるぞ。そのあともう一回潜る」


「いやリーダー、俺らの話聞いてた?一回休もうって話だったじゃん!元気なのはリーダーだけだって」


入り口に近づいてくると洞窟に外の光が入り明るくなっていく。

先頭を進む斥候のハンターが言う通り、入り口から人影が動いて見える。でも、あれは―――


「なんか慌ててるみたい?」


「よく見るとハンターじゃねぇな。あれは入り口を封鎖してる職員だ」


「何かあったみたいっすね」


ハンターの視力で見えるようになってくる。

あちら側はまだ気づいてないようなので、西ハンターが先行して声を掛けに行った。



しばらくして帰ってきた西ハンターは予想外の言葉を言う。


「―――蟻が氾濫したみたいっす」





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