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30,なぜだ……どうしてこうなった?





やはりハンター同士の戦闘は見栄えが良かったようだ。

Live配信の後、動画を編集しそれを投稿したところ、なんと一日で視聴回数3万回を超えた。どうやらコアなファンもいるようで、すでにショート動画の切り抜きまで作られている。


特に面白いのが連続吹っ飛び動画で、私が空を飛ぶシーンが10連続で流れている。

そう、私が飛ぶシーンだ。


剣もできるが魔法型のイリーナさんと私、普通なら身体能力は私が上で良いはずなのに……勝てない。

これがAランクとBランクの差なのかと新しい切り抜きを見て遠い目になる。


ちなみに新しい動画のタイトルは【分かりやすいランクの差】である。

なんかCランクにイキってる私がAランクにボコられていて、こちらの視聴回数は5万回を超えている。しかもいいね!の数が異常だ。

コメントを見ると―――



:最初ノリノリなのにAランク相手だと全く動けていない。これが三日天下

:正直、メス分からせ系って好きじゃ無かったけど、この動画で好きになった

:ミノ姫が虐められるの見てて面白い

:なんだろうね、普通推しが怪我したら心配なのに、ミノ姫はもっと痛い思いしてほしいと思ってしまう。

:たぶん、脳筋だからだよ。脳筋だから一回痛い目合って学習させたいんだ。だからもっとイジメてくださいイリーナ様!

:たぶん本気で痛がってないからだよ。だって顔笑ってるじゃん。さすがⅯ姫

:あとは俺らがSだからだよ。これは本人が悪い。俺らにそんな名前を付けるから。

:あぁ、だから見てて面白かったのか……納得したわ



本気で痛かったんだからね!

正直、イリーナさんの素手の方が腕が折れた時よりも痛かった。



まぁでも、これでイザコザも収まっただろうし……よーし、今日から蟻退治がんばるぞー!



「ちょっと待ってほしいっす」



と、生き込んでみたものの、部屋を出ようと扉を開けるとまた西ハンターに止められる。


なにこれデジャブ?


「何?体ならもう大丈夫だけど?」


「時間軸ループしたっすか?」


「冗談よ。それで、本当に何なの?」


「まぁ、前回と同じっす。あの2人がまた騒いでるっすね」


はぁ?


「昨日の今日じゃない」


「騒げば思い通りになるって勘違いしたみたいっすよ。それと、イリーナさんにボコされたのを見て、自分でも勝てるって勘違いしたみたいっすね」


「それで、再戦でも望んでるってわけ?」


「そうっす」


昨日の対決では負けたが、自分たちの主張は間違っていないというのが彼らの言い分だ。彼らの主張とは蟻相手であれば自分たちの方が役に立つ、だから自分たちを連れていけって感じ。

まぁ、言わんとする事は分かる。


魔蟻という種族は物理攻撃への耐性があり上位種は特に硬い。

そういった相手と戦う時には魔法使い、魔法武器が必要となる。ちなみに、私の持つ魔法武器は『風神の盾』だけ。


蟻に風魔法はあまり意味が無い。


だから彼らの主張は一部正論である。

ただ、彼らにはその主張を通すだけの実力が無かった。西ハンターも言っていたが、彼らは実力不足だった。


「……前衛の必要性を理解していないのかしら?」


「理解はしてると思うっすよ。ただ、氾濫を甘く見てるっす。日本じゃ氾濫はほとんど起きない。それに2.5世代は魔物に対しての知識が乏しいっすから。まぁそれでもCランクになるならある程度知ってるのが普通なんすけどね」


2.5世代は教育が途中で変わった世代。

それにダンジョンの知識を試行錯誤していた時代だ。今では考えられない間違った知識などを教育で教えていた事もある。


それでもCランクのハンターならある程度知っていて普通なのだが、知っているのと現実が違うという事を分かっていないようだ。


ゲートと氾濫した魔物、それぞれに違いが存在する。


まずゲートの魔物は進化や世代交代が起きない。代わりに一定の数以上にならず、減っても時間が経てば補充される。ゲーム的に言えば敵がポップするのだ。

そして、これにより連戦が少なくなる。これは魔物が守るテリトリーに関係すると言われている。つまりゲート内でその範囲の魔物を倒すとポップするまでそこは安全地帯になるのだ。


対して氾濫した魔物は次世代を作り、数を増やす。世代を追うごとに強くなり、たまに進化個体も生まれる。それらのテリトリーは蟻で言えば巣の中、攻略をしていれば連戦は避けられない。



連戦で一番何が枯渇するか……魔法使いであれば魔力である。

そして、近接戦ができない魔法使いは魔力が枯渇した時点でお荷物になる。


彼らがもし近接戦ができて、私とある程度近接戦で渡り合えたなら実力不足と言われる事は無かっただろう。

だが、昨日の戦闘を見る限り純魔法使いで魔法もそこまで多く撃てない。これでは連戦で戦い続けられないだろう。


「もういっそ、連れて行ったらどう?」


「それが一番危険なんすけどね」


「でも、そうでもしないと一生騒いで私の邪魔するんでしょ?一度連れて行って痛い目見ればいいわ」


「……分かってると思うっすけど、一番大変なのは殿しんがりをつとめる俺らっすよ。指示に従うかも分からないし、絶対邪魔してくるっす。それでも連れて行くっすか?」


「一度だけ試しにね。それにこれ以上計画の遅れは困るでしょ?」


他の2チームは計画通り蟻の巣に入り攻略を進めつつある。それに対してトライデントは一番早く攻略を始めたにもかかわらず、いまだ巣の入り口程度しか調査で来ていない。

もちろん先に蟻の数を減らしていた事やルートを調べていた事で、他のチームの攻略がスムーズにいっているのもあるのだろう。それでも、本来であれば同じくらいの調査はできているはずであった。


私が体調を崩した事も原因だが、これ以上他のチームに迷惑をかける訳にもいかない。


それならいっそ、彼らの主張を通して攻略に参加させればいい。


「はぁー……編成を一度考え直すっす」


「半分私のせいだし謝っておくわ。ごめんなさい」


攻略するメンバーはいつも西ハンターが考えている。


全員で攻略すればいいと考える人もいるけど、魔物には適正人数と言うものがある。

これが平原の魔物とかなら人数が多いほうが有利になるのだが、蟻の場合巣の道が狭く、人数が多いと逆に全体の動きに支障が出る。

例えば撤退するのにも時間が掛かるし、その時間を稼ぐのは殿しんがりを務める前衛だ。


だからこそチームに不穏分子を入れたくないし、他のチームとは別々のルートで攻略をする。

蟻の巣後略の適性人数は5~8人だ。


「なんすかその謝りたくない感出しまくりの謝罪。別にいいっすよ。正直昨日ので納得しないなら、日本に強制送還してもらうくらいしか手が無いんで」


「あら、そんないい手があるの?それでいいじゃない」


「条件があるんすよ。2人が犯罪を犯したり日本側からお願いしたり。まぁ普通に無理っす。一応ロマノフ側に頼むって手もあるっすけど……」


「さすがにイリーナさんでも無理よね」


なら仕方ない。

彼らには少し痛い目にあってもらおう!


「本当に後悔しないっすか?」


「我に任せよ!」





――――――――――――――――――――





と言っていた今朝の私を殴ってやりたい。

即落ち2コマ。前にも見た展開だなおい!


あんなこと言ったけど絶賛後悔中。


「―――だから、魔法は待ってって言ってるじゃん!」


「私の方が敵を倒してるの。文句言わないでくれる?」


これで4度目になる小声での口論。

小声なのは声で蟻に見つかるのを避けるためだ。


最初こそ指示に従っていたが、次第に無視するようになり、魔法も勝手に使うようになった。

魔法使いの魔力消費を抑える為、必死に戦っているというのに……。


しかも、倒した蟻は自分のモノだと主張している。

別に稼ぎはどうでもいいんだけど、ロマノフ側と報酬は分け合うはずなのに全部自分のモノと主張してくる。


その契約はトライデントであって自分たちに関係ない?

はぁー、もう好きにして。今になってようやく西ハンターが懸念していた事が分かったわ。確かにこんなのじゃチームになんてなれない。


「ナツキ、ムシよ無視。あんなのに構ってた時間の無駄よ」


「イリーナも何か言ってよ」


「八ッ、こんなところで爆発魔法を使う自殺志願者に何を言ってもムダよ」


聞こえてるだろうけど私たちの会話を無視する真紀ハンター。

自分が倒した魔蟻をアイテムバックに仕舞っている。


イリーナさんの言う通り、こんな場所で爆発魔法を使うのは自殺行為に等しい。

今いるのは坑道の奥、蟻の巣を少し進んだ場所だ。坑道のように重機が通るほどの幅も無ければ道も整地されていない。そんな場所で爆発魔法なんて高威力の魔法を使えばどうなるか……。

いくら壁や天井に魔力が通っていて頑丈とはいっても、爆発魔法の威力は普通の魔法よりも高い。すでに天井や壁はボロボロでいつ崩落してきてもおかしくない。


これは私たちだけの問題ではなく、蟻の巣は立体なので他のハンターチームにも影響するのだ。



「ねぇ、あなたのアイテムバックを貸してくれない?どうせ蟻も倒せないんだし、空のバックを持ってるでしょ?」


しかもこんな事まで言ってくる始末……これには日本語が通じないロマノフ側のカミラとアゼフも彼女の行動には眉をひそめている。


「こうなるのが分かってたから西ハンターは休んだのね……本当に面倒だわ」


「ナツキ、いったん下がる?」


「そうね、この道は危ないわ。下がって別のルートを探しましょう」


西ハンターがいないので斥候を私が担っている。

五感が強化されている私は多少の暗闇を見通せるし、危険を察知する能力もある。


真紀ハンターには見えないだろうけど、この道はボロボロだし危険な感じがする。

このまま進んで帰り道を塞がれるのも嫌だし、別のルートを探す事にした。彼女の言葉は無視である。


まだ連戦が無く魔力が枯渇するような状況になっていないが、このまま彼女が魔法を使えばお荷物ができあがる。

ただ、今のまま帰れば自分たちの活躍を大げさに語って、また騒ぐに違いない。


はぁー、どこかに簡単に倒せて苦労する連戦の場はありませんか?

……そんな都合のいい場所はありませんよねー。


連戦が無いのはたぶん、ここ数日で敵の数がいっきに減ったのと他の場所で戦っているハンターがいるからだろう。

他のハンターの頑張りがこんな形で仇となるとは……いったい私はどうしたらいいんだ!


「……あっち静かね」


「まだ活躍してないから。活躍したらきっと鬼の首を取ったみたいに騒ぐわよ」


あっち、と呼ばれたのは勇人ハンター。

こっちはまだ指示に従って魔法を使っていないけど、それでも本質は変わらない。顔にこの作戦が気にくわないと書いてある。


「はぁー嫌な予感しかしない……」





来た道を戻り、別のルートから攻略を進める。

地図を作り、他のチームが作っている地図と比べる。


蟻の巣は立体なので線がいくつも重なる。

ちゃんとした地図は後日改めて作られるだろう。


少し進むと分かれ道があらわれる。

地図に分かれ道のマークを付け、ウサギ耳を付けたトモちゃんに危険が無いか聞く。


「どっちも足音はしないよ。でも動いて無いと分からないから止めた方がいいかも」


「……そうね。無音って事は罠の可能性が高いし」


「それに頭のいい個体が居るかも」


ウサギ耳を付けたトモちゃんは蟻の小さな足音でさえ200メートル先からでも聞き取れる。

蟻の巣の中で200メートルも音がしないのはおかしい。個体数が減っているか罠のどちらかだ。


罠の場合、動かないよう指示をする上位個体が存在する。


「ナツキ、このまま進む」


「イリーナ……」


「大丈夫よ。危険な状況でも私問題ない」


「危険な状況になったら、それは私の責任なの。下がるわよ」


一応、チームのリーダーは私になっているんだから。


「話してる時間は無いわ。別の道を探しましょう」


「なんで下がるんだよ。このまま進めばいいだろ。イリーナさんも進むって言ってんだ。Aランクの指示に従えよ」


「……はぁー、ダル」


「夏輝ちゃん、言葉が崩れてるよ」


さっきまで黙ってたのに急に割り込んでくる男、勇人ハンター。

思わず本音が漏れる。


もうこんなチームのリーダーしたくないよ~。

近くに可愛いうさ耳があったのでモフって癒される。


「トモちゃん、もう疲れたよ」


「が、がんばれ」


もう嫌、もういいや。どうにかなれ~。


「……進むわ。イリーナ先頭ね」


「リョウ~」


「もうイリーナが指揮して」


「リョウリョウ~」


「リーダーもお願い」


「それは無理ね。私は裏の支配者になるの」



―――これって責任だけ私が取らないといけなくなるのでは……?

なぜだ……どうしてこうなった?





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