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28,部屋の前に





倒れてから2日休みをもらい、その間にハンター組織同士の話し合いはまとまった。

よーし、今日から蟻退治がんばるぞー。


「ちょっと待ってほしいっす」



と生き込んでみたものの、ホテルの部屋を出た瞬間に呼び止められる私。


「何?体ならもう大丈夫だけど?」


「方針は決まったんすけど、それに従わないって言ってるハンターがいるんすよ。で、夏輝ちゃんがやり玉に挙がってるっす」


「私?」


部屋の前で待ってた西ハンターが事情を説明してくれる。

どうやら私がやり玉に挙がっているらしい。


まぁ、簡単に言うと―――自分より実力が下のハンターがトライデントの名前を借りて参加するのに、自分たちが雑魚蟻相手なのは納得がいかない!って感じ。



攻略の方針としてAランクのいるチームが前線、それ以外が後方で戦う事になった。これは蟻が進化個体なのも関係している。

トライデントにはAランクのハンターが参加していないが、ロマノフ側からの参加があり前線を攻略する事になった。ただ、これはトライデントの名声が高いからであって、他のハンターが納得しているかは別である。


Aランクハンターはロマノフ側の人間なんだからトライデントじゃなくてもいいじゃんって考えてる人が一定数いるらしいのだ。

しかも今回の参加は正規のトライデントメンバーが2人、残り3人のうち1人は未成年。それなら自分たちでもいいだろって騒いでいるのだとか……。



「それにちょっと事情があるんすよね」


「事情って?」


「騒いでる中の2人が半分身内って言うか……」


「えっ……トライデントの誰か?もしかして倒れた事で怒っちゃった?」


「いや、うちじゃないっす。うんーっと、まぁいっか。騒いでるのが明人さんの息子さんと社長の娘さんなんすよ」


はぁ?

なんでトライデントで参加しないのよ。


あ、もしかして違うハンター組織に所属してるのかな?


「2人共ソロっすよ」


「じゃあなんでトライデントの枠に入らなかったの?半分身内でしょ」


「まぁいろいろとあるんすけど、半分は実力不足っす」


直球で辛辣な言葉を使う西ハンター。

2人のハンターランクは共にCで実力はそこそこ。


ただ、技能の数では私以上だし、私はBランクに上がったばかりでCランクと大差ない。

正直どっちが強いかなんてわからないけど、技能の数は手数にもなる。私より強いと言われればそうかもと思わなくもない。


「今は松岡先輩と口論になってるっすけど……話に入っていくのはお勧めしないっす」


「なら、今日は討伐に行かないの?正直、すぐに攻略へ行くべきだと思うんだけど」


蟻の巣が成長する前に攻略する。

一週間二週間でそこまで成長するとは思えないけど、蟻は補充されるだろうし、世代が上がれば難易度も上がる。


早く倒すのに越した事は無い。


「そうしたいんすけど、戦ってる時に身内で揉めるのは一番最悪なんで、夏輝ちゃんは数日休暇って事にしてほしいっす。直接絡まれないと思いたいっすけど……」


「能力不足ってどれくらいなの?私と大差ないなら私の枠と交代するわよ?」


「いやー、どっちも後方支援型なんで代わりは無理っすよ。騒いでるのは気に食わないからだけっすから気にしなくていいっすよ。迷惑だって気付けない人達っすから」


西ハンターの言葉が強い。

らしくない言動だ。何かあったんだろうか?


「……やけに辛辣ね。何か嫌なことでもあったの?」


「恨みってほどじゃないっす。ただ迷惑だなって思ってるだけっすから。じゃそう言う事なんで、数日は休暇を満喫してくださいっす!」


「そうするわ。……あ、配信する予定なんだけど空いてる日ある?ゲストで入ってほしいの」


「明日なら休みなんでいいっすよ!できれば午後でお願いするっす」


「了解。じゃあ明日ね」


最近ゲリラ配信ばっかりだったし、明日の配信は今日中に告知しておこう。


……にしても、まさかハンターでそんな事を騒ぐ人が居るなんてね。

実力に沿わない敵と当たれば死ぬのは自分だと言うのに。それに、魔物が一般人にとってどれほど危険なのか理解しているのかしら?

氾濫した魔物が溢れかえったら国だって滅ぶのに……。まさか他国だからとか考えてないわよね?



もしかしたら、西ハンターはそれで怒っていたのかな?





扉を閉め部屋のベットに横になる。

スマホを取り出し明日の配信を告知、そのままメールの確認をしていく。


既読して返信、既読して返信……。


最近いっきに友達が増えた。

……話した事もない友達が。


テレビに出てから少し有名になり、同級生から友達申請がいっきに来たのだ。

正直、話した事もない人からメールが来てもなんて話せばいいか分からないんだよね。まぁほとんどが他愛もない内容だから適当にスタンプを返すだけだけど。

だいたいが“配信見た”とか“がんばって”とかのメッセージだから視聴者とそんなに変わらない。


スタンプを返しながらメールを流していくと、ちゃんとした知り合いからメッセージが来ていた。



佐藤: 7日前

あの件少し早めに発表したよ


佐藤: 7日前

騒がれるかもだけど、そっちで対応してね


佐藤: 7日前

σテヘ(*´∀`照)


夏輝:

返信遅れました。その件了承してないんですが?



新しくハンター組織を作るのは知っているが、その件で騒がれるってどういう事だろう?

まぁ騒がれてる感じはしないしいっか……。


次は委員長からのメール……。

こっちは他愛もないしスタンプでいいや。


ん?トワからもメッセージが来てた。

通知鳴るようにしてたけど、メールが多すぎて見逃してたみたいだ。

内容は―――



扉がノックされる。



「いるのは分かってる。出て来い」


あー、うん。

引き籠ってても凸られるんだが?


これどうしよう……とりあえず妹に返信しなきゃ。





――――――――――――――――――――





夏輝ちゃんが泊る部屋を後にし、1つ溜め息を吐く。


“何か嫌なことでもあったの?”

そう聞かれて初めて自分が不機嫌なことに気づいた。


まるで愚痴を言って八つ当たりしてるみたいで自分が嫌になる。


そんな内心を隠し、ハンターが集まる大広間へ向かうと言い争う声が聞こえてくる。

昨日の話し合いから聞こえる声だ。


「―――だから、別に人数が多くてもいいだろ!それに俺の方が役に立つ。蟻に対して物理でしか戦えないオカマ野郎なんかよりも役に立つ」


「はぁー、何度言えばわかる。役割が違う」


言い争っているのは松岡と明人さんの息子、桐島きりしま勇人ゆうとだ。

明人さんを若くしたまんまの顔と姿だが、正直性格は反対といってもいい。明人さんは口が悪いが面倒見がよく、優しすぎる人だ。それに対して息子の方は口が悪いし自分勝手、しかも状況を判断できず空気が読めない。


現に、明人さんの事が嫌いな松岡に話しかけに言ってるのが証拠だ。

きっと自分に賛同してくれるとでも思ってるんだろうけど、逆効果もいいところ。むしろ松岡の機嫌はどんどん下がって行っている。

いつ手が出てもおかしくない状況である。


「だいたい俺に言うな。そこに居るトライデント所属の奴に言え」


「松岡先輩、こっちに投げないでほしいっす」


「西さん、あんたもあんなオカマ野郎居ない方が良いでしょう?俺と野瀬を連れて行ってくださいよ」


いつ手が出てもおかしくない状況……それは自分も同じだ。

仲間をオカマ呼ばわりされていつまでも黙っていられるわけがない。正直明人さんの息子じゃなかったら何発か殴ってるところだ。


後ろで黙っている女性、野瀬のせ真紀まき。社長の娘である。

黙っているからマシだと思ったら大間違い。こいつがほとんど元凶と言ってもいい。なんせ勇人を誘導しているのがこの真紀ちゃんなんだから。


「だいたい運がいいだけでしょ」


「ふ、それをお前らが言うか」


「なんだよ、事実だろ。たまたま10億クラスの技能書を当てただけでBランクにまでなれた奴なんだし」


運がいいだけ発言を鼻で笑う松岡。


「お前らは自分の親のおかげで今のランクにいるって気づけよ。運が良かったな親がハンターで」


「はぁ?俺は自分の力で……」


「勘違いしてる馬鹿野郎が、ピーピー騒ぐな。見苦しい。それで俺らの時間を無駄にさせんな」


松岡の怒気に当てられ黙る勇人。

正直、今回は完全に同意だ。


松岡は自分の力で今のランクまで上がってきたという自負がある。それはGランクから魔物をコツコツ倒し、技能書を集め、装備を集め、仲間を集め、そうやって少しづつ今の強さまで成長した。

同じハンターならと思うかもしれないけど、親がハンターだと余った装備や技能書、仲間だって集まりやすい。


親がハンターで、他のハンターより優遇されている環境なのに、夏輝ちゃんの事は運がいいだけという。


たしかに夏輝ちゃんは運がいいかもしれないけど、戦闘センスや精神力、状況の判断だって上手い。決して運だけのハンターではないのだ。


それに……。

前の武蔵ハンターがボスのミノタウロスと戦っていた姿を思い出す。


あの状態の武蔵ハンターは自分よりも強かった。

高すぎる身体能力を操るだけの技術を持っていて、Bランクでも上位の実力はあると思う。


そんな夏輝ちゃんとCランクでは上位の2人を比べれば、夏輝ちゃんが負ける要素は技能の数と年齢くらいだ。



「はいはい、そこまで。そろそろ行くわよ」


「ふん」


Aランク2人の掛け声で他のハンター達も動き出す。

夏輝ちゃんの参加に反対姿勢の2人、それに同調する何人かはその場から動こうとしないけど、そんなの無視して準備を始める。


が、松岡は性格があれなので不要なことを言う。


「ハンターは自己責任なんて都合のいい言葉があるがな、自己責任だから何でもやっていい訳じゃねえんだよ。作戦には他のハンターも参加してる。1人の身勝手な行動が周りに迷惑をかけるんだ」


「それとこれとは違うだろ!作戦の要であるAランクハンターがトライデントはロマノフから借りている。それなら別にトライデント以外でもその役割はできる。俺らとトライデントのメンバーを入れ替えるだけでいいんだ!それで済む話だろ!」


「馬鹿が、実力差を考えろ。Bランクのハンター5人のトライデントと、チームワーク不明のCランク6人、Aランクとか以前に敵と戦えるかすら怪しいレベルだ。わざわざ失敗要素を作る馬鹿がどこにいんだよ」


「あのオカマがBランクになったのなんて最近だろ!実質Cランクだ、俺らと変わらねえ。それに別に攻略人数が多くたっていいだろ!ブラックゲートじゃ無いんだ、人数が多い方が攻略も進むに決まってる!」


たしかにブラックゲートと違い攻略する人数は決まっていない。

これが平原とかだったらその意見も一理あったかもしれない。


でも、今回の攻略は蟻の巣であり、道幅や戦列が特に重要になってくる。

撤退になったときに人数が多いと逃げ遅れる可能性が上がるし、人数が多いとその分進むスピードも遅くなる。今回の攻略では人数が多い事はデメリットでしかないのだ。


「そこまでって言ったでしょ。早く攻略を進めるわよ」


「まったく、落ち目の組織が選ぶハンターってのは碌な奴がいないな」


「お口チャック。お口にチャックしましょうね~。大きい赤ちゃんのお世話は大変ね~」


「……クソ、ババア」


松岡の暴言を聞き流して連れて行く立花さん。

技能を使っていない松岡では立花さんの身体能力に負けるようだ。


「女子に抱き着かれていいじゃないっすか。SNSに上げるんでそのままお願いするっす」


「ック……ハーレム、野郎が」


「あらあら、後で西君も抱き着いてあげる」


「セクハラは遠慮するっす!」


こういう時くらいしか煽れないので写真に収めて知り合いに送る。

流石にSNSに上げたりはしない。


どこぞの誰かちゃんは上げていたが、普通に訴えられるんで仲間内の話のネタにする。


何秒か睨んできたけど、立花さんの手を3度叩き負けを認める。

騒いでいた連中はもう視界に入らないのか、仲間のところへ行きそのままホテルを出て行った。


「ほら、西君も準備していくわよ。やる気のない子は置いていきましょう」


「うっす」


「なんで俺の意見に賛同しないんだ!お前らも雑魚の相手を押し付けられて迷惑だろう!」


夏輝ちゃんを批判しているのは計6人、他のハンターは自分の役割をちゃんと理解して行動している。


後方での戦闘は重要な役割がある。

後方からの挟撃を減らす事や退路の確保、女王蟻が死んだ後に混乱する蟻たちが街へあふれ出さないようにするための防波堤。他にも多くの役割がある。

裏方ではあるが重要な役割。彼らはそれを理解して引き受けてくれているのだ。


「はぁー、ハンターも組織の人なの。社会人と一緒。それぞれに決められた仕事があって、ノルマがあって、彼らはその仕事のために雇われているの。ハンター組織に入るって言うのはそう言う事。それが嫌ならソロでやったら?騒ぐだけで仕事をしない社会人は迷惑なの」


「仕事って……」


「あなた達もハンター組織に雇われてるんでしょ?私たちのノルマは蟻の駆除。蟻のランクなんて関係ない。報酬は貰って自分の役目をこなさない……そんなに嫌ならソロのままでいればよかったのに」


ハンター組織に所属するメリットとデメリット。

メリットは生存率が高まり、必要な装備、技能、道具、仲間が揃う。給料があって安定した生活ができる。

デメリットとしてはノルマがあり、魔物の素材やダンジョンで手に入れたモノは会社のモノで、使わない場合売り、ハンターには一部しか還元されない。


どちらがいいのかは人によるが、今回はハンター組織として参加している。

たとえ普段がソロで活動していたとしても、ここでは組織の人として扱われる。


きっと言葉としては理解しているが、その意味を知らない。あるいは経験が無いからその意味の重要性が理解できないのだろう。


ハンターは常に危険を想定しなければならない。今回夏輝ちゃんを参加させないのもリーダーとしてチームの危険をできるだけ下げるように考えた結果だ。

今回の作戦だって、ハンターたちの危険をできるだけ減らすように建てた作戦だ。それを自分が活躍したいからとか、そんな理由で他のハンターまで危険にさらして……。



「……ッチ、あいつも参加してねぇだろ」


「マジ、こいつ……その自信過剰な所、直した方がいいっすよ。君ら弱いんで」


「西君、頭に血が上ってるわよ。落ち着いて、こんなの放っておいていくわよ」


そもそも、こいつらが騒がなければ夏輝ちゃんは普通に参加しているし、編成で悩まなくていい訳で……マジ一発殴らせてほしい。


こういうのなんて言うんだっけ?マッチポンプ?自作自演?

騒いでるのはこいつらで、こいつらのせいで夏輝ちゃんは参加させる訳にもいかない。なのに……。


「さっきからオカマ野郎とか何とか言ってるっすけど、他人見下すくらいなら自分見つめ直した方がいいっすよ。自己評価高すぎて理解できないかもっすけど。だいたい何日も同じチームで行動している仲間を馬鹿にされて、俺らが君の意見を尊重するとでも?馬鹿っすか?無い頭使って少しは考えたらどうっすか?年上のプライド?犬にでも食わせたらどうっすか」


「あらら、さすが松岡君の元チームメイト。悪口のレパートリーが凄いわね」


「はぁースッキリしたっす。さて仕事仕事ー。どこかの雇われハンターとは違って正社員なんで俺。ノルマあるんすわ~」


「それ私たちも含まれません?」


「トライデントは名のある企業なんで、どこかのに含まれないっす」


さて言い切ったし蟻討伐に……あれ?居なくなっちゃった。

なんか逃げたっぽい。


これだから2.5世代は……。





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