3,攻略前ミーティング
私、武蔵小五郎は17歳の現役高校生である。
体は男、心は女性なジェンダー症候群を持ち、それを知られないようにこの17年間生きてきた。両親と兄妹は知っているがそれ以外には伝えていない。
そんな私は高校生で一人暮らしをしている。
これはハンターになる為であり、両親にも許可をもらっている。
家賃や光熱費などはすでに自分で払える状態になり、親が投資してくれた額も返済できた。
私のわがままを聞いてくれた両親には感謝している。
そんな私が通う学校、私立東立岡学園高等科は有名私立高校だ。
小中高のエレベーター式になっており、付属の大学も存在する。
この学園を選んだ理由は、中学生でもハンターになれるのと授業の自由度からだ。
ハンターの仕事で公欠がでるのはこの学園だけだろう。
そんな東立岡学園には当然多くのハンターが―――
―――いる訳もなく、私しか高校生でハンターをしている人がいない。
そもそも、中学生でハンターになれる学校は他にもある。それに公欠してまでハンター活動する人は高校を受験しないのだ。学園に通っている層も裕福な人が多く、英雄願望持ちの生徒も高校卒業後か大学卒業後にハンターを目指す人がほとんどだ。
中学からハンターになったのは私1人だし、高校生になってもハンターになったとは聞かない。
つまりこの学園でハンターは私1人と言う事になる。
当然英雄願望持ちの生徒からは話を―――
―――聞かれないんですね、これが。
これには理由があって、私のコミュニケーションが悪いのだ。
なんせ男性にも女性にもどう接したらいいのか分からないのだから。
体は男だけど、男に話しかけると変に気を張るし……女性に話しかけるにも、相手に気を使わせてしまう。それに180センチを超える身長とハンター活動で鍛えた体が、女性を怖がらせてしまう原因になる。
つまり、私の学園生活はボッチなのである。
「おはよう武蔵くん」
「あ、おはようございます生徒会長」
高校2年の冬休みもハンター活動をして終わり、1月10日の始業式の後。
私は15日~22日の1週間の公欠を申請しに教員室へ向かっていた。
その途中、私に話しかけてくれる数少ない女子、東岡詩織生徒会長に話しかけられる。
彼女はいいところのお嬢さんらしく、この学園の理事長とも親戚らしい。今年の夏に行われた生徒会選挙で当選し、見事学園をその手に収めた女王蜂である。
2年女子トップに急に話しかけられるのは、正直言って心臓に悪い。
ボッチの私を気にかけてくれているんだけど、女子の頂点に目を付けられているみたいで学園生活が心配になる。
まあ、私の図体が大きい事もあっていじめ等の対象にはされないだろうけど。
そもそもこの学園で苛めなんて見た事が無い。あるのはマウント合戦くらいだ。
「これから教員室ですか?」
「はい。少し用事がありまして、公欠申請をしに……」
「私も使う資料のコピーをしに行くところなんです。一緒に行きましょうか」
ちなみに東岡さんはマウント合戦頂点でもある。
成績は上位、容姿端麗、運動神経抜群、生徒会長で人望も厚い。そのうえ家は金持ちのご令嬢だ。
そんな彼女が万年ボッチの私となんで一緒に歩いているのだろうか?
目立つしできれば離れて歩いてほしい。
「武蔵くんはよく公欠されますが、勉強の方は大丈夫ですか?一貫校なので内部受験しかしていない子は受験勉強に手間取っているようなのです」
「俺は大丈夫です。こう見えてテストの成績は20位以内に入ってるし、中学受験も経験してるんで」
「そうでしたね。武蔵くんは付属大学を受験するんですか?受験するなら成績だけでなく内申点も必要ですよ。……はい、そんな貴方にこちら受験生案内のボランティアです。よかったら参加してください」
「1月24日ですね。考えておきます」
別れる直前に彼女が持っていた紙を1枚渡される。
これから学校の掲示板などに貼る予定の、受験生案内のボランティアを集める紙。何十枚もあるので私に1枚渡しても問題ないらしい。
用事が無ければ参加してね。との事だが、用事を入れるなよって意味に私は聞こえた。
つまり、人手不足だからボッチの私に声を掛けたのだろう。
特に用事もなく休日なのでダンジョンに行くつもりだったが、これは参加しないと目を付けられるに違いない。
直接渡したのに参加しないなんて、あいつ私の事を舐めてるわ!とかちょっと妄想してみたり。
公欠申請は問題なくできた。もともと教職員にはハンターをしている事が広まっているので、ハンターの用事と言えばあっさり通る。
ただ、今回はテレビに出るかもしれないので、その事で少し話をした。結論、出る事は自己責任で問題ないが、学校名を出すと批判が学校にくるかもしれないので、それはダメらしい。まあ調べる人間はいるだろうし隠したところで、ではあるが。
「よし、学校終わった~」
とりあえず、今日はこれから協会だ。
ダンジョンアタックの説明があるからそれを聞きに行く。
――――――――――
協会の動画ミーティングに参加すると、すでに10人のハンターが参加していた。
現在時刻17:30。ミーティングの開始が18;00からなので遅れた訳じゃない。
募集は満員まで集まったので誰かが参加を辞退しない限り、このままのメンバーでダンジョンを攻略する事になるだろう。
『―――Cランクのハンターが参加するのは物資を持ち込むのとダンジョン攻略を円滑に進めるためだ。何度も言ってるがダンジョンアタックは企業側の利益の為に変更できない。彼らの報酬はテレビ局側しか出ないんだからそれでいいだろ?』
『だから、荷物持ちもゲート攻略の補助や撮影も、うちのパーティーメンバーから出せばいいだろって言ってんだろうが。俺らはパーティーでAランクなんだ。それが3人しか参加できないなんて、本当に攻略したいのかよ?誰かを外してでも俺のパーティーメンバーを入れた方が戦力になる』
『テレビ局側だけの報酬でいいなら交代してもいい』
『それじゃあ意味ねぇんだよ』
ミーティングに参加すると、先に来ていたハンターが言い合いになっている。
1人は運営が直接頼んだ水嶋ハンターでもう1人はAランクハンター桐島明人だ。桐島ハンターはハンター組織『トライデント』のトップの1人で、今回トライデントから3人参加している。
桐島ハンターは第1世代と呼ばれる英雄世代だ。英雄たちと共に戦ったという自負が彼らにはある。
『欲しい報酬があるなら3人で頑張りなさいな。そんなガツガツ言っても変わりませんよ』
『美香の姉御、桐島は自分たちじゃ力不足って言ってんですよ。だから数を増やしたいだけでさぁ』
『あら、そうだったんですのね?これは失礼な事を言いました』
『弱い犬程よく吠えるってやつでさぁ』
さらに話に参加する2人、秋葉美香と川島邦彦だ。秋葉ハンターはAランクで川島ハンターはBランク、どちらも第2世代と呼ばれる英雄に憧れた世代だ。
ちなみに第1世代とは仲が悪かったりする。
全員が全員仲が悪い訳じゃないけどいろいろな確執があるのだ。
ちなみに第3世代は数が少なくゲートが存在する前の世界を話でしか知らない世代。確執というのも今のところない。
今の時代、氾濫が起きれば安全とは言い難いのが現状だ。
氾濫の日数が分かっているとは言え、ゲートの出現がいつか分からない。Gランクゲートなんかは氾濫してから存在が知れる事もある。
いつ命の危険にさらされるか分からないのが現代の常識なのだ。
『雑魚が粋がるなよ』
『おほほ、英雄世代だなんだと粋がっているのはそちらなのではありません?』
『二人ともやめるんだ』
桐島ハンターと秋葉さんは特に仲が悪いようで、すでにハンター内で協力し合うのは無理そうな雰囲気だ。
その2人を止めた水嶋ハンターは、参加者が集まった事を確認し今回のダンジョンアタックについて話始める。
『みんな集まった事だし、今回のダンジョンアタックについて話そうと思う。まず、ダンジョン内で手に入れたアイテムや素材は企業側のものになる。今回荷物持ちに参加するハンターに素材等は渡してくれ』
『全部の素材を持てるのか?』
『どれくらいの量になるか分からないから溢れる分は捨てる事になる。それをハンターが拾ったなら、それはハンターの物だ』
付いてくるCランクハンターは荷物持ちで、数十日分の食料や水も持っている。合計3tのアイテムバックを持っていくが、全てのアイテムを入れられるか分からない。
おそらく価値の高い物や技能書などを優先的に入れていくのだろう。
『ダンジョンの形だが、3階層以上の迷路ダンジョンだ。3階までの道は分かっている』
『分かっている?ならダンジョンアタックの形式は……』
『ポイント形式だ。アイテムや素材のレベルで企業側がポイントを付ける。また、3階層以降はゴールポイントもある。ボスについてはポイントが付いているが、これはラストアタックだ。運が左右する為、そこまで高いポイントは付けられていない』
階層型の迷路ダンジョンなのは予想していたが、先行した2組が3階層まで辿り着いていたようだ。
これは予想したダンジョンアタックとは変わってくるだろう。
企業側が持っている情報を出し、ランクごとのポイントも発表される。
Dランク以下は0ポイント。
Cランクは2ポイント。
Bランクは5ポイント。
ボスは100ポイントだ。
3階以降のゴールポイントは階層×10ポイントだ。
アイテムは品質などでポイントが変わる。
例を上げるなら、
ポーション(小) 単価5~10万円 1ポイント
ポーション(中) 単価40~50万円 5ポイント
ポーション(大) 単価500~1000万円 100ポイント
ポーション(特) 単価10億円以上 1000ポイント
ポーション(超) 単価100億円以上 1万ポイント
ちなみに(特)(超)はAランクゲートでもほとんど落ちない。設定されているだけだ。
『ボスに挑む権利はねえな。あったとしても100ポイントなんて要らねぇが』
『ダンジョン攻略中はカメラを付けてもらう。カメラが壊れた場合私の所に帰ってきて新しいカメラを付けてもらう。カメラが壊れている間のポイントは存在しない物とする。また、故意にカメラを壊した場合失格とし、持ち物もすべて没収する事になる。これはアイテムの持ち逃げを防ぐ等の措置とダンジョン内での犯罪を防ぐためだ。アイテムバックを持ち込むハンターは事前に量と中身の申請をしてもらう』
『ポーションの支給はございますか?』
『企業側からの支給が(小)5つ(中)3つ、あとはポイントで交換できる。ただし、交換は10倍のポイントだ。足りないと思ったなら自分で用意してくれ』
『ケチくせぇな』
私からしたら(中)3つでもかなり豪華だと思ったが、Aランクハンターからしたらケチ臭いらしい。
ふと、先日(中)のポーションが50万で売れた事も思いだす。
おそらく企業が数を集めていたからだろう。
つまり、先日50万で売って無料で戻ってきたようなものだ。すごく得した気分。
『他に質問はあるかな?』
『僕から2つ、1つは魔物の討伐がメインのポイントになると低ランクを狩り続けるハンターがいるかもだけど、対策は考えてるのかって事。もう1つは報酬の額に釣られてきたけど、そこまで難しく感じない事』
質問したのはトライデントに所属するBランクハンター、五十嵐友近だ。彼の疑問に思っている事は、私も思っていた事だ。
『それはダンジョンに出る魔物が関係している。おそらくボスだと思われる魔物、迷宮タウロスだ』
『特殊能力……』
『奴の特殊能力は―――』
ミノタウロス、有名なBランクの魔物。
名前だけでなくその特殊な能力から、迷宮の悪魔と呼ばれる魔物だ。
特殊能力『迷宮』
能力は3つ、
『複製』 自身のコピーを作る能力。
『迷宮』 ダンジョン内の罠を自在に使用する能力。
『転移』 ダンジョン内なら移動できる能力。
おそらく、Bランクのハンターで1番死亡率の高い魔物。
『おそらく、1階層からミノタウロスの複製が襲ってくる。3階までそれぞれの力を確認し行動方針を決める事になるだろう。自分の力に自信があるなら、最初から別行動でもいい。あと、今からでも辞退はできるから』
『おう、辞めろ辞めろ。特に17のガキをお守りするつもりはねぇから』
「……」
『武蔵くんは何か質問あるかな?』
「報酬が豪華な理由は何ですか?」
『まず複製のミノタウロスからドロップするアイテムがどれも高額な事。次にブラックゲートの氾濫は法則性が無い事だ。実はCランクのブラックゲートが2ヵ月で氾濫した事もある。その為、ブラックゲートはすぐに攻略しないといけないんだ。もし、2月になっても攻略できないなら、国がゲートの攻略権利を奪う事になる』
そうなると企業は大打撃だ。
攻略失敗はハンターの自己責任かもしれないが、そういったイメージを持たれるとハンターの雇用が難しくなる。たとえ高額な報酬を出しても、元を取れるだけの算段はあるのだという。
ミノタウロスのドロップ品のポイントも発表された。
Bランクの魔石 10ポイント (買い取り価格:500万円)
ミノタウロスの皮 10ポイント (200万円)
ミノタウロスの角 15ポイント (1200万円)
ミノタウロスの肉(食用) 5ポイント (部位によって変わる 10万~500万円)
技能スクロール(内容が確定している) 『迷宮転移』 2000ポイント (20~30億円)
技能スクロール 『罠作成』 1000ポイント (10億円)
技能スクロール 『罠看破』 100ポイント (1億円)
技能スクロール 『武具複製』 500ポイント (5億円)
技能スクロール 『自身複製』 20ポイント (2000万円)
迷宮シリーズ 『牛兜』 500ポイント (5億円)
迷宮シリーズ 『牛刀』 3000ポイント (28億円)
迷宮シリーズ 『牛盾』 100ポイント (1億円)
迷宮シリーズ 『牛革鎧』 200ポイント (2億円)
白金の牛像 2000ポイント (750㎏ 20~35億円)
etc
『他のアイテムも値段でポイントが付いていると思っておいてください』
これなら運が良ければ元が取れる。
企業側がいくらでこのゲートを買ったのか知らないが、儲かる可能性のあるダンジョンをみすみす逃したくなかったのだろう。
その為に高額の目玉商品を提示した。参加するだけでも高額なアイテムがもらえる。
企業側の話は理解できた。
だが、ブラックゲートの氾濫に法則性が無い事は初耳だ。おそらく世間には伏せられている情報なのだろう。
他の面々はその事を気にした様子が無い。上位のハンターにだけ教えられる情報という事だ。
―――これ私、ハンター辞められるんだろうか?
今後も登場する予定のキャラステータス
水嶋優斗 男 Aランクハンター
趣味 応援
特技 ハンター
技能
聖書【聖典救世】 (強化済み)
効果1:パッシブ
自身の全ステータス2倍
効果2:発動:聖典楽団
味方全体のステータス1.5倍 消費体力50、効果時間1時間、クールタイム6時間
ステータスアップ【上級】攻撃、防御、体力
(攻撃、防御、体力)ステータス2倍
【水魔法】
【ステルス】
消費魔力10 姿を消せる。臭い、音等は消せない。
指揮【軍師】 (強化済み)
味方へのバフ効果1.5倍
英雄の加護【偽】 (強化済み)
全ステータス2倍
(隠し効果)本物の英雄の加護を得る事ができない。
【王の祝福】
効果1:パッシブ
全ステータス2倍
効果2:パッシブ
半径50m以内の敵、味方に効果を与える。
敵:ステータスの1つを10%減少、効果抵抗を30%減少
味方:ステータスの1つを20%上昇、効果抵抗20%上昇、防御貫通20%上昇
【対魔:毒】
全状態異常耐性 (30%の確率でレジスト)
ステータス (パッシブ:全ステータス8倍+攻撃、防御、体力が2倍)〈味方へのバフ2.25倍+1つ0.3倍〉
攻撃力 12 (192:A)
防御力 6 (96:B)
体力 8 (128:A)
魔力 10 (80:B)
知力 12 (96:B)
運 20:C
桐島明人 男 Sランク手前のAランクハンター
趣味 筋トレ
特技 筋肉ダンス
技能
五感強化【超感覚】 (強化済み)
限定的な未来視が可能。五感が人の10倍鋭くなり、第六感も獲得する。
ステータスアップ【上】攻撃。防御、体力、魔力、知力
【鬼神】 (強化済み)
ステータス4倍、さらに攻撃2倍
【風魔法】
【風神の加護】
【貫通】
防御貫通10% (防御貫通は敵の防御を無視する)
英雄の加護【クー・フーリン】 (強化済み)
効果1:パッシブ
ステータス2倍
効果2:パッシブ
全状態異常耐性【中】 (60%の確率でレジスト)
効果3:発動:英雄昇華
英雄【クー・フーリン】を身に宿す。全ステータス3倍、全状態異常耐性【特】、槍補正【特】を得る。 効果時間(元の体力を消費、3秒で1消費)クールタイム(使用時間×100)
(隠し効果)他の英雄の加護を取得できない
ステータス (全ステータス16倍+攻撃2倍)【全ステータス3倍】
攻撃力 14 (448:S)【1344:SS】
防御力 10 (160:A)【480:S】
体力 8 (128:A)【384:A】
魔力 8 (128:A)【384:A】
知力 4 (64:B)【192:B】
運 1:G




