25,休日とおもったら……
3日のダンジョン攻略を終えて1日の休暇が私たちハンターには与えられる。
本来ならこの休暇を他のハンターが埋めるのだが、日本のハンターは調整とかいろいろで遅れているらしい。もともと急な依頼でトライデントのような大きい組織でも人材を他から集めるくらいだから、調整が大変なのだろう。
まぁそうは言っても、トライデントと同規模の組織はもうすぐ来るらしい。明日か明後日かその日はロマノフ側のハンターは参加できないので、トライデントメンバーで攻略を進める事になるだろう。
という訳で今日は休日!
街へ買い物に出たわけだが……なんとイリーナさんに連れまわされる事になった。
昨日のスピード勝負で負けた代償である。
なんか負けた方は勝った方の命令を聞くんだって。
体調悪くて聞き流してたわ!
―――って事で命令は簡単なモノにしてもらった。
それが買い物なのだ。
「これでもう私たちトモダチね!」
「一回買い物に付き合ったくらいで、トモダチなんて認めないんだからね!」
「そ、そんなぁ……ナツキはツンデレなのね」
「冗談よ」
そんなやり取りをしながらデパートを歩く。
ゲートが出現してからというもの、どの国も治安が良い。悪い事をする人間はいるが、外敵がいるというのは一種の団結を生むのだろう。
また、ロマノフではハンターが国の治安維持に協力している。マフィアなどの裏組織はあるが、そこまで幅を効かせる事は無いのだとか。
ゲートはハンター協会が管理し、技能取得者も分かるようになっている。独裁国家や汚職、ゲートの隠蔽などで技能書が出回る事もあるけど、テロリストに渡る事は少ない。
だからと言うべきか、テロ自体も少なくなっている。
ハンターの中には銃が効かない者もいるし、テロリストを狩る専門のハンターまでいるからだ。
……ちなみに、なぜこの話をしているかと言うと―――
「―――『動くな』!」
テロリストがデパートを占拠したからである。
ちなみに一部制圧済み。
デパートの一角で銃声が響く。連続で、何度も響く。
「『動くなって言って―――」
「あちゃー」
「グアァ」
「『うわぁ!!火が―――」
テロリストたちがイリーナさんに向けて銃を連射するが、そのどれもがイリーナの纏う火に防がれる。
そしてイリーナさんが近くに行くと火が銃を溶かし、弾が弾け飛ぶ。火の熱さにテロリストたちは叫び、逃げようともがく。
デパート内にいた人質を一箇所に集めたのが運の尽き。彼らの人質はすでにイリーナさんの魔法が保護し、近づく人は火で炙られる。
デパートに買い物に来たらテロリストに占拠され、流されるまま人質になったらイリーナさんが殲滅に動いた。
まったく、なんで休日だ。
ちなみに私の役割はテロリストが取り残した一般人がいたら保護する事。まぁ、今のところ居ないんだけど。
治安が良い国で、最近絶滅しかけのテロリストに遭遇するなんて……。
もしや疫病神にでも好かれているのでは?
「ナツキ、とりあえずこのフロアは片付いたわ。増援が来ない今、情報を集めるわ」
「何か分かったの?と言うかイリーナ、テロリストの殲滅に慣れてるの?」
「まあね。治安維持で対人は必須よ。あとテロリスト、来るのは予想済みね。蟻のせいでハンターが動かせないから、テロリストも狙い目だったんでしょ」
イリーナさん曰く、テロが起こるのは予想できていたらしい。しかも、このテロリストは隣の国で活動している奴らで、隣国からの刺客でもあるらしい。
だから、テロリストの中には必ずハンター並みの強者がいると言う。
もともと、蟻も誘導したんじゃないかってのがロマノフ側の見解だ。その上でテロリストも隣国から来ている。……本気で戦争になるかもしれない。
「『劣等国の分際で挑発行為なんて、本気で戦争を望んでいるようね』」
イリーナさんがテロリストの背中を踏む。
首には独特な刺青があり、隣国のテロリストだと証明るすものらしい。
「なんて言ったの?」
「ナツキとの休日を邪魔するなんて許さないからって言ったの」
「『くそっ、なんでハンターが……グアッ』」
「『お前の仲間に超人はいる?素直に吐くならシベリア送りは許してあげるわ』」
「『お前らなんかに―――」
テロリストと話していたイリーナさんが、急にテロリストを蹴り上げる。
思わずうわぁーって声が出たけど、テロリストに同情の余地はない。イリーナさんはハンターだけど、それ以前に治安を守るこの国の軍人だ。
とりあえず見なかった事にして、他のテロリストを縛っていく。
「『ダメね。ここで情報を吐かすのは無理。自殺しないように縛って……』」
「これからどうする?さすがに千人規模を2人で護衛しながら移動するのは無理よ」
「応援を待つわ」
そう言って電話を始める。
このフロアはすでに制圧できているし、敵もハンターがいる事を知り攻められずにいる。なんとなく外を囲んでいるのが分かるが、何か行動を起こそうとする気配はない。
イリーナさんが電話していると、人質となった人達が騒ぎ立てる。
正直何言ってるか分からない。もう少しゆっくり言ってくれたら少しの単語は聞き取れるんだけど……パニック状態の彼らに何と言えばいいか……。
「イリーナ、ハンター、ミートゥー」
「『早く私たちを解放して!』」
「『何言ってるか分からねぇよ!どけ、俺は帰る』」
「『テロリストは捕まえたんだろ。早く逃げようぜ!』」
あー、ちょっと……かってに動かないでよ。
何言ってるか分からないから、イリーナさんを呼ぶ。
「『はーい、皆さん落ち着いて。今応援を呼んだからもう少しここに居なさい。これは軍からの指示よ。外にはまだテロリストがいるけど、軍の指示を無視して行きたいならどうぞ。あなたたちが死んでも責任は取らないわ』」
「『死んでもって……』」
「『ここは今、安全なの。分かる?』」
「『わ、分かった』」
興奮していた人質たちは次第に落ち着いて、その場にしゃがむ。
さすがイリーナさん。軍人としてしっかりしているし、説得も得意なんだろう。テロリストには容赦しないけど、市民には優しい。理想の軍人みたいな姿ね。
「それで、応援が来るまで私たちは待機?」
「超人、いるかもしれないわ。私たちでここを守るわよ」
超人、技能書を使っている人を世間一般ではそう言う。
基本ハンターが持っているんだけど、病気への抵抗や身体能力の向上が目的で使う人もいるのだ。そしてテロリストも……。
「言っとくけど、私は銃効くから」
「私も効くわよ。炎で守ってるだけ」
私にはその炎が無いって言ってるんだけど、伝わらなかったかな?
イリーナさんからすれば超人以外は敵じゃ無いんだろうけど、私の場合普通のテロリストでも一歩間違えればハチの巣にされるのだ。守ると言っても、こんな広々とした広場では無理。
せめてバリケードでも形成したいけど、そういった物資も無いし……。
「こういうとき土の魔法が羨ましいわね」
「なんか嫌な予感するわ……オカンって言うんだっけ?」
「―――フラグが建ったかしら?」
急に地面が揺れる。
自身のような揺れだが、私の勘が土の魔法だと判断する。
「ナツキ!」
「最悪、人質を分断するつもりよ。どうする?」
地面が割れ、土があふれ出す。
その土が壁になり、また土の手を作って人質を連れ去ろうとする。
「――『魔剣召喚』!ッシ」
イリーナさんが魔剣を召喚し土壁を攻撃する。土の手も切断し、人質を守るように動いているがそれで精一杯だ。
そんな状況に、テロリストたちも動き出す。こんな状況で銃を乱射されたら人質を守れない。というか、テロリストの目的が何なのか分からない。
政府と交渉するにしても、人質が生きていないと意味が無いのに、魔法まで使っての攻撃なんて……。
―――あぁもう、面倒ね。
なだれ込んでくるテロリストの鎮圧に向かう。
ゼロカウンターで空を飛んで、そのまま敵の真ん中に落ちる。こんなことなら防具だけでも探すんだったと少し後悔……まぁ、ここなら同士討ちを避けてあまり撃ってこないだろう。
「体術嫌いなんだけど―――ッ」
近くにいる敵から順番に殴る蹴る。
魔物と違う人を殴る感覚、何度経験しても慣れそうにない。だが、気を抜く事は無い。魔物ほど脅威を感じないとはいっても、油断すると銃に撃ち抜かれる。
私は嫌な感覚を我慢してその場を踊るように回りながら移動する。
殴り、蹴り、回りながら魔法を使っている人物を探す。
普通の人には分からない感覚だが、魔法や魔力は感覚で辿れるのだ。
だが、こちらに攻めてきた敵で、魔力を使っている感覚は無かった。
「イリーナ、こっちには居ないわ!」
「こっちも居ない。どこかで見てるはずなのに」
二方向から攻めてきた敵だが、敵の最大戦力が居ない状況でテロリストは数を減らしていく。
土の相手をしながらテロリストも制圧するイリーナさんは、さすがAランクのハンターだと思う。
私ではまず土の相手をできないから。
「『死ね……なッ!』」
「残念」
近距離で銃は不利と判断してナイフに持ち替えたテロリストだが、ただのナイフでは皮膚を少し切る程度、私の骨は切れない。少し血が出たが、その傷もすぐに塞がる。
銃は火薬の量で威力が決まるのに対し、刃物は切れ味と人の腕力で決まる。
大人の男性とはいえ、ただの人では私の骨を切る威力にはならないのだ。
「私もつくづく人を辞めてるな」
普通の人から見たら、確かに私は人では無い何かなのだろうな。そんな事を思い足を止めた瞬間、嫌な予感がして横に飛ぶ。
「うぐ……っ」
飛んだ瞬間、肩に衝撃を受け後ろに飛ばされる。
空中にいて衝撃を殺したが、それでも人が何メートルも飛ぶ威力の何か。
飛んでいなければ頭部に直撃していただろう。
「これ、は……」
―――風だ。
風の弾が私の肩に当たったのだ。
見えないうえに感じ取りにくい魔法。威力はそこまでだが、人になら十分脅威になる魔法だ。
風の弾が放たれた場所を見る。
そこには人影は無く、そして魔力も感じない。
見えない敵。
―――鎌狸みたいな敵だな。
「イリーナ!敵は透明になってる。たぶん魔力も消せるわ」
残念ながら透明な敵を探す手段が私には無い。
ただ、私は1人じゃ無い。敵が透明だと気付いた瞬間、イリーナさんの魔法がフロア全体に広がる。
火花のような小さな火だが等間隔に点在し、それに透明な敵が触れた瞬間ーーバチッと音がする。
「そこよナツキ!」
場所が分かれば簡単。
私は空を飛び、一瞬で近づくと蹴りを入れる。空間に足がめり込み、透明な敵を蹴ったのだとすぐに分かった。
敵は飛ばされ、意識を失ったのか透明化が解除され土の動きも止まった。
おそらく、超人は彼女1人なのだろう。
「反応できてなかったし、完全な魔法系ね」
「『やっぱり、北中国の連中ね。全員、キムチ顔のやつばかり集めて……支配された韓国連中が使われたみたいだけど、責任逃れのつもりかしら?この女は少し違うみたいね』」
「これってやっぱり政治案件?」
「そうね。でも、どうせ知らないフリするわよ」
ハンター2人なら制圧できると判断したみたいだが、結果全員倒れている。
こちらは人質に怪我人がいるけどそれだけで、重症者も特にいない。
テロリストの目的だが、全く分からないままだ。
つまり政治がらみの襲撃だったんじゃないかなと、私は思っている。
見た感じあの国が関わっていそうだし、まぁテロリストも捕まえたし目的はイリーナさんの方で尋問なりするだろう。
今日は疲れたし、もう帰って寝る。
精神を安定させる為の休日のはずが、むしろ精神が削られたんだけど、明日も休みにならないかな?……ならないだろうな。




