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21,裏の事情





少女が社長室を後にする。

出て行ったのを確認し、部屋に残ったおっさん2人は肩をすくめタバコを取り出す。桐島はあまり吸わないが、社長と2人になると吸いたくなるのだ。

これはもはや癖である。


そんな桐島を羨ましいと思っている野瀬。

野瀬は止めたくても止めれないのだ。


「それで、あいつで良かったのか?」


煙草を吸い始めて少し、桐島が話始める。

話が長くなるのを予想し、内線でコーヒーを頼んだ。正直、今回の件に桐島が関わってきたのは予想外だ。つまりこいつも戦力が欲しいと考えている訳だ。


「今回の囲い込みについて何か言う事はあるか?」


「ガキを騙しているようで、少し嫌な気分になったくらいだな」


「そうか」


魔女装備を渡して報酬が妥当なんて言ったが、あれは半分嘘である。

正直、Bランクになったばかりのハンターには多すぎる報酬である。ならなぜそんな報酬を提示したか、それには2つの理由があった。


1つは、高位の武器、防具は修復する人材が不可欠な事だ。

ダンジョン産の武器や防具の修復には専用の技能が必要になる。Cランクまでの装備なら技能1つで直せるが、Bランク以上を直すには複数の技能を持った鍛冶師が必要になる。

そして、そういった貴重な人材は、ハンター協会よりもハンター組織の方が人材が豊富なのだ。


そして2つ目の理由が、『バルバトス』の戦闘力が予想以上だったからだ。


野瀬は『バルバトス』を桐島と同等の戦力と考えている。

現在トライデントにはAランクのハンターが6人在籍しているが、桐島は頭一つ飛び出て強い。


それこそS級、英雄級に並ぶ実力者だ。


日本全土でも1人しかいないS級に並ぶ実力のある桐島と同程度の戦力を持つ彼女。

今はまだ知名度が低いが、いずれ囲い込みが始まる。


―――あの予言もあるのだ。国際的な問題を無視してハンターを引き抜こうとする国も現れるだろう。


「これ以上、日本の戦力が流出する訳にはいかないんだ」


「あいつの事か……」


と言うのも、ミノタウロスのゲート攻略後に秋葉美香ハンターが所属を海外に移したのだ。

ハンター組織には所属していなかったが、チームも同じように移籍し海外のハンター組織に入っている。それに付いて行くようにCランクハンターが複数人海外へ移籍していった。


秋葉ハンターはチームの1人を失い、世間からの批判もあり仕事にならなかった。

彼女が移籍したのは仕方がない事だ。


「……まだガキだったんだよ」


「お前が責任を感じる必要は無い。ハンターは自己責任だ」


柄にもなく考えてハンター業にも影響が出ている。

ハンターなのだから自分の事だけを考えればいいのに、桐島は昔から変わらない。



秘書課の子が持ってきたコーヒーを飲む。


「お前はまず、攻略に目を向けろ」


「あのガキンチョ……夏輝ハンターだが、最悪死ぬぞ。召喚体も10m級だ。蟻の巣には向かねぇよ」


「……分かっている。その為の契約だ。ちゃんと“トライデントのチームとして行動する”って書いてあるだろ?全員Bランクのハンターだ。問題ない……はずだ」


―――ただ少し、嫌な予感がするだけ。


ダンジョンの氾濫を隠していた国だ。

他にも何かを隠していたとしても不思議ではない。


それに3年だ。

魔物の成長がいったいどこまでいっているのか。想定ではC~Aまでとなっているが、Sランクの魔物が居てもおかしくない。


「まぁいい。俺がさっさと攻略して手伝いに行けば、それで解決する話だ」


「……ふー、さっきと言ってることが違うな。ようやくやる気が入ったか?」


「っはぁ、煙臭ぇな。いろいろ考えてると禿げるぞ」


「やめろ。……気にしてるんだぞ」



白髪と抜け毛が気になり始めた野瀬。

これも全部、社長なんて椅子に座らせた仲間が悪い。仕事とストレスで煙草も酒も止められないのだ。ハンター組織だけあって運動施設は整っているが、最近はその運動時間すら確保が難しくなっている。


もしお腹の肉が弛んでしまうと、さらに娘に嫌われてしまうだろう。



―――でもまぁ、この椅子も悪くないと思い始めている。


「ふー、話は変わるがお前の末の息子はどうしてる?」


「……あいつもハンターになりやがった。馬鹿な息子だ」


「はは、俺の娘もだ」


すでに孫がいてもおかしくない年齢の2人だが、まだ子供たちが結婚するなんて話は無い。それどころか、どちらの子も皆ハンターになってしまった。

父の仕事を尊敬するのは良いが、危険な事をしてほしくないのは親心だろう。


ちょうど子供たちと同世代だから、秋葉ハンターに重ねてしまう所があるのだ。

ハンター業は甘い仕事じゃない。いつ命を落としてもおかしくない仕事だ。残酷な判断を迫られる事も、責任を追及される事もあるだろう。そういう仕事だと、割り切れない者がハンターを続けると精神が病む。

子供たちには教えてきたはずなのに、それでもハンターになってしまったのなら……それはもう自己責任と言うほかない。


ただ、他人に迷惑をかけたなら、親が頭を下げるのも通りだ。

何かが起きた時、尻拭いはする。


「そういや真紀まきちゃんはCランクだったよな?今回の蟻討伐、手伝ってもらったらどうだ?」


「……あのな、Bランクでも危ないって話してただろうが。真紀に行かせる訳ないだろ」


「でも、この話が広がるとかってに行くかもよ。夏輝ハンターの事をライバル視してるらしいしな」


娘の顔が浮かび、嫌な予感がする。

最近娘は機嫌が悪く、理由を聞くと自分よりも年下なのにランクが高い夏輝ハンターの事が気に食わないようだ。

どうもあの年頃の子はランクに敏感だ。年下の子に追い抜かれる感覚もあるのだろうが、それのせいで無茶な事をしないか心配なのだ。


ランクなど強さの基準にならない。

もちろん、高ランクは認められるだけの実績があるし、5年もハンターを続けてきた夏輝ハンターは立派なハンターだ。

娘の真紀も分かっているはずだが、それとこれとは別なのだろう。

追いかけられる、追い抜かれる感覚というのは、本人にしか分からないし解決できない。壁を越え成長してくれることを願うばかりだ。



「……行きたいで行ける訳ないだろ。政府からの要請だぞ」


「いや、うち以外にも野良からハンターを集めてるところがあってな。まだ枠が埋まってないらしい。……枠、貰ってくるか?」


「どこの組織だ?」


「あそこだよ。ミノタウロスの討伐を失敗した……」


そこまで聞いて思いだした。

政府からの依頼で集められたハンター組織のうち、10の組織が参加を表明した。その中に、例のブラックゲートを購入していた組織がいたのだ。

ミノタウロスの素材から会社の経営は問題なく運営しているが、人材の方に大きなダメージを受けているらしい。

聞いた話によると、入るはずだった高ランクハンターが何人も辞退したらしい。それも違約金を払ってまでだ。


「……それでもたったの2枠だぞ?埋まらない以前に普通、揃えておくところだろ」


「人材が集まらなかったみたいだな」


「……夏輝ハンターを先にスカウトできたのは幸いだったな」


「俺のおかげだな感謝しろ。……結構な額で依頼するみたいだから、たぶんそのままハンターの雇用も考えてるんだろうな。そう考えると、Cランクの真紀ちゃんは選ばれないか」


ハンター組織でハンターが少ないのは致命的だ。

現状、相場以上の金額でハンターを雇う必要があり、簡単に言うと足元を見られている。そんな現状を変えるには顔となるハンター、高ランクのハンターが1人は必要になる。


たぶん夏輝ハンターもその候補に入っていたはずだ。


「……夏輝ハンターには注意しておくか」


「あいつ、なんか騙されそうだもんな」


良い意味で性格が変わった夏輝ハンターの事が心配になる。

前は人を寄せ付けない雰囲気があったが、今は人を引き付ける魅力がある。それは良い人ばかりを寄せ付ける訳ではなく、中には悪い人も含まれるだろう。


それを本人が自覚しているのかどうか……。


おそらく、まだ周りの変化に気づいていないはずだ。

そもそも、彼女自身が自分の変化に気づいていないようだった。



「……ふー、とりあえずお前はもうタバコを吸うな。好きでもないだろ。それと―――」


「うっし、体を慣らしてくるわ。じゃあな」


苦言を言う前に出ていく桐島。

煙草を携帯灰皿に入れため息をつく。


「まったく、うちの組織は自由人ばかりか……」









――――――――――――――――――――





―――とある国の会議室。



ダンジョンの大氾濫で世界が変わり、大きな被害とそれに伴い多くの国が滅亡と誕生を繰り返した。かつて、その軍事力で世界のトップに君臨した国も分裂をし、その一つの国は現在『ロマノフ聖国』と名乗っている。


その聖国の中心、政を司る最重要機関ではある議題の話し合いが行われていた。


それは隣国が隠していたダンジョンの氾濫と、それによる魔物からの攻撃である。

これに対し、聖国は領土の割譲を求めているが魔物を排除しないかぎり解決はできない。それに隣国は賠償金で済ませようと世界機関に話を通してしまった。


この状態で領土を奪おうとすれば戦争になり、隣国はまだ魔物という爆弾を抱えている。


「経済的な制裁で済ませるには、我が国に被害が出ている。諸君、何か良い案は無いかね?」



そんな言葉で始まった会議だが、要は領土を奪いたいから案を出せと言っているのだ。

国のトップの方針に従うのは当然だが、無理難題を解決するには聖国は状況が悪かった。


分裂した国々で緊張状態にあり、そんな中で隣国に戦争を仕掛けるには戦力が足りない。

大国だった頃の軍事力はあるものの、それは分裂したほかの国も同じなのだ。背中を見せる訳にも行かず、かといって小国に魔物という国すら危うくなる攻撃をされたのだ。簡単に許すでは大国としてのプライドが許さない。


「わが国の巣は日本からのハンターが対処するようです」


「ッチ、あの国か」


「小国のくせに目障りな国だ」


すでに世界機関によって賠償で済ませる事が決まり、そのうえ日本も介入している。

この状態で戦争を仕掛けるのはますます面倒な事になるし、経済制裁も意味が薄くなる。ここにいる全員がその事に気づいているが、それでも国家元首の意思に沿うよう意見を出していく。


そんな中、1人の議員が手を上げる。


「―――日本を味方に付けるのはどうでしょうか?」


「味方に、だと?」


「……ふむ、いや難しいだろう。あの国はいまだにアメリカの言いなりだからな。世界が変わったのだと気づいていない」


「そこです。彼らの上層部はいまだに過去のまま。国民性も変わっていない。……私は彼らを味方に付けるのは容易だと考えます」


日本と言う国は戦争を嫌う。

だからこそ、我々の味方になる事は無いと考えていた。


だが、国民性はどうだろうか?彼らは協調や協力といった言葉が大好きだ。そして自分たちが裏切る事を嫌っている。裏切られる事よりも裏切る事をだ。

相手が裏切るまで決して裏切らない、たとえ泥船でも乗る。


理解できない国民性だが、利用はできる。


「戦力を送りましょう。彼らに協力と言う形で味方に付けるのです」


「馬鹿な、戦力を割いては本末転倒では無いか。それに日本に協力するなど、他の国が……」


「戦力と言っても1チーム程度です。日本に友好的な人物を送り味方に付け、その上であの国がどれほど我が国に損害を与えたのか、それを伝えるのです。そうする事で、少なくとも経済制裁には協力しないまでも黙秘の姿勢をしてくれるでしょう。上手くいけば領地割譲も叶うと私は考えます」


「その考えは甘い。あの国は他国への介入を嫌う。間接的にでも介入したとすれば、割って入ろうとするはずだ。それに―――」


その時―――トンと小さな音が鳴る。

音は最奥、国家元首の座る椅子から鳴ったのだ。


皆が黙り、音の方を伺う。


「それは素晴らしい案だ。日本に協力するチームを送ろう。それと、我が国の秘宝を使う」


「ま、まさか……」


「―――聖樹の実を与える」





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