20,報酬がかなりいい!
ハンター協会から出ると、何故かタクシーの扉が開く。
私が呼んだわけでは無いので、無視して通り過ぎようとしたら、タクシーの中から声をかけられた。
「おーい、俺だよガキンチョ」
「……桐島ハンター」
ストーカーかな?
身の危険を感じて両腕を抱き寄せる。パパ活なんてしないぞ!
「何やってんだ?早く乗れよ」
「警察呼ぶわよ」
「はあ?依頼の話し聞いてないのか?」
「私、女の子。オーケー?」
女の子をタクシーに乗せてお持ち帰りしようとしてます!
と、瀬戸さんに連絡しておく。
こちとら未成年やぞ!捕まるのはそっちやぞ!
瀬戸さん風のガンをとばす。
「なに上目遣いで見てきやがる。気持ち悪ぃな」
「気持ち悪いだと!?可愛いと言え、この脳筋!」
「お前、性格変わりすぎじゃね?精神科で見てもらえよ」
精神科は今日行きました!
と言うか、上目遣いじゃ無いし。おじさんに上目遣いなんてするわけ無いじゃん。
これ以上ハンター協会の前にいると目立つので、仕方なくタクシーに乗り込む。
この人、忙しいはずなのに……もしかして暇なの?
「言っとくが暇じゃねぇからな。ったく、先人を敬えガキンチョ」
「ガキンチョじゃ無い、夏輝だ。リピートアフターミー夏輝」
「おい、煽り技能でも取ったか?」
煽ってるつもりはないが、実は少し不機嫌だったりする。
購入するダンジョンをまた調べ直す必要があるし、学校もそろそろ行かないとまずい。
それなのに『トライデント』からの依頼である。
これが何日かかるか分からないし、海外ならパスポートもいる。
正直断りたい。
「断りたいって顔だな。俺が来なかったら、見なかったふりしただろ?」
「そのつもりでした。これって話聞いたら強制参加ですよね?協会にも情報の規制が入るくらいですから」
「まぁ、そうなるが……これ以上は本部に着いてから話すぞ」
あ、不機嫌だったからタクシー運転手の事忘れてたわ。
ハンター協会にも情報が規制されているって、それだけでも話題になるしね。
運転手さん、内緒ですよ?
「断りたいんですけど?」
「報酬の話を聞いてから考えないか?てか、乗ったのはそれを聞く為だろ?」
「時間は私が決めていいって書いてあったけど?」
「用事があるならそこで降ろすが?」
なんだ、この自分勝手な生き物は……。
殴っていいか?
「別に用事なんて無いですけど」
「なら決まりだ」
決まる前から発進してましたけど?
こうなったら報酬だけ聞いてすぐに帰ろう。どれくらいすごい報酬か知らないが、この夏輝様のお眼鏡にかなう物はそう無いと知れ!
――――――――――――――――――――
「依頼を受けます!」
即落ち2コマ。
……いやだってさ、魔女装備くれるって言うから。しかも『孤毒』よりも上の魔女装備を。
どれも買うなら数億、高いときは数十億する装備だ。
それを3つもくれるなんて……『トライデント』の思い切りの良さと言ったら。
ただ、どうしても欠席できない学校行事がある。
学年末テストだ。
社長室で、社長の野瀬さんと桐島さんが向かいに座っている。歴戦のおっさん2人、何もしてないのに空気がピりついている。
この雰囲気の中、テストがありますなんて普通なら言えない。……まぁ私は言うんですけど。
だってテスト受けないと留年になるもん。
「……ただ、2月の末に学校のテストがあるので、受けたいのはやまやまですが長期の遠征には行けません」
「まあそれでいいか……。もともと、うちの攻略と重なったせいで人員が確保できなかっただけだ。それで外から呼ぶ事になったが、攻略が終わればうちの攻略隊を向かわせる。末まで長引くことは無いだろう」
「おいおい、そんなこと言っていいのか?俺が失敗するかもしれねぇぜ」
「その時はその時だ。主力を欠いた『トライデント』では日本のトップハンター組織を維持できない。また一から始めるさ」
社長室で桐島ハンターと野瀬社長のやり取りを聞く。
自分が死ぬかもしれないと平然と言う桐島ハンターも、それを聞いても動じない野瀬社長も、私には無い年期を感じた。
おっさん2人なのに、普通にかっこいいのは反則でしょ。
「臨時のトライデント所属という形になる。この書類にサインしたら、守秘義務が発生する。正直、この事が世間に広まれば、戦争になるかもしれない。そういった類の話だ」
「分かりました」
出された書類にサインする。
貰える装備は『天理』の指輪、『天理』のローブ、そして『深層』の靴だ。
もともと、引退したハンターが使っていた物らしい。
「そう言えば、ダンジョンの許可証を買ったのかな?もし買っているなら全額こちらが負担しよう」
「いえ、まだ買ってません」
「ならいい。……さて、依頼の内容だが、まずは経緯を教えると、どこかのバカな国がゲートの氾濫を隠していた事から始まる。その魔物は貴重な鉱石を作る特性を持っていた。ダンジョン内でも作られるが、ダンジョンの外ならもっとたくさんの鉱石を作る。その国は金に目がくらみ、その魔物たちを放置する事にした。……それで他の国にまで迷惑をかけている」
話を聞いて、なんて馬鹿な国だと思った。
ダンジョンの魔物は雑食だ。ダンジョンから出れば木や草、家畜、もちろん人間も襲う。いくら金になるからと言って、生態系にまで影響を及ぼすのに、それを国主導でやるなんて馬鹿としか言いようがない。
それに―――。
「君も知っていると思うが、魔物は地球では成長する。ゲートの中では成長しないが、外に出た魔物は時間、世代で成長していく。そして、今回の魔物は蟻だ」
「……ッ」
「元はCランクのダンジョンだが、放置されて3年。おそらくAランクの個体もいるだろう。何より危険なのが、すでに巣が3つある事だ」
蟻、それはもっとも危険な魔物である。
ダンジョン内であれば危険度は計測通りであるが、地球に出た蟻は時間が経つごとに危険度も上がる。
成長する以上に危険なのは、その蟻の巣である。
ゲートの中では酸素がある。だが、現実に現れた巣はさまざまな罠があり、酸素の無い空間や空洞を作る事もある。何より制限がない。
いったい何メートルの巣ができているのか……攻略など不可能に近い。
「巣が増えるなんて……3年もよくバレませんでしたね」
「……うまい事隠していたようだが、そのせいで戦争になりかけている。金で解決しようとしているが……そう上手くいかんだろうな。―――さて、日本は増えた巣の1つを任されている。後からできたとはいえ、推定15階層だ。そこに居る女王蟻がメイン目標になる。ちなみに魔女装備以外にも討伐報酬がその国の通貨で払われる」
巣が増えたという事は女王蟻が増えたという事だ。
その女王蟻を倒す事が目標になる訳だが、倒せなくても桐島ハンター達『トライデント』の主力が来た時点で私への依頼は終わる。
だと言うのに、私1人に対し魔女装備3つははっきり言って払い過ぎのような気がする。
これには何か理由があるんだろうか?
「……うーん。魔女装備3つも貰って本当にいいんですか?」
「ああ、遠慮せず貰ってくれ。……貰い過ぎと思っているようだが、Bランクのハンターを雇うならこれくらいが妥当だよ」
「分かっていないようだから教えておくが、企業は現金で払いたくないのさ。それにハンターなら現物の方が報酬としてはありがたい。この意味が分かるか?」
現物、装備や技能、アイテムの事だろう。
特に強い装備や強い技能はハンターの生存に大きくかかわる。その意味ではたしかに現物はありがたい。でも、いくらBランクハンターとは言え、一月で何億も稼げないはずだ。それなのに1回の依頼で何億もの現物を貰うのはやっぱり貰いすぎでは無いだろうか?
「お前の考えも間違っちゃいないが、今の世界は現金の価値が低い。……厳密に言うと、信用が低いんだ。例えば、今回の国で蟻討伐の報酬を現金支払いにしているが、あの国の通貨はじきに暴落する。世界的な信用が落ちたからだ。そうなると、だ」
「……交易ができなくなる?」
「まあ大まかに言えばそうなる。交易の価格が変わるんだ、今まで通りの生活はできないだろうし、あの国の現金を持っていても仕方がない。……ここで、さっきのハンターの話に戻る。高価な現物は他国でも高い。つまり、国の信用が落ちても現物の価格は変わらないんだ」
「少し、分かりました。ようは、今の1万円札が100円の価値になっても、1万円のアイテムは1万円のまま、つまり信用が無い通貨でも現物なら100万円の価値になるという事ですよね」
「ああ。日本がそんな事になるとは信じたくないが、何が起きるか分からん。最悪の仮定で、日本が滅んでも現物があれば海外で一財産になるって事だ」
日本が滅んだら、日本円の価値はゼロだ。
そうなっても、海外で現物の価値は高いという事。物々交換なんて、なんか時代に逆行しているみたいだ。
「でも、それなら企業も現物を持っておきたいのでは?」
「いいや、企業の場合はむしろ現金が重要になる。ハンター組織ならゲートを購入するために、他の企業でも現物を購入するくらいなら新しい事業を始める。ハンターなら現物を自分で使うってメリットがあるが、企業はそれが無いからな」
他にもいろいろと理由があるらしいけど、つまり高ランクハンターは現物支給が普通で、私への報酬もこれが妥当らしい。現物を現金に換えようとするなら時間と時期を見極めないといけないし、仲介料があるから売っても買った時よりマイナスになる。
だから、Bランクハンターの報酬で魔女装備3つは別におかしくないとの事。
『トライデント』には魔女装備がいるハンターは居ないらしく、報酬にしても問題ないとの事。
まぁ魔女装備って女性限定だし、それも魔女技能とかが無いと万全の効果を発揮できないから、装備者が限られるのは有名な話なんだよね。
使わない装備と言うなら、貰っちゃおう。
「依頼受けます!」
「……騙されそうで心配になるな」
「まだまだガキンチョって事だ」
依頼を受ける事にしたから、話を纏める。
期限は依頼を受けた2日後から2月の中頃まで。(パスポートや宿は準備してくれる)
魔物は“魔蟻”。ランクはDだが、D~Aと想定している。
報酬は魔女装備3つと、討伐報酬を現地の現金で支給。(暴落するって話だし、金額はあんまり期待できないかも)
討伐人数は『トライデント』から5人で私もこれに含まれる。他ハンター組織からは計30人参加し、ハンターランクはC~A。
メイン目標は『女王蟻』の討伐。
あと、なんかバルバトスの能力鑑定もしたいらしい。現地で呼び出して能力を計るようだ。
―――実はまだ、女子になってから学校行けてないんだよね。私の学校デビューは学年末テストの日になるかもだ。
【魔女】指輪【天理】(評価B) 売値1億~
硬度 90
能力
【打撃耐性付与】 装備者への打撃ダメージを下げる。
【重力――減】 重力を減らす。
セット効果【魔女の茶会】
特殊セット効果【深淵を覗く魔女】
【魔女】ローブ【天理】(評価A) 売値3億~
硬度 120
能力
【斬撃耐性】 斬撃ダメージを減らす
【コネクト】 残り硬度分、装備者の防御力を上げる。
セット効果【魔女の茶会】
特殊セット効果【深淵を覗く魔女】
【魔女】靴【深層】(評価A) 売値8億~
硬度 240
能力
【空足場】 空中に足場を作る。
【空撃】 足による攻撃で衝撃を与える。
【移動補正】 足による移動が速くなり、消費体力が少なくなる。
セット効果【魔女の茶会】
特殊セット効果【深淵を覗く魔女】




