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19,精神鑑定





突然だが、私は精神科に通っている。

月1回くらいの診察だ。


魔物を倒すハンターは精神科に通う人が結構いるらしいけど、私の場合は少し違う。

まぁ、ジェンダー症の診察みたいなものだ。


毎月1日に予約して訪れている。


そんなわけで、2月1日の今日も診察を受けに来たのだ。


「次は、武蔵くんか……呼んできてくれ」


部屋の中で声がする。

看護師の女性が部屋から出てきて、私を見て驚く。


私は悪戯でも成功したような表情をし、黙っているようアピールした。


首からかける患者票を確認して、看護師の方は「どうぞ」と中に入れてくれる。


「いらっしゃい……誰だね君は?日向くんちゃんと確認してから―――」


「ハロー、前田先生。私、武蔵夏輝と言います」


「……武蔵夏輝?家族の方……?いや、誰だね君は?」


「本人だよ前田先生」


患者票を手に取り数秒、信じられないモノを見るように私の顔を確認する。

前田まえだ 信照のぶてる先生。精神科の先生だ。


地方の安全が危ぶまれる中、首都で先生を続けられるくらいには優秀な精神科医らしい。

優秀な人材は首都へ、無能は地方へってね……。


「この紙に書いてある情報には君が武蔵君だと示している。だが、私の目がそれを否定している。彼がフリフリのワンピースを着てくるわけが無い!」


「これ妹が選んでくれたの。可愛いでしょ?」


「……まさか、本当に?女装という訳でも無いだろう。背が低くなっている。肩幅も女性のそれだ」


「いつも言ってたでしょ?TSポーションですよ」


何年もここに通っていて最近は話す事なんて世間話くらいだった。

それが新たに話の種、女体化した被験者が現れたのだ。先生は嬉しそうに話を聞く。


TSポーションは希少で、基本的に2本同時に使う。

別性のまま活動する人は少なくないけど、ほとんどが海外の人だ。日本だと私含め3人くらいかな?


隠している人もいるだろうけど、知られているのは3人だけ。

これは日本だけじゃないけど、日本では特に顕著だ。どうしても別の性になる人には偏見の目が向けられる。特に男性から女性になると。


「……なるほど、ここまで変わるとは思っていなかった。これは興味深いね。それに性格も少し変化があったようだ」


「性格は変わってないかな」


「いいや、前の君なら気安くハローなんて言ってこないよ。間違いなく影響がある。そうだ、今日は精神鑑定を最初からしてみよう。結果がとても気になる」


いつも通りの先生に私は少し安堵する。

どうしても他人の目とは気になるモノで、外を歩くとよく見られるのだ。


これが性格の変化か分からないけど、私は他人の視線が怖い。

配信を始めて誹謗中傷のコメントもたまに来るけど、それよりも直接の視線の方が怖い。なぜか、視線から相手の感情を読み取ってしまうから。



―――彼女が視線に敏感になったのは性別が変わったからではない。技能が強化されて五感から相手の感情を一部読み取ってしまうからだ。その事に気づくのはもう少し後になる―――



「よし、さっそく鑑定を始めよう」


「えー、世間話でいいじゃん。前もそんな感じだったし」


「前の君と今の君は大きく変わっている。時間が惜しい。こんな研究材料は滅多に居ないからね」


「うわー、マッドサイエンティストみたいだ」


少し茶化しつつ、先生の質問に答えていく。

私は記憶力が良いので同じ質問と回答を覚えている。ただ、前に思っていた事と今思っている事は違うので、今の気持ちのまま質問に答えていく。

これが性格の変化なのか、子供から大人に成長している成果なのか。こういうのは先生が判断してくれるだろう。


質問が30分ほど続きいったん休憩になる。


「ふむ、ここからは君の近況を聞こう。日向くん、このお茶を用意してくれ」


看護師の日向さんは「分かりました」と言って下がっていく。

たぶん彼女がいるとできない質問とかもするんだろう。先生は彼女に怒られる事をできないのだ。理由は知らない。


「さて、最近何か変わった事を始めたかい?」


「そうですね。配信者になりました」


「ほう。配信者か。前の君なら考えられない選択しだ。たとえ誰かに勧められたとしても。何か心境の変化があったのかな?」


まあそうだよね。

配信者になりたい人はもっと早くから配信者になる。

それこそ、ハンターになった日に配信者デビューする。そうやってリスナーと共に成長を記録していく方が、配信者として王道だ。


対して私は成長した状態から始めている。

例えるなら、小説を途中から見ている感じ。しかも前のページは見れない。

もちろん、途中からでも面白い物語は面白いだろうし、配信も同じだ。ただ、私の配信が面白いか聞かれると困る。


そもそも、私が配信者になったのは―――。


「……実はTSポーションを手に入れる事が目的だったんですが、目標を達成してたぶん新しい何かが欲しかったんです。ハンターを続けるための何かを」


先生と話していると少し自分の中で情報が整理されるような気がする。

思っている事をそのまま伝えると、先生はメモを取っていた。世間話なんて言っていたけどこれも診断の要素になるようだ。


「ふむ。普通にハンターを続けるのではダメだったのかい?」


「私の中でハンターは手段だったんです。目的を達成して必要が無くなったら、モチベーションが続かないと思いました。ハンターってとても大変だから」


いくら魔物で殺したらアイテムに変わると言っても、見た目が動物に似た魔物もいる。

それに外に出てきた敵は死体が残るし、戦ってる時は生身の感触もする。自分の怪我も相手の怪我も見る事になる。

ハンターは魔物だけじゃない。精神がすり減るのを感じて、引き際を間違えると壊れる。


そんな体験をずっと続けるなんて嫌じゃん?

目的を達成した私はハンターを続ける意欲が無くなった。


「なら逆になんで辞めなかったんだ?」


「それは……」


―――水嶋ハンターからSランクゲートが来年氾濫する事を聞いたから。


でも、これは極秘の情報だし、何より確証がある訳じゃない。

どこかの国の未来予知で来年に大氾濫が起きると、そう予言されただけ。


……たぶん、前の私なら死んでもいいと思ってた。だって中学生でハンターを始めるなんてとても普通の人がやる事じゃ無い。私はたぶん狂っていた。


でも、性転換して正常になったから死ぬのが怖くなったんだ。

私も、そして身近な人が死ぬのも怖い。


もしかしたら視線が怖いのも正常に戻ったからなのかな?


「ふむ。言い難い質問だったかな?なら質問を変えよう。TSポーションを飲んだ時の体の変化を知りたい。正直に言うが、私はこの質問がとても気になる」


先生は話せない事があると察して話を変えてくれた。

少しおどけて見せているが、これでも名医で地方に飛ばされない実力者。空気を読むのもお手の物なのだ。


「そうですね。まず、飲んだ瞬間に眠気がして、体の中から徐々に変化していくのが分かりました。その間体は動かせなかったです。動かせなかったというより、脳も変化していたのか命令ができない感じです」


「なるほど、面白いね。非科学的だが、もし体を女性に作り替える場合はやはり内部から変えていく必要がある。つまり、君の体には子宮が……」


「先生、デリカシーって知ってます?」


「医学の進歩の前では些細な問題だよ」


「よく飛ばされませんね」


「これでも名医なのさ。下半身は―――」


扉が開き、お茶を持って看護師が入ってくる。

その瞬間先生の言動がピタリと止む。


「……セクハラですか先生」


「嫌だなー。ちゃんとした鑑定さ」


「私がセクハラだと感じたら訴えます。武蔵さんも嫌なら嫌と伝えてください。先生は言われないと理解しませんから」


はーい。


「……先生が悪いんですよ?ちゃんと反省してください」


「はい。……じゃあ心理テストに戻ろうか。この2つのお茶は1つはほんの少し苦く、もう1つはほんの少し甘くなっている。飲んで当ててみてくれ」



看護師が戻ってきたので心理テストの続きが始まった。

その日は日向さんの監視の元、ちゃんとした心理テストで終わった。





――――――――――――――――――――





病院を出て向かう先はハンター協会。

『孤毒』のダンジョン攻略の申請をする為だ。


制限ダンジョンも協会が管理しているため、攻略には申請を出す必要がある。

申請には申請費用が掛かり、一度の申請でその月は何度でも攻略が可能になる仕組みだ。


ゲートごとに費用が決まっており、『孤毒』のダンジョンは月100万になる。

ちなみにこれは1人当たりだ。


ハンター協会の受付に向かい、受付嬢に申請書類を持っていく。

私担当の西野さんだ。


「こんにちわ西野さん」


「はい、こんにちわ夏輝さん」


西野さんの呼び方が変わっているのは、私がお願いしたからである。


先月『孤毒』のダンジョン申請の時にも合っていて、その時にこれからは武蔵ではなく夏輝と呼んでほしいと伝えたのだ。


「夏輝さん、少し髪が伸びましたか?」


「はい。長い髪に憧れてたんです。……ただ、ちょっと運動をしているときに邪魔になりますね」


「ハンターをしていると長い髪が引っ掛かる事もあります。気をつけてハンター活動してくださいね。今日はダンジョンの申請ですね。『孤毒』ですか……少しお待ちいただいていいですか?」


そう言って何かを調べ始める西野さん。


「お待たせしました。『孤毒』のダンジョンですが、すでに10人へ発行しております。このまま申請されますか?」


「10人も?」


制限されてからBランク以上の人しか受けられなくなっている。なのにもう10人も申請しているなんて……。

ちなみに先月は私含め3人だった。


「どういう事?」


「そのー、たぶんですが夏輝さんの動画を見たからだと思います。制限ダンジョンは確定ドロップですから、あとはアイテム運です。一度の攻略で100万円稼げるなら十分元が取れると考えているハンターが多数いるようでして……」


つまり、制限されて不人気になった後にBランクへ昇格したハンターが、このダンジョンは稼げると勘違いしたらしい。

最初の人はまあ分かるが、9・10人目は何を考えてるんだろ?数字で見たら月3回しか攻略に行けないのに。


もしかしたらゲートの近くに住んでいる人なのかも……。

それなら誰よりも早く攻略に行けるし、先に申請した人はご愁傷様。


入場許可の取り消しと返金はできるが、その日以降の場合全額は戻ってこない。


ここはむしろ良かったと思っておこう。

ありがとう前田先生。いつもより長く時間を取られたけど、いい事があったよ。


「申請は取りやめます」


「はい。……夏輝さんに『トライデント』から依頼が来てますね。こちら依頼内容になります」


「依頼?」


そう言って渡された紙には、要約すると『トライデント』本部に来てくれと書いてあった。

時間は私が決めていいようだけど、何の用だろう?バルバトスの事はちゃんと伝えていたし……。


やっぱり強すぎたかな?


「私何かやっちゃいました?」


「やってますね。技能強化の事が広がりましたから。……まぁ、今回は別件だと思いますよ」


「何か知ってるの?」


西野さんは少し言い淀んで、話し始める。

機密事項か何かがあるのだろう。つまり、ハンター協会が今回の事情に関わっているという事だ。


「……多くのハンター組織に協力要請が送られたんです。『トライデント』はAランクゲートの攻略が待ってますから、参加できる方が限定されます。たぶん外部の人間を雇うつまりなんでしょう」


「それが私?」


「今回の要請は海外からなんです。世界的な危機の要請となっていますが……これ以上はハンター組織にのみ情報が開示されます」


世界的な危機。

―――大氾濫や脅威度の高いゲートの氾濫で、その国がハンターのみで対処できないと判断した場合に要請される。脅威度とはゲートのランクでは無く、魔物の種類だ。


例えば、羽の生えた魔物だ。

たとえDランクの魔物でも一般人からしたら戦車だ。そんな魔物が空を飛ぶ。繁殖すれば全世界が脅威にさらされる。飛行機が攻撃される可能性もあり、過去に何度か世界的な危機の要請として全世界のハンターに要請が出た。


今回も似たような例だろう。

問題はハンター組織にのみ通達が出ている理由。


高ランクの魔物の可能性が高い。

例えばAランクの魔物とか、国際問題とか。


「これ以上は『トライデント』の方で伺ってください」


「うん。受けるか受けないかは別にして、いったん話を聞いてみるよ」



たぶんかなりの厄介ごとだ。

そんな予感を胸に仕舞い、ハンター協会を後にする。






『化神バルバトス』のステータス。


化神【バルバトス】 召喚体

危険度S~SS

全長 10m 短縮可能


ステータス (攻撃力と防御力は2つの合計になる)【再召喚・最大時2.5倍】


攻撃力 400+400:S【1000+1000:SS】

防御力 400+400:S【1000+1000:SS】

体力  400:S    【1000:SS】

魔力  400:S    【1000:SS】

知力  400:S    【1000:SS】


技能


【攻防一体】 攻撃と防御のステータスが2つの合計になる。

【魔神化】 神属性が付く。神属性―――全魔法への耐性50%。

【悪魔】 悪魔属性が付く。悪魔属性―――神属性の敵へダメージが2倍になる。

【再降臨】 降臨スタック5。死ぬたびにステータスが上がる。6スタック無くなると休眠状態になり、5スタック回復するまで降臨できない。 1:1.2倍 2:1.5倍 3:1.7倍 4:2倍 5:2.5倍 (1スタック=100時間で回復)

魔剣召喚【ヘルスレイヴ】 魔力をすべて使い魔剣ヘルスレイヴを召喚する。

全状態異常耐性【特】

剣補正【特】 剣の装備条件を80%減らす。硬度、攻撃を80%上げる。

【瞬歩】 100m以内を瞬間移動できる。 (消費体力40)

【斬撃】 剣の攻撃を飛ばす。距離、障害物で威力が減少する。 (消費体力20)

【斬撃領域】 剣の届く範囲に入ったモノを理解する。

【防御割】 防御貫通20%

【威圧】 自身の攻撃力より弱い敵の動きを鈍らせる。

【風圧】 風の領域を作る。近づくに連れ風が強くなる。

【服従】 召喚者に従う。

【反発】 自分より弱い召喚者の指示を無視する。 (いずれかのステータスが400を超えないと【降臨】スキルが発動できない)



魔剣【ヘルスレイヴ】 (評価SS)

硬度(不滅) 攻撃=消費魔力 装備条件 攻撃力800以上

能力

【不滅】 硬度が無限になる。

【破剣】 召喚時に消費した魔力が攻撃になる。

【ヘル】 地獄の火を宿す。攻撃+200『地獄の火はすべてを燃やす』 (消費体力100)

【伸縮自在】 大きさを自在に変えられる。 (1~10mまで)

【天地砕く破壊剣】 神・悪魔属性へのダメージ2倍。 (消費体力100)

必殺スキル【消滅の一撃】 防御不可能範囲攻撃。10m以内の物をすべて軌道上に斬る。 (【ヘル】【天地砕く破壊剣】を使用し、魔剣の攻撃力が1000以上の場合使用できる。一度に付き消費体力200)



※必殺スキル【消滅の一撃】はバルバトスが4スタック無くなった以降の状態でのみ使用できる。


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