2,ダンジョン攻略に向けて
1月3日、今日もハンター協会に向かう。
基本的にダンジョンに行った翌日は休暇を取っている。疲れている訳じゃないけど、連続でダンジョンに行くと感覚が狂うのだ。
洞窟型のダンジョンならずっと暗闇にいるようなものだし、『春雨』ダンジョンだと雨が降ったり止んだりで……。
基本的にハンターは連続でも3日くらいしかダンジョンに入らない。
攻略する場合は何日もかかる時があるけどね。
「あ、おはようございます武蔵ハンター」
「おはよう西野さん」
「珍しいですね。この時間に来るのは珍しいですね」
現在時刻13時。
ギルドに来るときはいつも朝早くに来ているので、この時間に来るのは珍しい。
「先日でBランクになりまして、今日は講習に行ってきたんです」
「おめでとうございます!武蔵ハンターもようやく上位のハンターになりましたね。今日はダンジョンに行かれるんですか?」
「いえ、今日は装備とかの相談をしに来ました。服部さんは居られますか?」
服部さんとはこの協会本部にいる武器専門の人だ。
日本では銃刀法で武器を持つことが禁止されている。もちろん猟銃などは許可があれば持っていても大丈夫だし、ハンターも許可があれば持っていられた。
でもハンターの犯罪が明るみになり、今は武器を協会に預けるのが原則となっている。
これが可能になったのはとある魔道具のおかげでもある。
「武蔵ハンターが装備をですか……?」
「ええ。Bランクにもなりましたし、これに参加しようと思っていまして」
「……ダンジョンアタックですか。ハンターの危険は自己責任です。十分準備して挑んでくださいね」
……てっきり止められると思っていたから驚いた。
西野さんは中学生の頃から私の面倒を見てくれていた。長い付き合いになるし、年下の子が危険を冒そうとしていたら止める人だ。
その事が気になったので聞いてみる。
「……止めないんですね」
「武蔵ハンターはもう上位のハンターです。自分で判断してください。……それに、きっとあなたなりに目的があるんだと思います。私個人の意見としては参加を見送ってほしいと思っていますが、その判断は武蔵ハンターがしてください」
「……ええ、そうですね。きっと止められても参加すると思います。だから止められなくてよかったと思っていますね。西野さんに言われたら、迷ってしまうので」
「ならしっかり準備してくださいね。準備の口出しくらいはさせてもらいます。ここのダンジョンの情報もいくつか調べてみますので、その間に服部さんと武器の相談をしてきてください」
西野さんにダンジョンの事を調べてもらっている間、私は服部さんのいる武器庫に来ていた。
武器庫と呼んでいるが、ここには一つも武器が無い。理由は簡単で武器を収納するマジックバックが存在するからだ。
このマジックバックと武器転送魔道具のおかげで、氾濫が起きた際にその近くのハンターへ迅速に武器を渡す事ができるようになった。
「珍しいな武蔵」
「お久しぶりです服部さん」
作業着を着た筋骨隆々の大男がカウンターに座り、私に挨拶してくる。
私は180センチを超えるが、服部さんが立つと私よりも頭一つ大きい。横にもでかく、座っているのに威圧感が凄い。
「ようやく武器を選びに来たか」
「ええ。Bランクに上がりまして」
「おおそうか。てっきりお前なら辞退すると思っていたが、まあいい。Bランクに見合う武器と防具を探してやろう。予算はいくらだ?」
「3億~6億円で一括です。貯金のほとんど全額です」
本当は『TSポーション』の為に貯めていたのだけど、今回の参加で確実に手に入る。そういう条件だから、今回は生き残る事を優先したい。攻略は水嶋さんがしてくれるだろうし。
「よし分かった。防具は鎧とかよりもシールド系の指輪とかだな?武器は何がいい?」
「剣が4本と盾が1つ。あと、マジックバックが欲しいです。マジックバックは複数でもいいのでだいたい1000キロを目安にお願いします」
「1000キロか……だいたい2億だな。残りを3億で揃えるなら……武器の性能は低くなるぞ?」
「……なら剣はいいので、盾をもう1つと多めにシールドの魔道具を集めてください」
元々、剣は私が使うものじゃなくて、明王が使うものだから。
明王には腕が6つあり、武器は剣を1本と私があげた金棒しか持っていない。
残り4つの手にも持たせてあげたいのだけど、剣4本だとちょっと格好悪いしこのままでいいや。
それに『カウンター』がどう反応するのかも分からないから、やっぱり手は空けておこう。
「分かった。盾抜いて3億くらいで調整する。盾は今から選んでくれ」
そう言ってマジックバックから出したのは金色に光る盾だった。見るからに神々しい。
有名でしかも英雄が使うような盾。
「『アイギス』だ。お値段なんと25億円。クールタイムはあるが『絶対防御』に『対魔神』を持ってる。『対魔神』は魔物を弱体化する力だな」
「予算越えてるんだけど」
「なに、今のお前さんでも分割で20年ってところだ。性能は保証するぜ」
「違うのをお願いします」
次に出てきたのは冒険者ならそこそこ知っている盾だった。
種類がいくつかある盾で汎用性はない。
「次に紹介するのは属性盾だ。それぞれの色で魔法の完全無効ができる。1つあたり1億だ」
9個の盾はそれぞれの色の属性を無効化する。
火、水、土、風、光、闇、毒、氷、雷の9つで、汎用性はない。唯一毒の盾は毒以外にも酸や泥酔、誘惑、混乱、洗脳なども無効かするので使う人はいる。
でも、これらのデバフは『超心体』が無効にしてくれるのだ。
酸で服は溶けても皮膚は溶けないし、毒も効かない。泥酔、誘惑、混乱、洗脳も無効かしてくれるので、私には必要ない盾となる。
「次お願いします。できれば汎用性のある物で」
「……汎用性ってな、B級以上はむしろこういったとがった性能じゃないと攻略できないんだぜ?『絶対防御』みたいな汎用性のある能力は総じて高い。むしろ属性盾は今後もっと高くなるだろうさ。1億は安い方だぜ?」
「……」
まあ確かに、人数制限が無いダンジョンなら9人のタンクそれぞれに属性盾を持たせればほぼ無敵の布陣だ。それこそ、『アイギス』1つよりも、クールタイムの無い属性盾の方で属性に合わせて防御する方が固い守りになる。
ただ、集団戦やいくつもの属性を同時に使う敵なら、属性盾よりも『アイギス』の方が使える。
「じゃあ次の盾だな。次は重盾だ。値段は2億だが、三つの能力付きだ。『重盾』『不動』『耐熱』だ」
「高いけど良い盾ですね」
「Bランクが使う盾ならこれくらいがラインだ」
『重盾』は盾の重さを増やす能力で、吹っ飛ばされにくくなる。
『不動』は自身も重くなり、筋力も上がる能力。
『耐熱』は盾も使用者も熱に強くなる。
しかし、このレベルがBランクの基準だと、完全に予算が足りない。
すでに3億使うのは決まってるし、盾1つに減らすか……?
「どんどん行くぜ。次はこれだな。剣闘士の丸盾。値段は5000万でセット効果がある。剣闘士の剣と合わせると、『飛び道具無効』の能力が付与される。剣にも『武器破壊』が付与される。剣とセットなら2億5000万円だな」
「確か鎧もありませんでした?」
「鎧は兜と合わせてセット効果がある。4つ集めると身体能力が上がる」
これらはシリーズ装備と呼ばれる武具だ。
集めると強いがそれぞれが高く、1つだけだと効果を発揮しない。
剣と盾だけでも残り予算のほとんどを使う形になる。
「先行投資としてはいい装備なんだけどな。じゃあ次はこれだ。『風神の盾』これもセット効果があるが、それ以外にも『風除け』で魔法や飛び道具を逸らす。値段は2億だ」
やっぱりBランク用の武器はどれも高い。
普通は分割で払うんだけど、今回のダンジョンアタックが終われば引退する予定なので分割にはしたくなかったのだ。
だがこうなると、分割で払う方が安全面でいいかもしれない。
「セット効果は?」
「『雷神の槍』と合わせて『風雷』っていう魔法が使えるようになる。かなり強力な2属性攻撃だ。ちなみに『雷神の槍』は『雷帝』の能力を持ってる。8億円で売ってるぞ」
計10億。
目的と手段で同じ金額になってしまうな。
『雷帝』は雷を身にまとう能力で、武器や防具に雷を付与し防御も攻撃にも転用できる。
『風雷』はフィールド魔法と呼ばれるほどの広範囲で雷と嵐を作る魔法だ。
どちらも強力で、よくAランクハンターが使っている。
「……分割払いで重盾と風神の盾をお願いします」
「他にもあるが見ないのか?」
「この2つより性能が良くて安い盾はありますか?」
正直、重盾は性能が高く私の無駄に高い身体能力にマッチしている。
そして『風神の盾』はセット効果がメインとはいえ、汎用性が高い盾だ。この二つで十分だと私は考えている。
「今は無い。在庫が無い盾もあるからな」
「ならこの2つでいいです。手続きお願いします」
書類にサインし手続きが終わった後、もう一度西野さんのいる受付による。
すでに書類が用意されていて、裏事情や不確定な情報まで集められていた。
「へー、盾買ったんですね」
「ええ、少し予算を超えましたがいい装備が手に入りました」
集めた資料を読みながら武器庫での話をする。
盾は鈍器になるので協会に預ける形になる。
何を買ったのか聞かれたので盾を買ったと伝えたのだ。
「この資料の2回の失敗についてなにか知りませんか?」
「よくある事なんだけど、企業が買ったばかりのゲートをろくに確認せずハンターを送ったのよ。しかも、ハンター側は普通のゲートだと思ってその日消費する分の食料しか持って行ってなかったの。結果3日経っても戻らなかった」
資料には2回の失敗と参加したハンターの名前しか載っていなかったが、そんな事情があったのか……。
これを企業の責任にはできない。ゲートでは何が起こるか分からないから、そういった事故もハンターの自己責任になる。
まあ、その分保険が手厚くなっていたりする。
「その次のハンターを送ってブラックゲートだと判明したんだけど、最大で18人のブラックゲートよ。中堅企業でそこそこハンターがいたんだけど、そのトップ層がほとんどゲートの中……他のハンターはこのゲートに挑むつもりはない」
「だから今回の企画で、ゲートの代金を回収しようとしてるんですね」
「ええ。このまま攻略できないとその企業に攻略の権利が無くなるの。ゲートに使った金額をまるまる失うくらいなら、希少な報酬でハンターを呼び寄せてクリアしてもらった方が企業としてはありがたいのよ」
すでに参加を表明していたのは6人で、Aランク2人とBランク4人。私も昨日のうちに申請したから参加申請はできているだろう。
テレビ企画の為にCランクが3人同行するが、彼らはAランクの水嶋さんが護衛するらしい。
「私の申請は通りましたか?」
「はい、問題なく通りました。テレビ企画なので話題性を高める意味でも、Bランクの現役高校生は大きかったようです。高校生からハンターを目指す学生にもいい刺激になればと」
「まあ、私は技能に恵まれただけなんですがね。むしろアンチが湧きそうです」
「その時は経歴を一部協会から発信させていただきます。武蔵ハンターがどれだけ頑張ってきたのか一目でわかりますよ」
それはやめてください、と断りつつ不確定の情報を見る。
18人が最大人数で私含めてすでに10人の参加が決まっている。
テレビ企画にするんだから、企業側もダンジョンの情報を一部持っているはずだ。
ダンジョンの内部から外に情報を発信する魔道具もある。
「Cランクでも危険が少ないのに、Bランクパーティーが全滅する内容……」
ブラックダンジョンの仕様はいろいろだ。
例えば階層ダンジョンであれば階段を探す必要があり、1階層に数日かかるケースもある。
他にも闘技場型であれば、移動はしないが決められた回数戦闘と休憩があり、これも数日かかる事がある。
他にもいろいろな形のダンジョンがあるけど―――
「今回は階層型の迷路か……」
―――魔物は少ないが時間のかかる階層型の迷路ダンジョン。そんな情報が多く集められている。
迷路ダンジョンはいくつもの道があり、どこか1つ正解が存在する。
こういったダンジョンの場合、参加者は分かれて行動する。
ダンジョンアタックの撮影は攻略にも転用できる。
水嶋さんとCランクのスタッフは最初の入り口で待ち、誰かがゴールを見つければよし、見つけなければ残った道にゴールがある。
そうやって攻略を進めるつもりなんだろうと予想する。
ダンジョンの内容が分かれば試合形式も考えられる。
最初にゴールした人からボスに挑む形式で、ゴール後にもチームを組める形だろう。報酬さえ重ならなければその場でチームが組める。
万が一、1人で挑んでも勝利した場合でも、1位以外は攻略中に倒した魔物やドロップ品でポイントを決めれば表向き揉める事は無い。
まあ、そうなったら文句を言う人は出てくるだろうが……。
「ありがとうございます。必要な情報は集まりました」
「うん。頑張ってね」
本編には出てこない予定の要素
ステータス基準
SS 1000以上
S 400~1000未満
A 100~400未満
B 50~100未満
C 40~50未満
D 30~40未満
E 20~30未満
F 10~20未満
G 10未満 (一般人)
鎌狸 (総合評価――Dランク)
攻撃力 40
防御力 20
体力 50
魔力 40
知力 20
技能
【風魔法】 (消費魔力【最大魔力の10分の1まで使用可能】×知力-敵【防御+2分の1攻撃】)
【水魔法】
【忍法】隠れ身の術 (日本特有技能)
【爪とぎ】 (自身の爪による攻撃ダメージ1.5倍)
【犬かき】 (水中で犬かきが上手になる)
【手洗い】 (手を使うと洗い物が上手になる)
武具のランク
SS 硬度1000以上
S 300~1000未満
A 100~300未満
B 70~100未満
C 50~70未満
D 30~50未満
E 10~30未満
F 10未満
Gランクの魔物から武器は落ちません。また、現代の武器は戦車で硬度20となっており、Dランクの魔物の攻撃に耐えられません。
銃の攻撃力は20、戦車は40となり銃はFランクの魔物まで、戦車の砲撃もEランクまでとなります。(魔物の素材を使うと攻撃力も変わる)
アイギス (評価S)
硬度 200 【400】
能力
【絶対防御】 前方に盾を出現させる。これは壊れる事が無い。継続時間5分クールタイム30分
【対魔神】 魔物の能力を1割ダウン (【対魔神】の効果は1つまで)
【不壊の盾】 硬度を倍にする。硬度が1以下にならない
【護神の加護】 硬度が回復する(大)。
対魔の盾(色盾) (評価B)
硬度 70
能力
【対魔――】 ――属性の完全耐性を得る
重盾 (評価A)
硬度 60 【135】
能力
【重盾】 硬度を1.5倍、吹き飛ばし耐性アップ
【不動】 硬度を1.5倍、吹き飛ばし耐性アップ
【耐熱】 熱による耐性を得る
【硬度回復(小)】 硬度が回復する (小)
剣闘士の丸盾 (評価B)
硬度 60
能力
【体力アップ】 使用者の体力を上げる(1.2倍)。
セット効果
2セット 【飛び道具無効】
剣闘士の剣 (評価A)
硬度 120 攻撃240
能力
【攻撃アップ】 1.2倍
【剣闘士の加護】 危機察知能力アップ
セット効果
2セット 【武器破壊(中)】 硬度を本来の1.5倍減らす
風神の盾 (評価A)
硬度 250
能力
【風除け】 飛び道具無効、125以下の魔法無効 継続時間30分クールタイム1時間
【硬度回復(中)】 硬度を回復する
【風神の加護】 風ダメージ1.5倍
セット効果
2セット 【破壊耐性】 硬度の減少が半減
雷神の槍 (評価S)
硬度 250 攻撃375
【雷帝】 雷を纏う。すべての攻撃に雷の属性が追加され、雷攻撃を1.5倍にする。 使用時間1分ごとに体力10失う。
【硬度回復(中)】
【雷神の加護】 雷ダメージ1.5倍
セット効果
2セット 【風雷】 消費魔力20×知能=継続時間 フィールド効果 風、雷のダメージ1.5倍 強風と雷の降るフィールドを作り、ダメージを与える。風ダメージ20+吹き飛ばし 雷ダメージ40