11,校内見学
妹と合流し、一度休憩所で休憩する。
この学校は敷地面積が広く、学校見学に来る学生も毎年多いので休憩所がいろんなところに用意されている。
休憩所ではウォーターサーバーが置いてある。それを片手に休憩する私にトワが心配そうに聞いてくる。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「精神的に疲れた……」
オクサマ達によるマシンガントークに生徒会長の尋問、精神的に疲れた私は休憩所で水を飲む。
これなら普通に事情を伝えて参加すればよかった。
「トワ……私を置いて先に行け」
「それ死亡フラグ立つやつじゃん……」
「いや、最近だと成長フラグだよ。ゲートに10年籠って最強になる系の主人公だよ」
「じゃあ成長して生徒会長に勝ってきて」
「ごめん、それは無理」
むしろ成長最後のラスボスだよ彼女は。
でも、このまま休憩所に居続ける訳にも行かない。
いくら設備が良くても、トワの学校見学が休憩所だけなんてせっかく都会まで来たのに勿体ない。
それに行きたい所を楽しそうに話していた姿を思い出すと、姉として動かないなんてできない。
「よし、休憩終わり。行くよ」
「わーお、空元気だ。本当に精神的に来てるんだね」
「お姉ちゃんの頑張りをもうちょっと評価してくれないかな?」
休憩所を後にした私たちは、まず妹が一番行きたがっていた部活見学をする。
妹は中学でバレーをしていて、その練習風景を見に来たのだ。
お金持ちの学校だと運動部があまり人気でなかったりするが、バレー部はオクサマにも人気でそれなりに力が入っている。
女子バレー部は高身長でモデルのような子が多く、後輩女子に人気である。
体育館に付くと、すでに学校見学の生徒や在学生の女子が練習する生徒に声援を送る。
まるでプロ選手のような熱い声援を受け、選手は練習している。
「うわ、ここで練習するの?」
思わず声に出す私。
人気なのは知っていたが、練習で大会みたいに注目されるのは練習する生徒も緊張するだろう。
「ち、地区大会の決勝とかならこんな感じかな?慣れれば大会でも緊張しなくなるし、いい練習かも?それに、今日は学校見学で人が多いだけかも」
「いや、ほとんどここの生徒だよ。上流階級の子が見に来てる感じ」
「えー、どうしよう。私この学校辞めようかな……」
声援が苦手なトワ。ちなみに私も嫌いだ。
先日のダンジョン攻略前にいたカメコにも、顔を背けちゃったし。
ちなみに私は運動部には入れない。
厳密に言うと入れない訳じゃないんだけど、大会に出られない。技能検査に引っかかるからだ。
技能検査とは、ハンターが使う技能を持っているかの検査で、ハンターは技能で身体能力が上がると分かっている。
昔はハンター全員がスポーツの大会に参加できなかったが、今は技能を持つかどうかで判断されるのだ。
技能を持つハンターの身体能力は高く、そのまま記録を計ると世界記録が常に更新される。
一時はハンターの参加について物議を醸したが、技能検査と技能を完全に消す方法が見つかりこのようになった。
まあつまり、ハンターはスポーツ選手になれないのだ。
「応援しに行くよ」
「もっと受けたくなくなった」
「分かった。一緒に晒し者になる」
「晒し者って言ってんじゃん」
いやだって、あんなの晒し者じゃん。
内部生や一部の上手い生徒なら声援を送ってもらえるけど、外部生で入部した子なんてこの声援の中ボール拾いだよ。
私なら内心泣いてるね。
そんな事を考えていると、先ほどのママさん達の1人が私に気づき近づいてくる。
それに気づいた時、逃げたくなったけど姉としての威厳の為ここは大人の対応を見せよう!
「あら武蔵さん。先ほどはどうも」
「園野宮さんもこちらに見学ですか?」
「ええ、ここは花形ですもの。娘も応援したい先輩がいるとかで……こちらが私の娘の園野宮朔良です」
「園野宮朔良です。あ、あのお姉さまのお名前をお聞きしても」
「わたしは武蔵夏輝、こっちが妹の冬和です。よろしくね」
流石お嬢様。
年上の女性にはお姉さまと呼ぶらしい。
トワもお姉さまと呼んでくれないかな?
そんな事を考えながら妹を見ると、トワがクイクイと袖を引っ張る。
「ごめんね、妹はちょっと人見知りで。園野宮さん、妹が人込みに酔ったみたいで……」
「あら、気付かなくてごめんなさいね。ではごきげんよう」
何か話があるようで、園野宮さんに挨拶をし場を離れる。
「……で、どうしたの?」
「あの目、絶対お姉の事狙ってた」
「どゆこと?」
「なんでもない。いいから次行こ」
「部活もういいの?一番気にしてたじゃん」
やっぱり人に応援されるのが嫌なのかな?プレッシャーに弱いところもあるし。
学校見学で先に知れたのはいい事だけど、これで別の高校を受験すると言われると姉として複雑な気持ちになる。
もちろん、妹が決めた事ならそれが一番だけど、妹との高校生活が……。
「何考えてるか分かるけど、私はここの高校を受験するよ。受かるかは別にして、普通に部活の設備もいいし、女子バレーの強豪だしね」
「でも、身長的にレギュラー狙えないかも」
「そこは技術でカバーする」
かっこいい事を言う妹を応援したくなって、とりあえずトワの好きそうなお菓子をあげる。
あと、応援しに行くって言ったら普通に断られた。……悲しい。
「応援しに来るならせめて、私がレギュラーになってから試合の日だけにして」
「うん、わかった」
「……でも、お姉ちゃんがどうしても応援したいなら私専用のマネージャーになってもいいよ。チアガール衣装で」
「それは遠慮する」
トワを応援したい気持ちはあるが、そのために見世物になる気はない。
まあチア部はあるし入部して妹の応援をしてもいいが、チア部の練習に時間が奪われそうで嫌だ。それなら普通に妹の練習を見に行く。
バレー部の見学を後にした私たちは次に文芸部が披露するスペースに到着した。
妹が目に付けたのは家庭科部の料理コーナーだ。お金持ちの通う学校だけあって素材もよく、それを使った料理はどれも美味しいと評判だ。
あと、女性の手料理を食べられるとあって男子にも人気である。(家庭科部には男子もいます)
「お姉、これおいしい」
「今度作ってあげるわ」
「見て、幻の寿司だよ。流石金持ち学校」
高級料理からバタークッキーお菓子まで、なんでもおいてある家庭科部の料理教室。
これらすべて無料な為、一般生徒はここを目当てに見学に来るらしい。
特に寿司なんかはお金持ちしか食べられないので、見学の付き添いできた家族も並んで食べている。
「今度寿司屋さんに連れて行ってあげるよ」
「うーん、お金払ってまでは行きたくないかな。それよりお姉の手料理食べたい!」
ゲート出現以降、魔物の氾濫で生態系に大きな影響を及ぼした。
特に影響を受けたのが海で、強力な魔物が海に放出された。人間を狙う魔物はハンターによって討伐されるが、海の中で勢力を拡大する魔物をすべて討伐する事はできず……結果海の生態系は大きく変わった。
養殖が成功し食卓に並ぶようになったが、需要に対し供給が足りていない。
また、養殖できない魚は特に高値で高級食材となっている。
妹がバタークッキーを頬張りリスのように膨らませていると、家庭科部の生徒が話しかけてくる。
知らない人だが、制服の色から先輩だと分かった。
「お姉さんも料理をするのかな?よかったら作ってみるかい?」
「え、いいんですか?」
「これもパフォーマンスの一環さ」
「寿司だけに」
「……あーっうん、寿司の話もしてたね」
話しかけてきた先輩がどう反応したらいいか戸惑っている。
彼女の内心を言い表すなら、話しかける方を間違えたと言ったところだろう。
少しボケてみたけど、この空気どうしてくれるんだ。
「お姉ちゃん……」
「ごめんよ妹」
「急に話しかけた私も悪いの……かな?まあ気を取り直して、私は佐藤明日香だ。この家庭科部の前部長で今日は助っ人さ」
「私は武蔵冬和です。こっちは姉の夏輝」
普通、こういう場合って年上の私が言うべきなんだろうけど、妹から無言の圧力が……。
さっきまで和気あいあいとしていたのに、どうしてこうなった?
―――っく、もっと面白い事を言わなければ……。
「手のかかる姉を持つと大変だろう。私も大変だった」
「お姉……何考えてるか分かるけど何も言わないで」
「私の扱いが酷くて悲しい。姉、一巻の終わり」
一環つながりで探してみたけど、自己評価100点中10点。
実際先輩もトワも無視して話しているし。
……もう黙っておこう。
「まあ、話を戻すと完成品を見せるだけじゃつまらないからね。素人でもいいから料理に触れる光景を、つまりどういう部活をしているのか体験してほしいのさ。今のところ食べて帰る見学者しかいなくてね」
「なんで私たちなんですか?」
「普通にビジュがいいし、見学者だと分かる装い。それに美味しく食べる姿が気に入ったからさ」
「……私食べるの専門だから、お姉作って」
さっきまで乗り気だったのに、急にやりたく無いオーラを醸し出すトワ。
―――そういえば昔は料理が下手だったような……。
なるほど、ここは姉として妹の苦手意識を克服せねば!
「私も教えるから作ってみない?」
「トワ、一緒に作ろう。手取り足取り教えるから」
「手取り足取り……うっ」
「今なら高級食材使い放題だよ」
「お願い」
「はあ~……分かったよ」
私のお願いが通じたようで、トワが了承してくれた。
今回作るのはバタークッキー……おい、高級食材はどうした?え、食べるのは自由にどうぞ?……ならいいか。
佐藤さんが材料を用意してくれる。
―――と言う事で、妹とクッキング!
「……妹、それは塩だ」
「なんで塩が置いてるのよ」
「砂糖と間違えるなんてベタな展開だね。塩は無塩バター使ってるから一つまみ入れても美味しいよ。あとチョコクッキー用の生地はもうできてる。溶かしたチョコから作りたいなら言ってね」
「……一つまみね」
「あ、バタークッキーじゃなくてココアとバニラで作るから塩要らないよ。……その生地はバタークッキーにしようね」
「チョコチップ入れても美味しいよね。私はチョコを推す」
「もう!」
「焼くのは私がするね。火傷されても困るし」
それから数分、順番に焼いていき香ばしいクッキーの臭いが広がる。
最初に出来上がったのは妹のバタークッキーで、味見役は私がする事になった。
まずは一口。
素材が良いだけに流石の美味しさ。バターの風味に少し多めの塩も味を邪魔してない。
「……どう?」
「美味しいよ。はい、あ~ん」
「は、恥ずかしいよ」
恥ずかしがりながらも私の指からクッキーを取る。
自分で作っただけに、美味しさもひとしおだろう。……一塩入れたし。
評価点50!
「姉妹のスキンシップを邪魔して悪いんだが、私にもくれるかい?できればあ~んで」
「後で食べてください」
結構作ったんだから、これを全部トワが食べる訳でも無いし。
「そんな殺生な……なんて冗談は置いておいて、結構作ったから余ったのは見学者に出す予定なんだよね。だから一応は検査をしないと。……って事で食べさせて」
「えっ?!……これ出すなんて聞いて無いんだけど!」
「どおりで多いなって思ってた。私たちを客寄せに使ったな?」
「バレたなら仕方ない。これも来年の予算の為、後輩たちの為に先輩としての務めだよ。あとは君たちの手料理を食べたかっただけ」
そう言ってバタークッキーを食べる。
なるほど、女子の手料理を食べたいのは男子だけじゃないらしい。
彼女は妹の手料理を食べたくて誘ったのだろう。
「どうせなら手渡しで食べさせてほしかったけど……、可愛い女の子の手料理は美味しいね」
「むーぅー」
「あはは、ごめんごめん。……ん?お客さんだ」
自分の手料理をあげたくないのか、口いっぱいにクッキーを突っ込むトワ。口の中がいっぱいで佐藤さんを睨む事しかできない。
そんな妹が可愛くて頭を撫でる。
と、そこに新たな乱入者が……。
「こんばんわ。武蔵さん、少しよろしいかしら?」
―――なぜ来た生徒会長!?




