8,予期せぬ遭遇?
妹が選んだ服を着させてもらい、そのまま買って着る事にした。
サイズは来る前に測っておいたし、服は妹に手伝ってもらいきる事にした。初めての事だし、それに体が動くようになったけどまだ違和感が大きいからだ。
たとえば腕や指の長さが短くなっていて前は届いた距離が届かなかったり、身長も低くなり体のバランスが取り難い事もある。
椅子に座ろうとしてお尻をぶつけたなんて失敗もした。
という訳で妹と一緒に試着ルームに入っている。
店員さんに手伝ってもらう方法もあったんだけど、なんか恥ずかしいから妹にお願いした。
「お姉、やっぱでかい」
「ごめん、これも着させて」
妹の手を借り何とか服を試着したんだけど、このまま続くと妹の試着時間が無くなりそうだ。
「胸苦しくない?もっと余裕のあるブラのほうが……」
「ハンター続けるなら動きやすいほうがいいし、ズレないくらいがちょうどいいよ。スポブラもう少し買おうかな?」
「お姉続けるの?」
妹の質問に少し詰まる。
本来の目的は達成したし、盾代も追加報酬で払える。
通帳にもかなりの額が残るし、このままハンターを引退してもいいかもと思っていた。
―――あの話を聞くまでは。
「……続けようと思ってるよ。もう日課みたいなもんだし、それにお姉ちゃんが強いと妹の自慢になるでしょ?兄貴たちより自慢の姉ですって広めていいよ」
「怪我だけはしないでね」
「分かってる」
―――ブラックゲート攻略後、私は桐島ハンターからある話を聞いた。
それはSランクゲートの氾濫についてだ。
私には関係のない話だと思っていた。
でも、1つ望みが叶うと欲が出てしまったのだ。
私は大切な家族を守れるくらいに強くなりたい。
妹の不安そうな顔の頬に指を押し当てる。
するとその指を押し返すように可愛い顔が膨れ、頬に風船ができる。
「姉が心配なのかにゃ?」
「馬鹿姉のアホ」
「可愛い妹め、欲しい物言ってみ」
「物で釣られる歳じゃないし」
と、言いつつも気になってた服を持ってきた妹は試着し始める。
ちなみに話している間に私の今日の服は決まりそれを着ている。
下着は無地の薄いピンクで少しヒラヒラが付いた透けそうな物。
冬なのに足首が少し出るジーンズと、上は白い生地のワイシャツと灰色の上着だ。
残りの服は家で試着するらしい。
……言ってた事と違うじゃん。
呆れつつ、手伝ってもらったので文句は言わない。
「って、私出てくから待ってよ」
「いいよ別に。お姉の裸も見たし、普通に隠せるし」
「……手伝おうか?」
「私は1人で試着できるの」
胸をもまれたお返しをしてやろうと提案したが却下された。
その後、すぐに下着を付けると体を隠すラップタオルを取る。
「じゃーん、どう?」
「いや、なんで見せるの?」
「見せる相手が居なかったから聞けなかったんだよね。お姉ちゃんが居たらって前から思ってたの。それで、どう?」
そう言われると断り難い。
というか、もう見せられてるし。
デザインは私の下着と似ている。色は白でただそれだけ。リボンとか付いてたら可愛く見えるんだけど……。
「……うーん、無地なのがね。なんか大人ぶった子供?私が選んだ下着にしてよ。あの可愛いやつ」
「あれは無理。恥ずかしい」
苺柄のパンツ良いじゃん。
どうも妹は可愛い服に抵抗があるらしい。
嫌いじゃない……と言うか好きなんだけど、身長が平均より高い妹的に合わないと思っているらしい。
ここは姉のとして妹の先人になって可愛い服を着るか……まあ、今は1人で着替えられないんだけど。
「うーん、もうこれにする。お姉お会計するからその服のタグ切ってもらうね」
「あ、はーい」
店員さんにタグを切ってもらい、そのままお会計をした。
服も買い終わり、いい時間になったので食べて帰る事にした。
せっかく都会に来たんだから……ファミレスに入ります。
「いや、なんか場違い過ぎて入るの躊躇っちゃうよ」
「せっかく都会に来たのに」
「受験愛かったらいつでも行けるようになるしいいの。むしろ、追い込みに気合が入る」
「それで体壊さないでね」
まあ、まだ2日あるしカフェも行くからね。
「そう言えば、制服ってあるの?」
「まだ無いよ。と言うより学校に申請しないといけないし、市役所に戸籍の書き換えとかで両親の証明書と血液検査、あと名前の変更手続きもある」
他にもいろいろな変更手続きがあるけど、それは戸籍が用意できてからだ。
「うわ……名前って決まってる?」
「お母さんが決めてくれた。妹が冬和だから私は夏輝だって」
「へー、てっきり子が付く名前だと思ってた。子百合とか昭子とか」
確かにそれだとこーちゃん呼びのままになるけど、私に子は似合わないよ。
ちなみにお母さんに名前を決めてもらったのは、父のセンスをいまいち信じていないからである。小五郎という名前を付けたのは父で、お母さんは反対だったらしいし。
「そっか、夏輝姉かぁ……なっちゃん?」
「好きに呼んで」
「じゃあ夏姉で」
「あ、料理きた。服汚したくないから紙エプロン……手伝って」
「はいはい。まだ慣れない?」
慣れないというか、感覚のズレが戻らない。
意識していると問題ないんだけど、無意識な行動や見えない所がどうなってるか分からない。
紙エプロンが上から通すだけなら問題なかったんだけど、紙紐で結ぶ物だから1人で着れないんだ。
「明日なんだけど―――」
市役所に……そう続けようとした言葉は、店に入ってきた客の声で掻き消える。
「お、空いてんじゃん」
総勢6人の男女、その集団が着る服には見覚えがあった。
―――そう、私立東立岡学園高等科の制服、しかも2年生の色である黄色。
つまり同級生である。
「お姉あれ」
「うんまあ、知ってるけど知らない人」
「まあお姉に気づく事は無いよね」
性別が変わって見た目も大きく違う。
これで気づかれたら逆に怖い。
ちょうど私たちの後ろの席に座った集団は、周りを気にすることなく話始めた。
「うちの学校有名人多すぎな」
「マジそれ。金持ち連中の集まりとかヤバすぎ」
「外部生とか勉強しか取り柄無いのに、勉強もできない俺ら。2学期末何位だった?」
「ぎり50位」
「圏外」
「私も」
「俺23位!」
「は?裏切りもんじゃん」
「ごめん、俺も17位」
「はいグループ解散。……ってか、まじでヤバいんだけど。勉強もヤバいけどこれ見て、武蔵小五郎」
後ろの会話に名前が出てきて心臓がドキリと鳴る。
気付かれないとは分かってるんだけど、クラスでボッチの私が名前を呼ばれるなんてよっぽどの事だ。
「誰?」
「ほら、デカい奴」
「あー、ハンターしてるって言う……あいつハンターする為に中等科からうちに入ったらしいぜ」
「何々……ってBランク!?」
「はあ!?」
「この顔見た事あるわ。ふーん、何してるかわかんない奴だったけど、ハンターしてたんだ」
「いやおまっ……Bランクって分かってる?」
「そういや昔、いつ死ぬかで賭けみたいなの無かった?」
「あー、あった。懐かしー」
「え?俺知らないんだけど。つうか、同じ中等科から入った外部生だろ?そんな賭けの対象にしてやるなよ」
へー、そんな賭けあったんだ。
私も知らなかった。と言うより、あの頃は学校の事よりハンターの事を考えていてあまり記憶に無いんだよね。試験の結果だけは維持してたけど。
あの頃はお金が無くて奨学金が無いとハンター活動続けられなかったし。
「ん?トワどうしたの」
「……何でもない」
「あ、分かった。お姉ちゃんが変な賭けの対象にされて不機嫌になったんだ。可愛いなぁもう」
「もういいから、行こうお姉ちゃん」
会話を聞いて不機嫌になった妹は残っていた料理を口に入れさっさと席を立とうとする。
賭けぐらい普通だと思うのはハンターに毒され過ぎだろうか?
でも、ハンターを娯楽として見ている層は一定数いて、賭けの対象にする所もある。きっと賭けの対象が私じゃなかったら、普通の会話として流していただろう。
「それで彼がどうしたの?」
「テレビに出るんだって。えーっと……ブラックゲートのダンジョンアタックらしい。自分で調べてよ」
「えっ!?死者4人だってヤバいじゃん!誰か武蔵くんに連絡取れない?」
「ムリムリ。あ、誰が死んだかもう出てるって、武蔵くんの名前は無いね」
「テレビ出るなんて知らなかったんだけど。放送日は……今週日曜の特番だって」
「いつクリアできるかわかんないし、特番にしたんでしょ。……って事はもうクリアしてるって事じゃん」
「いや、死者の情報出てるんだからクリアしてるでしょ。つかこれクラスに流す?」
「えー、流してもあいつら視るかな?内部生とか明らかに上流階級じゃん。高校からの外部生は元からいたうちらの事も敵視してるし」
「俺もう流した。違うクラスだし宣伝って事で」
「何が宣伝よ。ただ情報通になりたいだけでしょ」
「景品スゲー。参加賞で3000万のアイテムだぜ」
「で、釣られたハンターが亡くなったと。これ企業側が悪くね?」
「ハンターは自己責任だから。報酬に釣られた時点でハンターが悪い」
「もしかして武蔵くんって金持ち?」
「そりゃBランクのハンターは金持ちになるだろ。アイテム売るだけで3000万も貰えるんだぜ?」
「いや、売値はもっと低いぞ。オークションなら別だけど」
「詳しいじゃん。もしかしてハンター目指しちゃってる系?」
「いいじゃん。俺も目指そう」
「いや、昔ちょっと調べてて知ったんだ。成功しているハンターの利益率とか」
「へー、武蔵くんは成功してる方?」
「成功してないとBランクにもなれないよ」
「じゃあ、こんど武蔵くんにサイン貰おうよ!プレミアついたら―――」
もうダンジョンアタックの情報が流れてるんだと、話を聞きながら驚く。
TSしてからはスマホの情報を見てなかったから知らなかった。
そもそもテレビで放送すると決まった事も驚きである。
てっきり死者も出たしお蔵入りになるのかな?と思っていたから。
調べてみるとどうやらテレビで放送するのは編集された映像らしい。
大人用の完全版は別の販売となっていた。
「ごちそうさま。行くよ」
「えー。ちょっと気になり始めたんだけど」
「書類の準備とか、やる事いっぱいあるでしょ。手伝ってあげるから」
はーい。
・作中に登場予定の無い情報。
ブラックゲートの仕様について
まず、ゲートは出現後に魔力放出がされます。これによってダンジョンのランクは決まります。
ブラックゲートですが、この魔力放出の量よりもランクが強い、あるいは弱いボスが登場します。
ミノタウロスのブラックゲートの場合、Bランクのハンター18人で攻略可能なゲートとなり、これはAランクゲート中位レベルのゲートとなります。氾濫もAランクゲート基準となり、1920日で氾濫が起きます。
逆に弱いダンジョン、例えばCランクと判断されたダンジョンですが、制限が1人の場合Cランクハンター1人で攻略可能なダンジョンとなります。この場合ボスでもDランク以下の魔物となり高くてDランク、低いと数が多いだけのFランクゲート扱いとなります。氾濫の時期もランクで変わり、Fランクなら60日で氾濫します。
そして厄介なのが、Cランク1人で攻略できるFランクのダンジョンだった場合です。作中で氾濫したCランクゲートはこれにあたり、氾濫時期は30日、敵はF以下の魔物ですが数は100000を超える大軍隊となり街を襲いました。
Fランクの魔物は銃でも対処できますがかなりの被害がでたようです。
ここで説明したのはSランクゲートの氾濫時期を考える為です。
法則上Sランクゲートは3940日で氾濫します。10年と190日です。
最初の8つのゲートは氾濫していないのでSランクゲートよりも上という扱いになります。では、倍の7680日だった場合、21年と15日になります。
もしゲートが2000年に登場していた場合2021年1月15日(閏年は考えず)、主人公がゲート攻略に参加した当日氾濫が起きてますね。
つまり2001年に登場したか、SSランクの上であるSSSランクだった場合です。
結論、8つのうち7つは2001年に登場し来年氾濫予定です。
これは未来視などで確定していて、Aランクハンターの一部には知らされている事実となっています。
残り1つは2000年に登場したSSSランクダンジョンで、本当の意味で始まりのダンジョンという扱いで考えています。
SSランクゲートの氾濫日は2022年1月10日予定!




