私の事を誰かに話したら命はないって言ったよね?
「君はクビです、シェーラ」
「──はい?」
私は、自分を呼び出した、上司である黒づくめの男を見た。
「……今、何とおっしゃいましたか?オスターウォルド様」
「ですから、君はクビですと」
「……マジですか?」
「はい」
目の前の男は、ニコニコしながら私に引導を渡す。いいやちょっと待って下さいよ。
「……理由を伺っても?」
私の仕事は世間に堂々と公表出来るものではないが、身分や学歴に関係なく高収入を得られる素敵な仕事だ。多少頭のネジがブッ飛んでいる人間でなければ出来ないけれど。
「前代未聞のドジをやらかしたからですよ」
「……はぁ。……はぁ?」
ドジをやらかした、と言われて私は首を捻る。
うん?この前のターゲットは確実に仕留めた筈だけど。
「これを見てご覧」
上司がバサリ、と机に投げたそれを、私は拾い上げた。
どうやら、尋ね人の一覧の様だ。私の殺り損ねたターゲットでも載っているのかと思いながら視線を走らせると、ターゲット以上に載ってちゃいけない顔が載っていて私の脳は一度思考を停止させた。
「……」
呼吸を整えて、2度見した。
バッチリ載っている。……私の人相書が!!
「ね?これはクビ案件で間違いないよね?」
上司はニコニコとしたまま、顔の前で組んでいた指を離し、顔の横でヒラヒラさせた。
「……今直ぐ、私を掲載した依頼人を殺ってきても─」
「ダメ」
「……ですよねぇ……」
私は心の中で滂沱の涙を流した。
暗殺の素質を見込まれ、身寄りのないところこの目の前の年齢不詳鬼上司に引き取られたのが10歳の時。それから色々教わって5年、実際に仕事をこなすようになって5年。
……折角!折角折角折角!!
やーっと一人前になってきたと誉められた矢先だったのに。
これから沢山仕事して、少しでも恩返しする予定だったのに!!
私達暗殺部隊『シャドウ』はダークヒーローだ。私達のターゲットは、様々な悪事に手を染めていながら、法で裁けない者だけと決まっている。だから、この能力をターゲット以外に使うのは、基本的に御法度だ。
「……ほ、本当にクビですか?私、ここ以外で仕事探せるとは思えないんですけどっ!!」
私が身に付けている知識なんて、如何に人を素早く殺すか位だ。上司にマジで泣き付くと、「護衛業とかあんじゃん」と余計なアドバイスが横から降ってきた。
後輩の癖に生意気だ。私より能力が高いから、余計に腹が立つ。
「フォルトナ」
笑うな!お前っ!!お前が何年も追っかけ回している女に振られたらこっちだって笑ってやるからな!!
「必要であれば、紹介状書きますが」
上司は、あくまで前言撤回はせずにフォローしてくれようとした。
「……ひとまず、いいです」
ひとまず、と付け加えてしまうところに自分の自信の無さが現れている。
「荷造り手伝ってやろーか?」
笑いながらそう言うフォルトナにナイフを投げたが、あっさり躱された。ぐぬぬ。
私達は殆んど荷物なんて持たないから、荷造りなんて10分で終わる。だから、さっさと出て行けと言われたのと同義だ。同僚に対してなんて冷たい奴なんだ!!
「シェーラ」
自分にとって、上司である以上に師匠であり、兄的な存在でもあったオスターウォルド様が真剣な声で呼ぶので、私もおふざけをやめて敬礼した。
「……幸せに、なるんだよ」
「……はい」
オスターウォルド様は、変装の名人だ。『シャドウ』の拠点も、定期的に変わる。だから、クビになったらきっと──もう、会えない。
私ごときひよっこが、オスターウォルド様に目を掛けて頂いた事こそがラッキーだったんだ。そう思おうとしても、居場所を失った私は荷造りをしながら涙が滲んで来るのを抑えられなかった。
***
「……どこのどいつだ……!!」
クビになった元凶である奴を殺せはしなくとも、一言文句を言ってやらねば気が済まないと考えた私は、翌日尋ね人を掲載した依頼人の屋敷に忍び込んでいた。
それにしても、警備薄。
何なんだ、この忍び込んで下さい、襲って下さいと言わんばかりの警備の緩さは。他人事なのに、心配になってくる。
「……っと」
ひょいっとバルコニーに入り込み、目的の人物を探す。
私をクビに追いやった人物の名前は、イシュト。
名前に全く覚えはない。そいつは何で私の事を知っているんだ?とにかく少し脅して、あの人相書を取り下げて貰えば……仕事復帰、出来ないかな?……出来ないだろうなぁ、やっぱ。
少しメソメソしながら、慎重に狙いの部屋の前までやってきた。
この屋敷の見取り図は既に頭に入っている。絶対に殺さないから、というのを条件に、フォルトナ経由で情報を入手した。
あいつ相手に貸しを作ってしまったようで腹が立つ。フォルトナの意中の相手の好きな物を何か一つ見つけて来いって言われたけど、職場を去る同僚への配慮とかは皆無なのか、奴は!!餞別という言葉を知らないのか、奴は!!
──ともかく、私はするりと鍵すらかかっていない部屋に侵入した。
部屋のベッドの上で、分厚い本をペラリと捲る男の首にナイフを突き付け、低い声で声をかける。
「……お前、私に何か用があるのか」
ナイフは突き付けたけど、当然殺すつもりはなかった。オスターウォルド様に逆らっても良い事はないし。でも、こいつのせいでクビになった事は現実だし、少し位脅したって良いだろ、という気分だった。
なのにだ。
「……シェーラさん!?」
男はナイフなんてない物だとばかりに、何も気にせずこちらをぐいん!と振り返って見る。私は慌てた。
ちょ!!ナイフ当たるじゃん!!間違えてサクっと殺ったら私が怒られるじゃんっっ!!
冷や汗をかきながら、慌ててナイフを下げる私。
オカシイナ、昨日まで確かにあの悪党どもから恐れられる『シャドウ』の一員だった筈なのにナー?
こちらを振り向いた顔はこの世のものとは思えない程……というのは言い過ぎだけど、何と言うか……美人だった。性別を超えた美しさ、みたいな感じで、世に言う美少年とか美青年とかって感じ。
その顔に傷なんてつけようものなら、世の中の女性やら下手したら神様からも恨まれそう!!……ってな訳で私はナイフを下げたのに、空気を読まないその(多分)男は私の両手をぎゅっと握りしめて「……お会いしたかったです……!!」と神に祈りでも捧げるかのように、頭を下げる。
「……はぁ?」
いやもう、こっちはポカーンだ。
こんな美人に会った事あったっけな?いや、ないよなぁ。会ったら流石に覚えているだろうし。私より若い……とは言え、大差ない年頃の男をまじまじと見る。
「……そうだ、こちらシェーラさんのお忘れものです。お返し致します」
男はばっと身を翻してベッドからおり、宝石箱の様な箱の中から黒地の布を取り出した。
「……あ」
それを見た時、私は5年前の初仕事を思い出した──
***
「シェーラ、次は初めて単独のお仕事ですよ」
「おおー!これでやっと一人前って訳ですね!」
「一人でも出来る位の簡単な仕事ってだけだろ」
何だとう!?
ジロリと当時16歳の私は茶々を入れてくるフォルトナを睨んだ。
まだこの頃のフォルトナは15歳で、先輩に対する口のききかたを学んでいない奴だった。……今も学んでないか。
人捜しをする為にオスターウォルド様にスカウトされて付いてきたらしいけど、入隊してから直ぐに仕事を任される能力の高さも、私の癪に障る奴だった。
「そんな事言ってると、フォルトナの人捜しなんて手伝ってやらな──」
「はい、そこまで」
オスターウォルド様が冷気を放ってきたので、私達は口を閉じる。
「今回のターゲットは、侯爵家の男色家です。お金に困っている未成年の平民を雇い入れては、手を出していたらしいのですが……とうとう、とある伯爵家を陥れて破産させ、援助を条件にその息子を養子に要求してきたそうです」
「はい」
「その侯爵家の男が息子さんを性的に可愛がる目的だとは知らずに書面を交わしてしまい、私達が全体像を把握した時にはもう遅く、まだ13歳のその息子さんがその男に迎え入れられてしまったらしいので……今日にでも、殺ってきて下さい」
「はい」
私はオスターウォルド様の命で、その晩侯爵家に忍び込んだ。
忍び込んだ先で、豚みたいな体型の男に、髪の短い美少女がカタカタ震える手にペーパーナイフらしい物を向けていた。
「ほらほら、親子の絆を深めましょうねぇ……?危ないものは捨てて、こちらにおいでぇ」
ぐひひ、と涎を垂らしながらその美少女に近づく豚さんの口元を背後から抑え、「ごめんね~、ちょっと目を瞑っててくれる?」と私は美少女に声を掛ける。
豚さんはふごふご何か言おうとしていたが、美少女は急に現れた私に驚きながらも瞳をぎゅっと瞑ってくれたので、私は一気に喉元を横にナイフで裂いた。
崩れる豚さんを転がし、自分の顔を隠していた黒い布地でそっと美少女の瞳の上から被せる。
「見てて気持ち良いものじゃないからね、しばらく目は開けちゃ駄目だよ?私が逃げたら悲鳴上げて、屋敷の人を呼んでね」
美少女がこくりと頷いたので、私は窓枠に足を引っ掛けた。
話はついているから、問題ない。
美少女が咎められることはない筈だが、素直に頷く彼女には手間が掛からず、好感が持てた。
……暗殺者にそう言われれば、頷く他ないのだが。
「あのっ……!!」
ん?女性にしては太い声が後ろからして、私は振り向く。
バッチリ美少女と目が合う。
……あれ?何で目隠し取ってるのさ?というか、完全に私の顔、見ちゃってますね!?
私は半眼になって考えた。
どうする?顔を見られたから……殺す?
いや、ターゲット以外は殺したら絶対怒られる。
顔を見られても、多分……怒られる。
「あ、あの、お名前を……!!お名前を、教えて下さい……っっ!」
くわっ!と目を見開き、私は美少女に告げた。
「私の事を誰かに話したら命はないからね」
「はい、勿論……っ!」
「じゃ」
「あの、お名前を……!!」
何故か、私は答えた。多分、二度と彼女と会う事はないと思ったから。
人殺しだし、暗殺者だけど──誰かのヒーローとして、存在を残したかったのかもしれない。
「シェーラ」
一言だけ伝えて。ヒーローっぽく、格好良く。私は窓から外に躍り出た。
***
「……もしかして、あの時の美少女……?」
私は、目の前の性別不明な推定男を指さした。
男色家だと聞いていたのに、寝室にいたのが美少女だったから不思議だと思っていたけど……成る程、男だったのか。謎が解けて少しすっきり。次の日には忘れてた謎だったけど。
「イシュトと申します、以後お見知りおきを」
と男は綺麗な所作で、私の手を取り甲にキスを落としたが……私はぶすくれる。
恩を仇で返しやがって、このヤロウ。
「……私の事を誰かに話したら命はないって言ったよね?」
何で、よりによって全国紙で呼び掛けるのさ!!
お陰で私はクビだ、クビ!!
結構殺気立って言ったのに、イシュトさんはふわり、と美しく笑う。
「はい。あの時から私の命は、貴女のものですから」
「そうじゃなくてーっ!」
駄目だ。どうやら私は、イシュトさんのヒーローポジ獲得に成功し過ぎてしまったらしい。
「私さ、貴方のせいで暗殺業クビなんだけど!?」
私がそう言って初めて、イシュトさんはその綺麗な眉を下げる。
「それは……申し訳ない事を致しました」
「どうしてくれるのよ」
本当に、どうしてくれるんだ。あそこしか、私の居場所はないのに。
「では……私と結婚するのは如何でしょうか?」
「……はぁ?」
「私と結婚して頂けたら、この屋敷で衣食住をご提供させて頂きます」
何なんだ、この男。いきなり自分を売り込んできた。
しかし……結婚は置いといて、イシュトさんに雇って貰うのは悪くない気がする。ヤバかったら逃げれば良いし。
「……じゃあ、結婚はともかく責任取って雇って下さい」
「承知致しました、シェーラさん。最高の部屋をご用意致します」
イシュトさんは宿屋に置いていた鞄ひとつを取りに行った私にそのまま付き添い、今度は玄関から馬車で入った私にご機嫌な笑顔で「これからはここが貴女の家ですよ」と言った。
***
イシュトさんは結局、あの事件の後自分の実家である伯爵家を復興させたらしい。
まず、豚さんの名目上の嫁さんである侯爵夫人と、侯爵家の財産を折半し、お互いに干渉しない事を約束した。侯爵夫人は自分の恋人と避暑地で優雅に暮らしているらしく、それ以来会っていないらしい。そしてイシュトさんは、元々侯爵が行っていた商売を飛躍的に発展させつつ、実家の伯爵家の財政を建て直した。
そして今では、侯爵家は豚さんの親戚に跡を継がせ、自分は伯爵家に戻ってきたのだという。
イシュトさんが抜けた今となっては、侯爵家の財政は一気に右肩下がりになり、伯爵家は一気に右肩上がりになったらしいが。
「さて、シェーラさんに頼みたいお仕事ですが……」
「得意な仕事は暗殺です!」
元気に手を挙げてアピールしたが、イシュトさんは華麗にスルーしやがった。
「女避けです」
「うん?」
「ですから、先程結婚して下さいと言ったじゃないですか。私はこの通り、男女関係なく言い寄ってくる輩が多くて辟易する容姿ですので」
「あー、まぁ綺麗ですよね」
私が頷きながら相槌を打つと、イシュトさんはぴたりと紅茶に伸ばした手を止めて私を見た。……え?何?綺麗って地雷だった?
「……シェーラさんから見ても、私は魅力的ですか?」
「まぁ、はい」
正直羨ましいとは思う。
ただ、なりたいかと言われればNOだ。可愛いね!と市場のおじちゃんにオマケして貰える位の今の容姿が私には合ってるんじゃないだろうか。こんな目立つ顔してたら、暗殺業に差し障りが出そう……って、もう『シャドウ』じゃないんだっけ……
私が遠い目をしても、会話は続く。
「シェーラさんにそう感じて頂けるなら、まぁ良かったと思う事にします」
「はぁ」
「私が死んだら財産は全てシェーラさんに差し上げますから、私と結婚して下さい」
「えーと、結婚しなきゃだめ?」
恋人のふりとかさぁ。
「残念ながら、恋人というだけでは無理ですね。セフレでも良いから、という女性が後を絶たないので……」
「成る程ねぇ。でも何で私なんですか?イシュトさんと同じ位美人な人の方が適任なんじゃないですか?」
相手が格上だと思えば、諦めるだろうし。ハッキリ言おう、私よりイシュトさんのが断然美人だ。
「それでも諦めない者がどうするかと言いますと、相手の女性をレイプさせたり麻薬漬けで廃人にしたり殺したり……」
「はい、わかりました!私が適任そうですね!!」
男女の恋愛って怖ー!!恋は盲目っ!!
「じゃあさ、お互いに本当に好きな相手が出来たらどうします?」
一応聞いてみる。私にだって盲目の時期が来るとも限らないしっ!!
「その時は……話し合いですかね」
イシュトさんは笑って言ったけど。その時、たまーに上司から発される冷気を感じて、思わずキョロキョロしてしまった。
……ん?この冷気はイシュトさんから?……何でお怒りに??
***
そんな訳で、孤児で暗殺者だった私は気付けばどっかの子爵と養子縁組されて、そのままイシュトさんの婚約者になっていた。
イシュトさん、仕事早いっす。
そしてイシュトさんに連れられ参加したパーティーでは知らない人から刺されそうになり、狩猟大会では矢が向かってきて、結婚式の食事には毒が混入されていた。
それぞれ捕まった犯人が別なんだから、もう笑うしかない。
イシュトさんの心配を冗談半分で聞いていた私は、流石にこれはヤバいと思い直し、いつかイシュトさんの本物の想い人が来た時には万全な警護警備体制で安心安全をお届けしようと、その辺徹底的に口出しさせて貰った。
従業員も徹底的にチェック……した結果、イシュトさんに邪な想いを募らせていたメイド3名、従業員1名を発見、執事に報告だけして後は任せた。
イシュトさんの物は全て個数まで管理されているらしいけど、流石に落ちた髪の毛やゴミ箱の中身までは管理出来ないもんね。それらをかき集めて大切に保管してくれたんで、証拠もあって良かったです。
良くないのは、気持ちを胸に秘めたままの人だ。やたら好意的な人とやたら敵意剥き出しの人はマークしやすいけど普通に接されると本当にわからない。
「まぁ、外見で判断する人間であれば、私が年老いたら見向きもしなくなりますよ」
キラキラと眩しい笑顔をさせながら、私の旦那様になったイシュトは笑う。
「さぁシェーラ、今夜も沢山乱れて下さいね」
結婚してから、さん付けはやめましょうと言われてお互いに名前を呼び合う仲になっていた。ふとフォルトナを思い出して「何だか仕事仲間って感じがして良いな!」と喜んだらイシュトは頭を抱えていた。
商売をしているイシュトからすれば仕事仲間は呼び捨てにはしないか!と気付いて、謝っといた。
「イシュトは毎日元気だなぁ」
女避けの為の夫婦とは言え、仲良くしてないと変に思われますよね?と言われて私達は結婚してから毎晩抱き合う仲だ。
あの豚に襲われてから、イシュトは人と触れあうのが苦手になってしまったという事で、「どうか心のケアもして頂けないでしょうか?」と頼まれたのがきっかけだけど、本当に愛する人が出来た時にイシュトが困るのも可哀想だと思ったのと、自分にしか出来ないと言われて嬉しくなってしまったのが大きい。
私は男性経験がなかったから、初めての相手がこんだけイケメンならラッキーという打算も多分にあったが、初めは痛いだけだった営みは、日を追う毎に快感に塗り潰されていった。
まるで麻薬の様に、何だかんだでやめられなくなるのだと初めて知った。不思議とイシュト以外に触れられるのは、仮に手の甲へのキスであっても何となく嫌な気がするから、イシュトが言うように相性が良かったのかもしれない。
「けど、私が孕んだらどうする気なんです?」
以前は避妊薬を飲んでいたけど、それを知ったイシュトが「身体に良くないとききましたので」と言うので不安になり、以来飲むのをやめた。
危険日は駄目だと言っても、むしろそれを伝えると嬉々として私の上に乗っかってくるから、もう諦めた。
「いつも言ってますが、早く孕ませたいと思っています」
「イシュトは子供好きなんだっけ」
「大好きですよ。シェーラとの子供なら、早く欲しいです」
──貴族は跡継ぎ問題があって大変だなぁ、なんて思っていたのは、ずっと前のこと。
私がイシュトの子供を授かり、生んだ頃には。
「私のシェーラ、好きです、愛しています……」
「私も、好き」
お互いが、特別な相手になっていた。
そしてたまに遊びに来るオスターウォルド様が、実はイシュトの知り合いだったと聞いて驚いたのはつい最近のこと。
「シェーラが幸せそうで、何よりです」
そう言われて、すっかり忘れ去っていた謎をふと思い出した。
尋ね人に掲載されていた私の人相書が、イシュトと出会った頃ではないものだったという事を。
「……もしかして、私の事イシュトに教えたのって……オスターウォルド様だったりします?」
年齢不詳の元鬼上司とイシュトに私がそう尋ねると、二人は「今更気付いたのか」と笑ったのだった。
数ある作品の中から発掘&お読み頂き、ありがとうございました。