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私って、

「私の方だよ」


ぼそっとつぶやいたその言葉。

またSNSのTLを滑り落ちて消える。


「僕はクラスであったイジメをイジりだと思って見過ごしてしまいました。」


ただ、イジメられていたのは、アイリさんではなく、別の人でした。実際、見えない場所でどんなことが行われていたのかまでは分かりません。が、僕の目に入る限りでは、アイリさんはイジメられてはいなくて、イジメている側でした。


セイヤ君の言葉。私が聞く限り、セイヤ君は自分が知れる限りの、嘘偽りない事実を言った。


その言葉を聞くと、玄関のママは表のインターフォンのところまで歩いてきた。


ツカツカと真っ直ぐ。


セイヤ君の目を見て。


その向かい合ったところから、彼の頬を思いっきり平手打ちした。


「恥を知りなさい!!!」


セイヤ君の顔が情けなく、横っ面に飛んだ。


ママはその様子から、一瞥いちべつも目を離さない。


「娘は被害者です!」


あーだからヤだったんだよ、家に戻ってくるの。


「被害者でなければ、なぜ娘は帰ってこないのですか!娘は学校でイジメられていたに決まってます!事実を事実だと認めずに、あれはイジメじゃなくてイジりだったとか、からかいの範疇でしたとか、ましてや娘がイジメる側だったとか、嘘をつくのも大概にしなさい!言葉は正確に使いなさい!恥ずかしくないんですか!それどころか、そういった言動を通して、娘を失った被害者でもある私を、二次被害に合わせて・・・・一体、何が楽しいんですか・・・・・・・・・・」


ママはその場でへたり込んで泣き崩れた。


「あなたたちが『別の人』という言い方をしている、サクラちゃんだって、アイリとは幼馴染の親友だったんですよ。保育園の頃から一緒に手を繋いでました。小学校も中学校も一緒で、受験勉強も二人でして、おんなじ高校に進学しました!そんな親友のサクラちゃんのことを、アイリがイジメるわけないじゃないですか!イジメていたように見える言動があったとしても、それは見かけに過ぎなかったはずです!どうせアイリに同調圧力をかけて脅して、アイリをしたくもないイジメに加担させたに決まっています!アイリだって被害者です!」


それをいったら、一体誰がサクラのことをイジメたがってたんだろうね。みんな主語のない同調圧力とやらに支配されてただけじゃない?

だったらみんな同罪じゃん。


つまり、私がイジメてたんだよ。

ずっと一緒だったサクラを裏切ってさ。



ママの泣き叫ぶ声が住宅地に木霊こだまする。


アイリを返して〜!

アイリを返して〜!



「かわいい女の子とショッピングモールですれ違うたび、運命の人だと思うコンテンツ早く終わってくんねえかな。虚無しか生産してねえよ。」


と、不意にTLに飛び込んできたネタツイに思わず吹き出してしまった。

震える膝をずっと抱きしめながら。


「帰ってください!もうあなたたちの話なんて聞きたくありません!」

ママは地面に突っ伏して、近隣住民の目なんて、お構いなしに泣き続けている。



すいません、失礼させていただきます。


セイヤ君は、軽く会釈を残して去ろうとした。

それに私もついていく。


垣根の陰から立ち上がって。ママのことを見下みおろしながら。


ママは私のことには気が付かない。

結局ここにきても、なんにもならなかった。


住宅地の道はいくつもの道と交差しながら、真っ直ぐに続いている。

たまに電信柱が立っている。

それらを追い越して行く道の最中、


前をいくセイヤ君のあゆみが、突然止まった。


行き先の電信柱の影に誰かが立っていたのだ。


その人影の正体は、

「サクラ・・・」

思わずつぶやいてしまった。


「ああ、セイヤ君おはよう。」

こんなところで奇遇だね。

茶番、ご苦労様。


サクラは、私のことなんて全くお構いなしに、セイヤ君に話しかけた。


まるで私の存在には気がついていないみたいに。


「サクラちゃん。ひょっとして今の聞いてたの?」


「『親友のサクラちゃんのことをアイリがイジメるわけないじゃないですか』ってヤツこと?」

まあ、保育園の頃から一緒だからね。私の家も近所なんだ。


「まあ、確かにアイリは私のことイジメていないよ。アイリが私にしたことは、それこそイジりの範疇に入るんじゃないかなあ。」

サクラは皮肉そうな、蔑んだ笑みを浮かべた。


「だけど、それ以外の奴らがさあ、クラスメイトの見えないところで、私のことイジメてたのは事実。それは一緒になってイジってたアイリも知っていた。だけどそれを目撃しても、いつもアイリはいないフリしてた。」

だから本当にいなくなっちゃったんじゃないかなあ。


サクラは相変わらず私のことは無視し続けている。

サクラの言葉は私を責めるように。

それからも延々と続いた。


「親友がいなくなって寂しい。」

「まあ、私から親友がいなくなったのは、アイツが私を見捨てた時からだけどね。」

「アイツが行方不明になる前」

「ほんと、いなくなってくれてよかった。」

「アイツがいなくなってくれたおかげで、私へのいじめはおさまったから。」

「不思議、いなくなってくれた方が、私の助けになるんだね。」

「まあ、アイリより、親友がいなくなった方が寂しいけどね。」

「でもアイリは良い奴だった。」

「善人だったから。私がイジメらてれるのを無視したんだ。」

「善人の沈黙ってヤツだね。でも、大人しくしてるのは、善人の美徳の一つでもあると思わない?」

「自分がイジメれらるのが怖いから黙ってたんだ。そこは私をイジメてた他の奴らも自分がイジメられるのを恐れていた。」

「イジメられたくないから、他の人をイジメるってなんなの?」

「でも、アイリ本当にいなくなっちゃったよ。」

「ねえ、私どうしたらいいの?」

「アイリはどうすれば戻ってくるの?」

「いなくなって、もう半年も経ってるんだよ。」

「教えて。」

「たった一人の親友だったんだよ。」

「いなくなっちゃった。」

「本当に・・・・いなくなっちゃった・・・・・」



もういい加減、私は認めざるをえなかった。


アイリは私のことを無視しているんじゃない。

本当に私のことが見えていないんだ。



(ああ、私って、)



もう、死んでるんだ・・・・・・・


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