【Ante Logos】
森の中にある洞窟にホモ・サピエンスの群れが戻ってくる。
トボトボと歩く彼らの身体にはそこかしこに傷跡が残っている。彼らは誤って“何者か”の縄張りへと侵入し、こっぴどく追い返されたあとだった。彼らが初めて遭遇した“何者か”は彼らと似た容姿をしていたが、彼らよりも背が高く、筋骨隆々としており、髪は明るく、肌は白かった。“何者か”は彼らと同様に毛皮を纏っており、彼らは見たことのない、先端に鋭い石を括りつけた武器を持っていた。
群れのリーダーは溜息交じりに群れの中心に灯る焚火を眺める。
彼は自分の判断で群れの仲間たちを傷つけさせてしまったことを悔やみ、また遭遇した“何者か”の縄張りに侵入し触発させてしまったことを反省しているようだった。
ユラユラと色や形を変える炎を見つめるリーダーの下に仲間たちが集まり、慰めるよう微笑みかけ、肩を撫で、背中を擦る。
やがて、群れの1人が声を上げ、それに共鳴するように仲間たちも声を上げる。
自然と群れの仲間たちは踊り出し、声を合わせて一定のメロディーを紡ぐ。
互いの感情を共有するように、互いの思いを溶け合わせるように、ホモ・サピエンスの宴は続く。
その中心で、群れのリーダーは仲間達とより互いの事を理解し合いたいと、切に願ったのだった。
その時、洞窟の外で枝が折れる音が聞こえる。
騒がしかった洞窟内にピシリと緊張感が駆け巡る。
群れのリーダーはゆっくりと立ち上がると、木製の槍を構えて暗がりの広がる洞窟の外へと踏み出す。
そこには、昼に遭遇した“何者か”と思われる1人の少女の姿があった。少女は寒さのせいか、はたまた怯えているのか、ブルブルとその身体を震わせていた。
洞窟内にいた仲間達が一斉に唸り声を上げ、槍を少女に向けて構える。
そんな仲間をリーダーは振り返ってたしなめると、ジッとその少女を観察する。
夜の森で迷い、火の明かりに引き寄せられた哀れな少女は、己の無力を晒すかのように震え、血の気の引いた顔は自らに迫る運命を感じた恐怖の色に染まっている。
しばしの沈黙の後、リーダーは少女から目を逸らして受け入れるように身を翻す。リーダーの決定を仲間達も受け入れるしかない。
こうしてネアンデルタール人の少女はホモ・サピエンスの群れに受け入れられたのだった。
そんな光景を遥か天上で何者かが眺めている。