透き通る亜人
今回少々、センシティブなシーンが多くなっております。
苦手な方は、読み飛ばしてください。
空中に放り出されたアリスは、黒鍵からの風噴射で体制を整えて着地。
魔物の数はどこからともなく増え続けるものの、アリスに襲いかかるのは素手で対処出来る数。
山野の砲撃が数を減らし、突撃組が楽を出来ているのだ。
何体か蹴散らしてから、アリスは辺りを見渡す。
転移の目印にした筈の強大な魔力の持ち主が、姿を表さないのだ。
「マスターの、勘違い…………?」
そんな訳はないと思いながらも、思わず呟く。
呟かずには居られないほど、強い相手がいないのだ。
そう思い込んでいるアリスの前方、背後、そして足元にて、蠢く一つの生物。
それは静かに、魔の手を伸ばしていた。
「――――――っ!」
「なにっ?!」
伸ばされた半透明の手は、その気配に気づいたアリスの一蹴りで弾け飛んだ。
それと同時に、驚いた男の声が響く。
「誰ですか、姿を現しなさい!」
「…………失礼。これは、少し見くびっていましたかね」
地面から半透明の液体が続々と集まり、人の形を。
表面は色づき、質感を変え、服を作り出した。
それはリーンの制作した人造生物であり、魔物と人の掛け合わせ生物。
そう、亜人だ。
「ワタクシ、スライムの亜人であるアールト・リーンでございます―――以後、お見知りおきを」
亜人という言葉に驚いて、ほんの一瞬集中を怠った。
その瞬間―――それは遅いかかかった。
一瞬で背後より距離を詰め、首に触れ、肌をなぞる様に口元へ。
一部は口から侵入して、他はアリスの体を雁字搦めに。
水分と魔力によって滑りけを持たされたその体には、見た目に反してアリスが振り解けない程の怪力を。
「んっ…………っあ……」
声を漏らしながらもがくが、やはり振り解けず。
スライムで出来た触手は、アリスの腕や足、首や股関節など、全身を隈なく締め上げている。
「どうでしょう、ワタクシの分離体による締め心地は?」
自ら口に触手を突っ込み、喋れる筈のないアリスへと問を投げかける。
「事前に貴女のお話は聞きました。機械に人と変わりないような体を与え、そして、生殖が必要ないにも関わらず生殖器官まで―――しかも、ちゃんと機能している。彼は、とてつもない変態ですね」
「あっ………いや………んっ!」
「嫌と、嫌と! あの可憐な戦乙女が涙を浮かべ嫌と! 普段の凛とし姿からは想像できない様な甘い声を! なんとも心地よい! ワタクシスライムとなってよかった! 本っ当に幸せだあ!」
敢えて口から触手を引き抜き、言葉を漏らさせる。
アリスの脳は、未知に支配されていた。
この男、今まで相手したことないタイプの、変態なのだ。
抜かれたスライム触手と口が、触手から分泌される粘液で繋がっている。
未知の感覚を刺激され、顔を紅潮させ、目の端には涙を浮かばせて。
戦場らしからぬ痴態を晒しながらも、なんとか逃れる手を模索する。
「んっ…………黒鍵、解放!」
風を吹き出す。
しかしスライムの一部が弾け飛んだのみで、拘束が緩むことはない。
冷たい触手は服の隅から侵入して、鎧裸そ隙間も楽々突破。
服を着せたまま、服など存在しないと同等にアリスを扱う。
「っ――――――この、変態」
「紳士と、つけてください」
「…………んっ!」
苦し紛れに吐いた罵倒。
それを聞いたアールトは、何か腹が立ったのか、一度アリスに強い刺激を。
それに思わず声を上げて、一瞬体が強張った後に力が抜ける。
頬を撫でるスライム触手は、ぬちゃぬちゃと音を立て、煌めいている。
「んー機械の絶頂も悪くない」
アリスは息を荒げて口の端から粘液を垂らしながらもアールトを睨みつけるが、その視線にアールトは興奮して震え上がっている様子。
スライムはレーザーで切り裂けず、体に力は入らない。
策を練ろうにも、体を刺激され続けて細かい事を考えられない。
だから、強硬手段のみが残された。
とうに解放した黒鍵に意識を集中―――普段は発さない程風を溜め、放った。
「は、何ですかそれは。無駄な足掻きですね」
「っ…………」
放たれたのは、小刻みの風。
この力強いスライム触手からは、決して抜け出せない威力だ。
「諦めなさい。強がる乙女は好きですが、醜く足掻き続けるのは好みではない。いい加減…………」
「………紳士ならば、お黙りくださいっ!」
未だ力は籠っていないも、闘志が籠り切った声でハッキリと、アリスが言った。
瞬間―――何度も小刻みに風を放ち、温まり、完全に稼働し切った黒鍵から全力の風を放った。
「な……なんですと…………?!」
完全にスライム触手を振り払い、アリスは飛び出した。
未だ赤らめた顔で触手を見下ろし、体の関節節々が異常なく動くことを簡単に確認。
落ち着かない呼吸を何とか鎮めてから着地。
自分を追ってくるアールトを確認して、即逃げ出した。
アールトは自身の足をスライム状にして、それを回転させる独特の移動法。
「待ちなさい! その様な姿で、素晴らしい!」
アールトの言葉には耳を貸さずに、アリスは空中で確認した位置へと向かい全力で駆け抜ける。
「アルス様!」
「なっ、アリス様! 何ですか、その濡れ濡れヌメヌメな!」
空中で見つけたのは、既に自分を襲った亜人を討伐したアルス。
アルスの持つ魔月ならば、あのスライムも斬れると思ったのだ。
「どうしたんですかアリス様! まさか敵に?! 羨ま……いえ、羨ましい!」
本音を押さえ込もうとして、ちゃんと漏らすアルス。
顔は一瞬でアリスよりも赤潮し、息も荒げ、目は血走っている。
「いいなあ! いいなあ! 私もやりたい!」
「後でいくらでも。今はあの男を、お願いします!」
「言質、取りましたよ!」
アルスは魔月を振るった。
防御に回されたスライム触手を全て両断し、断面はくっつかない。
アリスの攻撃で弾けた部分の様に動き出すことはなく、完全に動きを停止している。
「あんな事やそんな事を、許しませんっ!」
アルスの刃物を扱う腕は、既にレイを超えていた。
アールトの首を狙う体制から、足元から襲いかかる触手を切断。
そのまま体を回転させて、アールトの胸を一突き。
人間ならば心臓がある位置に、スライムの一定に留まらない体を操る魔力の核が。
魔月を引き抜いた瞬間、体がただの粘液となり、色も全て透明に。
地面へと零れ落ちた。
「さて、お楽しみの――――――」
「アルス様、後ろです!」
油断し切ったアルスの背後より、アリスを襲ったスライムの分離体が。
アリスはここ最近使っていなかった羽より炎の槍を出して、投擲。
スライムの体内に侵入して爆発し、体が飛び散るも、少しずつ集合する。
しかし、そこは集まり切る寸前にアルスが一撃。
ようやく、アールトは活動を完全停止した。
アリスは安心―――魔月が無ければ、ヴァイオレットも苦戦する、厄介な敵であった。
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