開戦の砲号
開幕
レイはこの日、全てを予期していた様に鍛錬を終えた。
少しずつ時間を少なくして、今日がベストコンディションになる様に完璧な調整をした上でだ。
ヴァイオレットの様に魔法で知ったわけではなく、多くのデータを集めた上での予想でもなく。
ただ、今日が運命の日だと予感していたのだ。
「マスターの勘は、よく当たりますね」
「それが売りだからね」
過去にも見た光景―――魔物の海、揺れる大地。
今回、レイ達側の戦力は多くない。
レイ、アリス、アルス、ヴァイオレット、山野。
ロッソにも参加を頼んだが、彼は既に前線を退いた身であり、体力は人並み。
この広大な大地を駆け回りながら敵を倒す術はない。
冒険者達は、この街にいる者の多くがあの戦争を経験し、もう二度と戦いたがらない。
代わりに、街の住民の避難誘導を冒険者ギルド総出で進めている。
「ヤマ君、死ぬ覚悟は?」
「ニーライナ様と、とうに済ませてますよ」
もう、小さな部屋で一人漫画を読み、それに憧れていただけの山野は居ない。
一人の戦士として、自身が命を投じる覚悟をしてきている。
「それじゃあ山野君、後ろ任せたよ」
「はい!」
ヴァイオレットの言葉に山野が応えると、四人は歩き出す。
山野から少し離れると、レイが小さく呟いた。
遠くに集まる、魔物群を見据えて。
「解移散」
瞬間、四人それぞれが別の位置へと転移した。
それぞれ別の場所に位置する、五つの強力な魔力に向かって。
それを確認次第、山野も魔法発動の準備を開始。
小さく祈って、魔力を操る。
「ニーライナ様―――いただいた力、使わせていただきます」
いただいた力、それは、ニーライナの魔法に由来する。
魔法の譲渡―――自身の持つ知識、技術を、魔法に乗せて他人に譲渡する。
その魔法は代々ドワーフの一族に受け継がれており、そして歴史上初めて、ただの人間に受け継がれたのだ。
知識の中には、ドワーフの工芸技術などに加え、門外不出とされていた秘術まで。
その中には、ニーライナが長年誰にも言わなかった魔道具の作り方から、その真の力までもが。
それを今、山野は惜しみなく解放しせんと言うのだ。
「解錠―――燕八式」
突然、山野の背後に巨大な砲が現れる。
一つ二つではない、魔物を迎え撃つ平野にずらりと並んだ、山野の異界の知識と、何世紀にも渡って紡ぎ、改良され続けた技術を掛け合わせた代物だ。
「列型、大地の牙! 魔力弾装填開始――――――」
自身が無尽蔵に保有する魔力を込め始める。
通常の大砲に火を灯す紐が付いている位置には、五十センチ程の魔力タンク。
そこに魔力が溜まり、黄金に輝いていた。
「装填完了―――ニーライナ様、見ててください」
もう一度だけ祈る様に言うと、右腕を勢いよく横薙ぎ一閃。
戦場全体に響く様な、天にまで響く様な声を、腹の底から吐き出した。
「一斉掃射、放てッ!」
瞬間―――黄金のレーザーの様なものが放たれた。
天へ向かい突き進み、弧を描き地面へと。
ニーライナのハンマーから繰り出される一撃の様な轟音を放ち、地面を砕き、魔物を蹴散らす。
山野は新しく魔力を込め始め、同じ攻撃を何度も。
遠目にレイが放つ炎が見えた。
自分の攻撃が幕を開けたのかと思いながらも、山野は皆の無事を祈った。




