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師弟

だれか、私に神ジュナの倒し方を伝授してください。


 行き先が決まれば、ひたすら世界樹から離れるのではなく迂回しながら海側へ。

 今や馬車に足場凍結の魔法はかかっていないので、ヴァイオレットが覚えていた船着場へと向かう。


 砂の足場を抜けて、走りやすい山の麓に出ると、少し天馬の速度を落としてゆっくりと。


 体力や精神の回復などを優先しながら、夜は気休め程度に代わり代わりの見張り番。


 深夜三時に目を覚ますと、前当番のヴァイオレットが見当たらない。



「散歩…………じゃ無いんだろうな」



 街中ではないので、灯りは焚き火と月明かりのみ。

 焚き火のぱちぱちとした音と、風に葉が揺れる音だけが響き、少し君が悪い。


 鳥の鳴き声も聞こえない中、レイは焚き火近くで争った形跡を見つける。


 見慣れない足跡、ヴァイオレットと他五人程だ。



「まだ新しい………他は………ッ」



 レイは足跡の先へと走り出した。

 まだ新しい足跡ならば、皆を起こすよりも一人で走ったほうが早い。


 剣だけ持って山へと入り、上り坂を駆け上がる。

 アステラが現れたときよりも焦っている、寝起きの体は動きが鈍く、未だ思考も冴えない。


 喉が渇いて、酸素が上手く喉を通らない。

 嗚咽を零して、息を荒げながらも少しずつ山を登ると、一瞬自分以外の足音が聞こえた。


 パキパキと木の枝を踏みながら歩く音は、微かに聞こえる息遣いも相まって人間のものだと断定。


 山賊か、違法な奴隷商かなどと考えを巡らせていると、松明の灯りを発見した。


 全力で走っているのに急ブレーキをかけてしまっては音が鳴るので、跳んで木へと飛び付く。

 両足を木の側面に付けて、片手を木の裏に回して固定。

 枝に手を伸ばして高い位置まで登ると、馬車から自分のナイフを転移させて取り出す。


 そして、並んで歩くヴァイオレット含め六人のうち一人の首元を狙い、投擲した。


 ナイフが首から貫通した男は声を上げて倒れ込んだ。

 それに気づいた他の男達もざわめき出す。


 そして、夜の暗闇に慣れて来た目がヴァイオレットを捉えた。


 その瞬間、木を蹴って一っ飛び。

 それに気づいた一人の男がナイフを腰から抜くが、構える前には首が飛ぶ。

 他三人とヴァイオレットの位置を確認したら、男の首を斬った勢いで剣をもう一振り。


 背後から走り寄る男の胸に刃を斬り込んでから、刃を抜かないままもう一人の男の元へと投げ飛ばす。


 二人が倒れ込んだら、レイは駆け寄り胸から剣を引き抜いて、二人の胸を纏めてもう一度刺す。


 残り一人はそれを見て走り出した。

 レイに向かってではなく、山奥へと。



「逃がすかッ!」


「…………ッなんなんだよ!」



 男は叫ぶが、レイは足元から炎噴射で飛行して、男との距離を詰める。

 足を蹴って点灯させると、両腕を掴んで捕獲。


 ヴァイオレットは、腰を抜かして倒れ込んでいた。


 ズタボロの服、明らかに盗品としか思えないネックレスを見るからに、山賊の男を気絶させてから、ヴァイオレットの元へと寄る。


 縛られた腕の紐を斬ってから、口に噛まされている紐も外す。

 硬く結ばれていて頬に紐の跡が。

 口内から伸びる唾液の糸が切れると、レイはその紐を持ったまま燃やした。



「師匠、大丈夫ですか! すいません、遅くなりました」


「いや…………私の方こそ、申し訳ないね」



 腰を抜かして座り込んでるとは思えないほど、毅然とした声でヴァイオレットは言った。

 まるでどれ程に恐ろしい事が起きていたのか分かっていない、子供のように。



「申し訳ないなんて、そんな。取り敢えず戻りましょう」



 言って、気絶した男を焚き火の側に転移させてから、自分達は歩いてゆっくりと下山。

 その間、終始無言。


 男を縛ってから話を始めた。


 内容は大方想像通り、見張り中に背後から襲われて、少しは抵抗したが早いうちに紐を噛まされて助けも呼べず、連れ去られる最中だったとの事。


 ナイフを抜いて自分を傷つける事にも容赦なかったので、目的は売り飛ばす為ではなく、連れ去ってからの強姦目的だろうとヴァイオレットは語った。



「もう少し動けると思ったんだけどね、無理だったよ」


「感覚の修正が必要ですね。今は魔法がないんですから、何かあったら直ぐに声を上げてください。誰かしら起きます。あと、明日からは二人組の見張りにしましょう」


「…………ああ、そうだね」



 ヴァイオレットの声色は暗い。

 こんな状況で出来る事が思いつかないレイは、悔しさに視線を足元へと向けた。


 パチパチと焚き火の音が響く。

 それ以外無音の時間が続いてから、ヴァイオレットが口を開いた。



「私を…………師匠として、不甲斐ないと思うかい?」


「思いませんよ、絶対に思いません」



 静かに応える―――自分の言葉が、嫌に無力に感じた。



「私にはもう、君を愛弟子と呼ぶ資格がない気がするよ」



 声が震えている。

 目を向けると、ヴァイオレットの頬を涙が伝っていた。


 酒でも睡眠でも読書でも、他様々な理由で泣き喚くヴァイオレットを目にする事は多かったが、静かに泣くヴァイオレットを見るのは初めてで、レイは少し戸惑った。


 しかし、言わなければならない事もある。

 今黙りこめば、二度と元のヴァイオレットは戻らないと、レイは知っているから。



「例えば師匠がただの人になったとしても、二度と魔法が戻らなくても、今持ってる知識が無くなったとしても、師匠は俺の師匠です。俺は、貴方の愛弟子です」



 乾いた喉から、自分が喋っているのか分からない成る程スムーズに言葉が溢れ出る。

 何も言葉は浮かばなかったが、それでも言葉は途切れない。


 それはこの言葉が、励ましの言葉なんて殊勝なものではなく、思った先から垂れ流される、ただの本心に過ぎないからだろう。



「例え師匠が逃げようと、俺を嫌おうと、俺は一生貴方を師匠と呼びます。友人、夫婦、主従、どんなに強固な仲だろうと人の縁は切れるときには切れますが、何があろうと俺は師匠から教えてもらった事を忘れる事はない。親子と同じ、嫌でも一生切れない関係だと、俺は師弟を考えます」


「そっか………そっか………」



 今までヴァイオレットは、自身の力を軸に自身を支えていた。

 そして、その軸が消えた今、精神はとても不安定だった。


 そして山賊に連れ去られるなどという事件で、もう自分は無力だと、分かりやすく丁寧に教えられてしまったのだ。

 だからこそ、今ヴァイオレットは涙を流した。


 自分の力が変わろうと、唯一変わらない物を見て。


ぐへへ

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