神血
世界樹の迷宮、最上階。
木で出来た壁と床に、空の屋根。
木の屋根、生い茂る草、全てがない。
見えるのは高い高い、空だけだ。
「久しぶりだな、マティアス…………」
「そうか、登ってきたのはお前か」
マティアスは木で出来た王座から立ち上がり言った。
王座の形を保っている木が杖へと形を変えて、戦闘態勢へ。
神は魔力など使わず、レイの知る基準で強さは測れない筈だが、しかしハッキリと、敵の戦力が分かった。
自分がコップ一杯の水ならば、マティアスは海。
そんな無慈悲な程の力量差を理解しながらも、レイは両手に炎を纏わせる。
コップ一杯の水でダメならば、コップ一杯の猛毒になってやろうと―――海を汚染して、蒸発させてやろうと。
「使命なんてない、成り行きだ。それでも神様とやら…………俺はお前に襲われて、心底腑煮え繰り返ってるんだ」
「ならどうする?」
「お前の目論み、潰してやるよ」
瞬間―――レイは床スレスレに手を擦り付ける様振るった。
すると手から炎が吹き出して、木の壁で防いだマティアスの視野を狭める。
同時にレイは転移―――マティアスの背後へと周り、指先へと炎を凝縮。
擬似的な劣化版のモデル・ガンナーを作り出して、撃ち出す。
マティアスは木の壁を一部枝として延ばして防御。
枝の先端が勢い良く、鋭く延びて、レイを攻撃。
身を傾けて回避してから、腰から引き抜いた剣を振るった。
マティアスが警戒する様子もなく刃を手掴みして、レイごと投げ飛ばす。
「…………ッ七つ横には炎を添えた! 猿も登らにゃ木偶の某など、三途の三毛は知るよし無し!」
「天譴、天ノ剣」
言うと、壁から巨大な木の剣か生えた。
イルマーニが使ったものに似てる。
それを気にせずに、レイは詠唱を続けた。
「僧の文言聞き流せ、小僧の戯言しかと聞き届けよ! 超級魔法、狒火―――群傷華!」
終えると、炎が形成する大猿が出現。
大猿は木の剣を掴んで、逆にマティアスに対する武器として使う。
直撃の寸前に剣はマティアスを避ける様に分解され、大猿を捉える木の縄へと変化。
レイが縄の一部を斬ると、そこから大猿は縄を破壊して脱出。
レイを頭に乗せて、マティアスへと襲いかかった。
木の巨大な杭を地面から生やして、体を貫かれる寸前、大猿は転移。
マティアスの背後へと移動した。
そちらへと杭を操り、攻撃を防いだ瞬間、マティアスの衣服をレイの刃が切り裂いた。
転移したのは大猿のみ、レイはそのまま斬りかかっていたのだ。
「―――っくそ、斬れないか」
「どうやら資格は持ち合わせている様だな」
「いや、まだ下手なんだよ。ドラゴンの骨ってのは扱い難いな」
言って、剣に魔力を込めた。
ドラゴンの骨は魔力を通すと、その形に適した能力が上がる。
体の中の骨ならば身体機能の上昇、剣なら斬れ味の上昇。
下手でも神の衣服を切り裂く程度に、上手ければ神の体を斬れる程に。
レイは一度距離を取ろうとするが、すぐに追いつくマティアスが腹に蹴りを入れて弾き飛ばした。
「遅い」
「それは、ご指摘どうもッ!」
飛ばされた先の壁を蹴って、即斬りかかる。
今度は魔力の通りが良かったらしく、マティアスが回避した先の壁を大きく切り裂いた。
大きく穴の空いた壁の先へと向かい、マティアスは杖から変形させた木の槌を振るう。
回避する為仕方なく、穴から外へと飛び出す。
空が近い、空気が薄い。
世界樹の中と、まるで世界が違う様だ。
すぐに高さを調節する為に、比較的地面へと近い位置へと転移。
高さ百メートル程の位置で飛行していると、上空からマティアスが飛来。
レイは炎の球を幾つか放って撃ち落とそうとするが、全て手から伸びる木の鞭で弾かれた。
「炎とは再生の兆し、炎とは繁栄の証、炎とは希望の灯し。暗がり暴くは我が涯の御手」
未だ離れた位置のマティアスから視線を逸らさずに詠唱。
常に警戒は怠らない。
「聖火、百景、獄炎―――千の伊吹を妬いては身を焦がし、錬の合間に静閉ざす。賽は投じられた―――我が身投じ、熱筋を導こう。超越魔法、天天羅蘇!」
発動―――少しの炎を残して、レイは転移した。
残った炎に警戒しながらも、マティアスは消えたレイの気配を探る。
「何度も…………猿の一つ覚えとはこの事か!」
何度と行われた、背後への転移。
マティアスは馬鹿にされていると思ったのか、少し声を荒げて言った。
しかし、レイはそんなこと気にも留めない。
「獄炎球―――後光六道輪連華ッ!」
見つかったレイの体に纏わりつく炎は背後へと集まり、円とそれに繋がる炎の球を形成。
少しの怒りで乱暴になったマティアスから放たれた掌底を流して、再び自身が下となったレイ。
円に繋がる球を一つ消費して、銃弾を形成。
マティアスへ向けて放った。
銃弾は回転しながら進み、マティアスの頭部を目指す。
マティアスは首を曲げて回避―――ギリギリで、頬を掠った。
そして、血を流した。
レイは初めて、神に血を流させた。
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