笑う赤鬼
覚悟はできていたが、やはり実戦となると苦しいものだ。
アルスは額から垂れる汗を拭い、大きく息を吐いた。
苦しくなるまで続けてから、息を吸い、無理矢理呼吸を整えた。
赤鬼の攻撃には少し慣れ、五回の内三回は回避できる様に。
しかし、やはり皆無というのは難しい。
「ちょこまかと、女々しいぞ!」
「それは、由緒正しき女ですからっ!」
魔月を一振り―――攻撃の精度は少しずつ上がり始め、一度だけだが赤鬼の薄皮を切り裂けた。
赤鬼は疲れを見せずに金棒を振るい続ける。
軽々と床を抉り、壁を抉り、アルスを抉る。
黒に近い赤の返り血は、赤鬼の真っ赤な皮膚についても少し目立った。
最初はグレーの石素材の部屋だったが、今はどこの床もアルスの血で塗れている。
しかし足は止めない。
少しずつ、各実に差は縮んでいるからだ。
赤鬼の攻撃はとてもシンプル。
力強く駆け、力強く殴る。
残る差を更に小さく、そして追い抜くためには、このシンプルながらも確実で、他の者の様な高火力攻撃を持たないアルスが実行できる、戦い方を見つける必要がある。
「防戦で鬼は殺せぬぞ!」
「攻めて小娘一人殺せない鬼なら話は別ですよ!」
ひしゃけた両足を治癒してから一撃斬り込むが、金棒で防御。
一度離れて息を整えるアルスを、赤鬼は追わない。
戦闘狂、戦闘好きなのだ。
だから強い状態が整うまで待つ、それにアルスは、ほんの少しの希望を見出した。
相手が待つなら、やれると。
「相当、戦うのが好きなのですね」
「せっかく力があるんだ、楽しまなきゃそんだろ」
「そうですか…………それじゃあ、最後に一番楽しませてあげます」
大きく息を吸い、これから自分へと襲いかかる激痛の嵐に対し覚悟を固める。
アルスの言葉に赤鬼が満面の笑みを浮かべた。
とても禍々しい、狂気に満ちた喜びを隠す事なく。
「――――――最極、回季創花」
手が銃になるわけでも、爆炎を吐くわけでもない、何も変わらない。
しかし、アルスは駆け出した。
そして躊躇なく、金棒は振るわれた。
空気の壁を叩きながら繰り出された一撃は、容赦なくアルスの上半身を破裂させた。
そして、再生。
「なるほど、なるほど! 貴様、面白い土産をッ!」
「お眼鏡に適ったならばっ!」
懐へと潜り込んで、魔月を一振り。
赤鬼は避けなかった。
それはなりふり構わず痛みに耐える突撃を選んだアルスへの敬意を示してか、偶然か。
傷口からは血が吹き出し、次の瞬間金棒にて、アルスの首は飛ばされて、再生していた。
血による汚れは、増えていない。
アルスの回季創花は回復の域を超えて、回帰に至っている。
傷ができようと、服が破れようと、それが起こる前の状態へと戻る。
例え頭が弾け飛ぼうとも。
「お前の様な女と真正面からやり合える日が来るとは、夢にも思わなんだ!」
悪夢だという言葉が脳裏に浮かんだが、アルスはそれを言わずに攻撃にのみ集中する、
斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って、斬って。
そしてほんの一瞬、自分の受ける傷にも楽しみを見出し集中していた赤鬼の思考を、斬る事のみに集中していたアルスの思考が凌駕した。
振り下ろされる金棒を、身を回転させて回避。
赤鬼が金棒を握る右腕を魔月で斬り落として、溢れ出した血の陰からナイフの刃を伸ばす。
腕へ向いた目の片方に突き刺さり、視野を狭める。
痛みに赤鬼が首をのけぞらせた瞬間を狙い、アルスは腕を伸ばす。
アルスの回季創花は魔力消費が激しく、保って一分。
正真正銘、これが最後の一撃だ。
もし完全に赤鬼の意表をつけておらず防御が間に合ってしまえば、赤鬼が残している手があれば、アルスに待つのは確実な死のみ。
「大変、心地よい最後だ」
究極の一瞬、赤鬼が呟いた。
一度緩んだ魔月の握り手に力を込め直し、気合いを振り絞る為叫ぶ。
何も邪魔をすることは無い―――魔月は赤鬼の首筋から侵入し、中央を突破。
真反対から飛び出して、完全に赤鬼の首を切断した。
噴き出す血に押されて首が吹き飛ぶ寸前、楽しそうに笑った赤鬼と、叫ぶアルスの視線が重なった。
アルスは、怯みはしなかった。
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