凄惨な
最近、投稿前に寝落ちすることが増えました。
疲れでしょうか?
待ってくれていた方は、申し訳ございません。
蒸気の様に熱い息を吐いた。
二本の角と燃える様に赤い肌、ぎょろりと見開いた両の瞳に、怒髪天を衝くとは真逆の、つのより後ろに流れるように生えた麦色の縮れた髪の毛。
持っている金棒も相まって、紛れもない赤鬼だと一眼で分かった。
それと睨み合いナイフを一本構えるアルスは、額から一つ汗を垂らす。
「っ…………」
アルスか小さく息を吐くと、赤鬼が動いた。
突如床を強く蹴り、転移と錯覚する程の速度でアルスの背後へ。
勢いよく金棒を振るい、背骨を砕いた。
アルスは勢いよく飛ばされ、壁を激突。
体と壁の間に挟まってクッションとなった肩の骨も砕けるが、即座に魔法で治癒。
一秒も経たずに無傷の体へと戻った。
「―――奇怪な、蘇るとは」
「魔物なのに喋るんですね…………蘇っちゃいませんよ、ただ、死んでないだけです。ちゃんと痛いんですからね」
赤鬼が喋った事に驚きながらも、冷静に言葉を返す。
幸い、服はヴァイオレットの防護の魔法があって破れていないが、肩が砕けた際に流れた血で濡れている。
「ならば今度は傷まぬ様、一撃で静めよう!」
言って、赤鬼は跳ね上がった。
金棒を振り下ろし攻撃―――アルスは避け損ない爪先が潰れたが即治癒。
再生中は片足で後方へと跳び続け、完全回復してからはゆっくりと減速。
逆に前へと走り始めて、握っていた伸縮するナイフに加えてもう一本腰から引き抜いた。
宝剣―――魔月。
ヴァイオレットより譲られた、おそらくアリスの時代より存在していたナイフ。
持ち手は古びた包帯に巻かれており、戦うには少し心許ない。
しかし―――刃は鏡の様に輝いて、やはり宝剣と呼ぶに相応しい。
魔月を振るうと、赤鬼は過剰に回避。
壁も床もアルスも映る刃に、赤鬼は写らなかった。
「案外、怖がりなんですねっ!」
「その刃物は別よ―――禍々しい、そんなもの久々よの!」
ニタニタと笑いながら言って、赤鬼は金棒をもう一振り。
今度はしっかりと視界に捉え、魔月で防御。
筋肉は千切れ、骨は砕けたも、魔月は無傷。
即座に治癒してから、今度の一振りは回避。
右耳が取れたが、それも治癒した。
「全く、言う通りですねっ!」
魔月を振るう。
修行中、ヴァイオレットはアルスに言った。
きっとアルスの戦いは、誰よりも凄惨な光景だと。
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「アルスちゃん―――ちゃんと戦うなら君は、覚悟をしたほうが良い」
「覚悟ですか? 人を殺す覚悟なら、私も医者です。手術などで人を切る度にしていました」
「違う、君自身が傷つく覚悟だよ。毎回瀕死ギリギリ、もしくはそれ以上にね」
ヴァイオレットは言って、椅子へと腰掛ける。
「君はまだ他と比べて弱いけど、誰よりも長い期間戦える。胸に穴が開こうが、体が上下で別れようが、すぐに治癒して」
それ自体はアルスも承知している。
何があろうと戦い続け、もしアリスが傷ついて限界ならば、肉の壁にでもなんにでもなろうと。
「戦う時間なんて、分相応なもの。弱ければ敗けて死ぬし、強ければ勝って終わる。良くも悪くもね。だけどアルスちゃんの場合は、手も足も出ない敵でも生き残れてしまう。マティアス相手でも、即死を避ければ死にはしないだろうね」
思わず生唾を飲んだ。
アルスは想像してしまう、手足が落とされても魔力が尽きるまで戦い続ける自分の血みどろの姿を。
今までの漠然としたものとは違う、ハッキリとした姿を。
「私や愛弟子なんかよりも弱いけど、長く戦えるなんて、とても残酷な事態だ。想像したかい? 自分の血塗られた姿を、薄皮一枚で繋がった腕を治して戦い続ける、自分の姿を」
アルスの動悸が早くなる。
呼吸も荒くなり、それを見たヴァイオレットがアルスの背中を摩った。
しかし、言葉を止めることは無い。
きっとこれは、話さねばならない事なのだ。
「君は誰よりも残酷な戦いをする事になると思う。きっと…………とても凄惨な光景になるんだろうね。それを覚悟して、戦い続けるか、ただの医者に止まるか、考えた方がいいよ」




