最良の一撃
「はじめての実戦でこれ…………神様、無理です」
今回倒すべき相手がその神様だということも忘れて、山野は言った。
視線の先には巨大な蜘蛛の体と牛の顔を持った魔物、牛鬼が。
この世界で生まれ育った冒険者も苦戦する相手に、山野は初の実戦を使わなければいけなくなったのだ。
「一般オタクに、この仕打ちは…………いや、頑張ろう。俺だってニーライナ様の弟子として、多少は誇りかある」
昔はまともに話す相手もおらず、部屋で一人発生させていた独り言の癖。
最近はすっかり身を潜めていたが、極度の緊張と興奮で再発。
ニーライナという、人間の寿命では考えられない歴史で活躍する師匠と、その他様々な師匠達の言葉を胸に抱き、山野は拳銃を二丁手に取った。
「さて、やってやる…………!」
瞬間―――声に牛鬼が気づき、山野程度気を抜けば吹き飛ばされそうな風圧を伴った叫びを上げた
そして行動を開始。
牛鬼は床を一歩一歩で砕きながら山野へと駆ける。
山野は何度も発砲をするが、全てが牛鬼の硬い皮膚に防がれる。
鋼の様に硬いというよりかは、ゴムの様に硬い。
押せばへこむが裂けやしない。
通常、皮膚が鋼の様に硬い事などあり得やしないのだ。
この硬さこそが、硬い皮膚としての正しい在り方。
山野は銃を取り替える。
拳銃から、ロケットランチャー。
これが銃の範囲かと訊かれれば怪しいが、弾があってそれを引き金で発射するのだ。
ひとまずは銃と同じ扱いで良いだろう。
その銃判定の原因となった引き金を引いて、ロケット弾を発射。
末尾から火を吹き突き進み、牛鬼の頭に激突。
爆発と同時に硝煙を放ち、戦車も転倒させる威力を指先一つでの操作で放つ脅威を晒すが、牛鬼はそれをものともせず突進を続ける。
「…………っ効かないとか」
一言文句を垂れるものの、ひとまず回避行動を。
牛鬼は機動力にも破壊力にも長ける巨大な体を持つが故に、自身の体の真下には案外弱い。
無論、そこに留まり続ければ潰されて終わるので、作り出したアサルトライフルで腹を撃ちながら駆け抜ける。
小回りの効かない体の牛鬼はそれを嫌々見逃して、大きく回って方向転換してから再突進。
「あー怖い! 去年は漫画読んでゲームして! 自分で戦うとか夢みたい!」
再発した独り言を叫びながら、アサルトライフルを投げ捨て再度ロケットランチャーを製造。
構えて発射した直後直ぐに二発目を装填する。
「大佐、こりゃ気持ちいい」
二発目は目に撃中。
これで初めて、牛鬼が痛みに声を上げた。
三発目の用意をしながら足に力を込めて、牛鬼の声共に発せられる風に耐える。
妙に臭い、指先が痺れる様な風を。
「…………毒?!」
即座に理解―――痺れの正体が匂いでなく毒と分かり次第息を止めて、風の範囲外へと飛び出した。
少し視界が歪む、気付かず毒を吸ってしまったからだ。
長期戦は難しい、望ましいのは短期決戦に持ち込む事だが、その場合は後の戦闘が困難となる。
新たにアサルトライフルを作り出そうとするが、これも毒のせいか魔力が上手く操作出来ない。
仕方ないので今ある装備のみで戦う事に。
拳銃二丁とそのマガジン。
常備している発射ナイフと、新たに一発弾を詰めたロケットランチャーが今の全装備だ。
既に牛鬼は体制を取り直しており、息を荒げながらも山野の様子を見ている。
ロケットランチャーを警戒しているのだ。
試しに構えて向けると、確かに少し怯んだ様子。
「っし、屠殺してやる―――」
言って、ロケットランチャーを持ったまま牛鬼へと歩み寄る。
山野が寄るのに合わせて、牛鬼は少しずつ下がって離れる。
そして意を決して、ロケットランチャーを放り投げた。
ロケットランチャーへと向けられた牛鬼の視界から逃れる様に姿勢を低くして山野は駆ける。
そして一度、大きく息を吸ってから、牛鬼の顔へと飛びついた。
発射ナイフを抜いて、牛鬼の既にロケットランチャーで負傷した目に突き刺し、栓を抜いて発射。
更に傷口に、拳銃二丁を向けて何度も撃ち出した。
牛鬼は暴れ、絶叫し、自身の顔面ごと山野を壁へと叩きつける。
しかし山野はやめない、逃れない。
吐き出される毒も無視して、下唇を血が出るほど強く噛みながら幾度となく発泡。
毒による左腕の痺れが酷くなり、動かなくなろうとも、攻撃の手は緩めない。
小指で腰からマガジンを抜いて、銃本体から空の方を外す。
小指に掛かるマガジンを宙へと放り、回転に合わせて銃を振ることでセットする一か八かの荒技を使ってまで連射を続けると、牛鬼の目の淵、頭蓋に嵌めていた足が外れるほど大きく振るわれた頭が、壁を砕いた。
それによって投げ飛ばされた山野は、残り少ない気力を振り絞って何もない空間を掴む。
そして、叫んだ。
「再極―――弾曲腕貫ッ!」
言うと、操作するまでもなく絞り出された山野の魔力が左腕を包み、再構築する。
スチームパンクという言葉が似合う無数の管から蒸気を吹き出し、中に装填された一つの弾丸を止めるだけで熱を放つ銃身を、着地と同時に牛鬼へ先端を向ける。
自由に動く右手で、焼ける様に熱い重心を支えて、叫ぶ為に大きく開かれた口へと狙いを定める。
「終わりだ…………!」
撃ち穿つは最良の道。
追尾、破裂、分裂、膨張、それら機能の一切を排除して、ただ歪み無く突き進むだけの一撃を、銃身と化した左腕の指先を曲げるイメージで放った。
銃弾は放たれると同時に、当たっている。
既に喉の奥を狙った、狙えばあとはその結果へと直進する。
その途中には、回避の概念も防御の概念も存在せず。
ただ、貫通したという概念だけが撃ち出されるのだ。
これこそ介入も阻止もない、最良の道。
結果は牛鬼に真正面から大穴を開けて、ただ一撃のみの終末を作り出した。
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