世界樹
今回少し短めです。
早朝、一人アルスが目を覚ます。
眠気を晴らす為少し歩こうとテントから出ると、草原なので芝が少し濡れている。
靴を濡らしながら足を進めるが、未だ少し霧が残っていた。
そして、霧の先に人影一つ。
少し警戒しながらも、遅れて到着すると言っていたルークかと思い近づくと、次第に姿が見え始める。
ルークではない男。
髪がアリスに似て真っ白な男が、薄ら微笑みながらアルスを見ていた。
アルスは静かにナイフを二本抜き、逆手で構える。
男は少しずつアルスへと歩み寄り、霧から抜けた姿によって素手だと分かった。
「…………誰ですか」
応えない。
空虚に響いた声が草原に吸い込まれて消え、男は止まらず歩み寄る。
「誰ですか…………それ以上近づけば攻撃します…………」
男はなお反応せずに、とうとうアルスの頭に触れた。
あまりにも無防備に、警戒を忘れてしまう程、街の子供を撫でるように。
アルスは立ち尽くす、ただ呆然と我を忘れ。
それから少し間を開けて、汗が吹き出した。
異常に気づけなかった異常に息を荒げ未知に震える。
そして、そんな状況を振り払うようにナイフを振るった。
その時既に手は離れており、ナイフは空振り。
ただ虚しく、風切り音だけが鳴った。
二度三度と斬撃を重ねるか、男は全て回避。
ナイフを振るう度に、冷や汗が飛び散る。
「――――――どけ、小娘ッ!」
「ニーライナ様?!」
突如、ハンマーを持ったニーライナが飛び出す。
ハンマーから噴き出す炎と体を捻る事で身を回転させて、威力を増した一撃。
大地を砕き、敵を砕く一撃で、男の姿は完全消滅した。
「小娘、なんだあの男は」
「分からない………分からないです…………ただ、危険と判断しました」
「そうか、じゃあ敵だろう。死んだか?」
「いえ………衝突の寸前、消えた様に見えました」
「そうか、逃げたか」
二人が話していると、ニーライナの一撃による爆音で目覚めた者たちがテントを出てくる。
続々と現れ、起きていないのはヴァイオレットだけに。
事情を話すと、誰一人二度寝する事はなく辺りを捜索。
昼まで、警戒状態が続いた。
●●●●●●
ルークが到着。
彼は自身が保有する古代兵器、杯灰を取りに一時帰宅していた。
杯灰はルークの使う武器の構成物資であり、名の通り真っ黒の灰。
時には大剣に、時には弓に、時には槍に、時には盾に。
「さて、破るよ」
ヴァイオレットが言った。
テントも装備も仕舞い、戦闘の準備のみ整えた。
今から戦う相手は神。
今までのドラゴンとも、リヴァイアサンとも、国とも、格が違う。
まるで段違いな、正真正銘の神なのだ。
誰もが緊張した状況で、ヴァイオレットが空間に指を突っ込んだ。
そして、空間を引き裂いた。
瞬間―――裂け目は広がり天へと登り、その大樹は姿を表す。
天を貫く一本の森。
如何なる戦火もこれを焼かず。
如何なる夢もこれを汚さず。
如何なる愚者もこれに嘆かず。
如何なる牙もこれに突き立てられず。
その根を世界の半球にまで広め、今更なる侵害に挑む。
世の養分を吸い、これが完全へと至った時、世は終わりを迎えるという謂れを持つ。
世界終焉説の一つを冠する物―――その名も、世界樹。




