一年半
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目が覚める。
心なしか、いつもより寝床が快適だった。
具体的には、頭部がとても快適。
高級な枕を使った寝起きのようだった――――――。
「お目覚めになられたようですね、マスター」
「ん…………ここは」
目を開くと、眼前二つの小山。
白い生地に包まれたソレを見て、レイは後頭部の快適の正体を悟った。
それ即ち、太ももだ。
「なっ!」
「そのご様子だと、五体満足、完全に回復されたようで良かったです」
慌ててレイは飛び起きる。
周りを見ると、どうやら馬車で移動中。
馬車の外を見ると、奇妙な光景が広がっていた。
「アリス…………これって何事…………?」
「ルーク様が、剣の一振りでおやりになられました。私も少し驚いています」
レイ達が通っている道は、水面を凍らせた海なんかじゃない。
真っ二つに割れた海の中心を悠々と、濡れることなく走っているのだ。
馬車の中にルークとヤンが居ない。
突然島を出るとなると、何かしらの事情があるのだろうとレイは察した。
海を出ると、砂漠の方面には向かわず全くの別方向。
足場は自然豊かな草原へと姿を変え始めた。
「あれ、街には行かないの?」
「そうでした、マスターは話し合いの頃起きられない状態で不参加でしたね。お伝えし忘れていました」
海を抜け、草原を走り抜けながらアリスは応える。
「私達が向かっているのは敵の本殿、世界樹です。三日後の到着をもって、決着をつけると」
「世界樹…………! 決着って言っても、まだ俺はあの人形にすら勝てる気がしないけど…………」
「そこは何やら、ルーク様自信ありげのご様子でしたので心配無用かと」
「ルークさんが…………それならまあ…………いや、どうなんだろう」
ルークに秘策ありと知ってなお不安そうなレイを見て、アリスは小さく笑った。
レイは少し悔しく、恥ずかしく感じたが、世界樹への道を知るのは、ルークから話し合いで聞いたアリスだけ。
悔しさと少しの恥ずかしさを甘んじて受け入れて、晴れた空を見上げていた。
すると、少し違和感を覚える。
「ねえアリス、なんか雲が厚くない?」
「本当ですね、少し降るでしょうか?」
「いや………アレは雨雲っていうか………魔力?」
「ならば、世界樹に近づいた証拠ですね」
世界樹は常に魔力を放っている。
その魔力は目に見えるほどの濃さがあり、雲のように空を漂っている。
世界樹から一定以上離れれば消滅するが、世界樹に近づけば増えて行く。
これが見えれば、残りの道のりは少ない。
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「遅くなりました、師匠!」
「お、来た来た。久しぶりだね、愛弟子や」
レイが寝ている隙に島へと連れて行かれて一年半の間、一度も師弟間のコミュニケーションは無かった。
久しぶりの再会だが、どこかヴァイオレットは疲れ気味。
ここ数日はアルスと山野の修行を終わらせ、ニーライナと共に自分達の修行を進めていたからだ。
「師匠、寝てないんですか?」
「いやあ………気づいたら朝でね」
「じゃあ今寝てください。こんな状態じゃ、ルークさんは突入させないでしょうし」
「んっ…………到着してそうそう悪いね、愛弟子」
いくつか設置されたテントを見て、中に本が積んであった物の中にヴァイオレットを押し込む。
屋内に設置されたテントの中だというのに脱衣を始めたヴァイオレットの服を畳んでから狭いテントを脱出。
それから魔力を強く感じる方向へと進んで、ニーライナとも久々に顔を合わせる。
「この魔力、結界ですか?」
「ああ、目隠しのな…………気づかねえでいれば何も無いただの空間。すり抜けるぜ」
「結界範囲内の人に世界樹の事教えたらどうなるんでしょうかね」
「さあな、死ぬんじゃねえか?」
呑気に言うが、少し恐ろしい。
レイは結界の範囲が大体分かってはいるものの、敢えて一歩引いた。
「そういやあ、ヤマが会いたがってたぞ」
「本当ですか? それじゃあちょっと会って…………いや、大丈夫そうですね」
レイが言った瞬間、少し離れた位置で拳銃を構えていた山野が引き金を引いた。
銃弾は真っ直ぐ飛んで、引き抜かれたレイの剣に命中。
真っ二つに斬れたところで、一秒の差もなくほぼ同時に放たれた銃弾が、元の銃弾の影よりレイに迫る。
レイは瞬き一つせずに、防御する事もない。
狙いは正確だ。
銃弾は確実に進み、一切の妨害を受けずにレイの眉間へと先が接触。
それと同時に、転移した。
「久しぶりです、レイさん!」
「久しぶり、ヤマ」
山野の後ろで手を振るアルスに手を振りかえして、山野とも少しの会話。
久しぶりの再会、完了。




