とめどなく
一年半が経過、驚く程何もない。
街の復興は驚くべき速度で進み、ほぼ昔と同じような生活が始まっている。
アリスは島にやって来てから急成長。
ルーク曰く、人には人相応の役割があるらしい。
王は王の、騎士は騎士の役割を生まれ持っており、アリスには従者としての役割が。
主人、マスターの下についてこそ、真価が発揮されると言っていた。
そして、そんな順調な修行をより過酷にする様に、島に雪が降った。
「寒くやってきましたね、マスター」
「でもアリスは…………年中暖かそうだね」
「はい―――私には鎧裸がございますので、多少の寒暖差ならば支障ございません」
レイが言っていたのは、暑い時期でも変わらない布面積多めのメイド服。
年中暖かそうだ。
レイは寒いのが苦手なので、常に身近に炎を灯している。
その事をアリスに話すと、確かに寒いのは苦手そうだと返された。
事実だったので何も言い返しはしないが、少しレイは悲しんだ。
そして、意外だったのはヤン。
着物の上半身部分を完成に脱いで、胸をサラシで隠しているだけにも関わらず、寒くないと言うのだ。
身体強化の魔法を使っていると、通常の人間が運動で熱る場合の比ではないらしく、むしろ冷気があると動きやすいんだとか。
レイとルークは、アリスの出した薪を燃やして暖を取る。
しかし雪の勢いはどんどん強くなり、薪は次第に湿り始める。
壁を簡易に設立するも、辺りの冷気が壁を回り込んで木を湿らせ、木々の隙間を通って強くなった風が火を小さくする。
いくら薪を足そうと、休む暇なく強風が吹く。
アリスは髪や服が雪まみれになるのを避けるため壁に隠れるが、寒気は感じないのか淡々と薪を足している。
「ルークさん、大丈夫ですか?」
「ああ、俺はこの状態でも三日は行動出来るし、いざとなれば雲ごと消せる。問題ない」
「え………じゃあ消してくださいよ」
「お前がやれ」
言いたいことは分かった。
レイは三日も待てば、雪に埋もれて凍え死ぬ。
この島にやって来たのは、この雪が目的だったのかと悟る。
これを自分で消す為、今、レイは完成させなければ、習得させなければいけないのだ。
「じゃあ、ちょっと死んできますよ」
「ああ、死にかけたら、死なせてやる」
レイは天へと手を伸ばした。
雲を払い、天を貫き、大きく息を吸う。
冷気は喉を通って肺を冷やして、白くなって吐き出される。
それから一度目を瞑り、溢れんばかりの炎をイメージする。
「最極――――――………………」
静かに呟き、停止した。
魔法の習得とは、閃き。
もし使えるならば、詠唱が、名が、勝手に頭に降りてくるのだ。
そして今、レイの頭に浮かぶものは何もない。
それ即ち、対して防寒にもならない衣服で吹雪に晒される究極状態に至ろうと、レイは最極へと至れない。
何かが判断したのだ―――レイには最極を使う資格が、無いと。
レイの体は冷え続ける。
手足は小刻みに震え、視界は虚。
雪の中に倒れ込み、もはや掌は天を向いて居なかった。
「マスター!」
「まだだ、待つんだ!」
飛び出そうとするアリスを、ルークが止める。
寒さではなく、状況に震えながら。
本当に死ぬ寸前、ルークは助けに入るつもりでいた。
勇者でないルークには、親友の弟子を見殺しにする勇気はない。
しかし、今はダメな気がした。
今だけは、見届けなければいけない気がした。
自分と似た何かが、自分以上の何かが、この極寒の水気によって、芽生える気がしたから。
立ち上がろうと伸ばされたレイの腕が、地面を引っ掻いた。
爪には雪の底に埋まる土を詰まらせて、残る限りの力を振り絞って。
少しでも熱を、求めたのだ。
それを見てルークが飛び出そうとする。
同時に、風で掻き消えてしまいそうなか細い声で、レイが呟いた。
姿とは反比例して、凍える体躯に見合わず、傲慢に、力強く。
「――――――使われたいなら出てこいよ。気に入れば、使ってやるッ!」
瞬間、溢れ出した。
どこに隠していたか、どくどくと止めどなく、真っ赤な灼熱が流れ出したのだ。
それは地を燃やし、雪を溶かして雲を散らせる。
炎の海という表現が最も正しいと思ってしまうような、そんな炎だ。
「下がれ!」
ルークが叫ぶ。
アリスを自分の後ろへと隠すと、大剣を引き抜いて衝撃を放ち、自分とアリス、さりげなく共に背後に隠れたヤンを保護。
雪解け水が干上がった頃、ようやく炎は消えた。
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