衝撃
「戻りました師匠!」
「お! そこに居るのは愛しの愛弟子じゃないか!」
「そこに居るのはガス欠寸前の師匠ですね!」
「さては移動中に寝てないね? 文言がキツくなってるよ、愛弟子や」
レイは魔力自体少しは回復したが、前回には程遠い。
一度木に座り込んで、アルスの回復を受ける。
「お待たせ、アルス」
「遅いですよ、レイ様……!」
「急いだんだけど、手厳しいなあ」
そう言って、少し笑いながらもルークからは視線を離さない。
まど睨み合いが続くと思われたマティアスとルークだが、ルーク側が大剣を背中から外して、歩き出す。
握られる大剣は、豪華でも無骨でもない。
ほんの少しだけ装飾がある、普通の大剣だ。
「貴様…………誰だ」
「どこにでもいる、ただの英雄だ」
瞬間、ルークが駆けた。
大剣の鋒を足場に擦り付けて火花を上げならが、一直線に。
「牙閃ッ!」
叫んで、振り上げ。
それだけで斬撃は衝撃となり、剣の間合い遥か先までもその地に名を馳せたまま衝撃を飛ばした。
マティアスは上手く避けたが、避けてしまった。
防げないと、当たっては有効打になると丁寧に伝えてしまったのだ。
これならば、多少大袈裟にでも防いだ方が良かった。
「来鉄―――衝天ッ!」
「―――お前、人か?」
天を震わす様な衝撃を放つ突き。
それを回避しながら、マティアスは呟いた。
突然、長寿の種族のみが集まったパーティーのリーダーだったルークが、ただの人間な訳がない。
「半人半神、一部はお前の同胞だ!」
言いながら突撃。
今度は衝撃を放たずに、身を回転させて勢いをつけた状態での横なぎだ。
現れた木の壁を五枚砕いて、刃は漸くマティアスへ届いた。
「神の血も赤いのか」
「――――――ッ!」
手首の中心まで、刃が達している。
剣を引き抜こうとはするが、傷口が木に変化。
完全に剣を固定して、離れない。
諦めて手を離すと、突然剣が灰となって消える。
その灰が再度ルークの手へと集まり、剣ではなく弓の形を作り出した。
ルークは矢も無い状態で弦を引き、マティアスはそんなルーク目掛けて大量の木の棘を繰り出した。
大量の棘のある枝が絡まり、一つの杭を。
巨大な一撃となって、突き進む。
「一矢…………伽藍堂」
射―――木も何もかも、全てを貫き、掻き消して。
衝撃だけが矢の様に放たれた。
衝撃は剣の突き以上の速度で突き進んで、マティアスの右肩を破壊。
そこから枝が生えて、傷口を覆う様に広がった。
「天譴、森羅七対!」
「彼牙流星っ!」
現れた、七体の阿修羅。
ルークは一度弦を弾いてから、天に向かい放った。
衝撃は空中で八つに枝分かれ。
七つの衝撃が七体の阿修羅を破壊して、八つ目は全く別の方向へ。
ルークはもう一度、マティアスに向けて弦を引いて、放った。
放たれた衝撃は、先に放たれた残りの衝撃と合流。
更に速度と威力を増して、何重にも重ねられた木の壁を破壊して、マティアスの胸に風穴を開けた。
「終わりだ。これで一時だが、危険は去ったぞ」
そう言って、ルークはマティアスの居た先を指さす。
するとそこには、胸には大穴が空いているもの、全身が木へと変化したマティアスだったものが立っていた。
「紛い物………木偶の人形だ。アレは本体ではないし、全力でもない。何せ世界樹の守護神―――世界樹から離れる事は出来ないのでな」
「人形って………じゃあ本物の強さは………」
「恐らく、今のものの八倍はある。ここから世界樹まで、いくつも国を挟む距離であり、更に魔力同士の繋がりはその腕のみ。二割の力も発せれば絶好調だ」
「それって…………本物が来れば…………」
「なす術も無く、俺を呼びに逃げる事も叶わなかっただろう」
身の毛のよだつ感覚。
想像しただけで震える、容易に想像出来た惨状。
疲れと恐れで腰が抜けそうなレイの肩に、ルークの手が添えられた。
「安心しろ、ヴァイオレットの弟子。戦う術は俺がやる」
「戦う術…………? そんな相手と、どうやって…………」
「もう一段階、上の技を覚えろ。俺やヴァイオレット、ニーライナの様な段階だ。天馬と同じ速度で飛べるまで使えるなら、遅くはないだろう?」
「もう一段階、上?」
疑問を呟くと、それを聞いたヴァイオレットが歩み寄って、小さく頷いた。
ヴァイオレットの日常での判断は絶対に信頼してはならないが、戦いに於いては絶対の信頼を置いている。
「謂わば魔法の奥義、奥の手だ―――名を、最極。覚える気はあるか?」
「よろしくお願いします…………!」
ルークやヴァイオレット、ニーライナ達の実力に少しでも近づけるならばと、マティアスを倒すのに少しでも近づけるのならばと、レイは深々と頭を下げて、そのまま前方に転倒しながら眠りについた。




