襲来
二週間経過。
六度目の頭痛―――土の匂いがした。
罅の出来る音は、広がっていく。
山野は未だ、タイミングを探っている。
嫌な予感は止まるところを知らずに、日に日に増していく。
レイは戦いに備え続け、言葉だけでは無いその姿に、レイ以外も危機感を抱き始めた。
何かがあると。
ニーライナは魔道具の準備を、ヴァイオレットは酒を辞めた。
そして今、七度目の頭痛。
何かが、割れる音がした。
「あ…………師匠、来ます」
レイが言った瞬間、空が割れた。
青空の奥には、夜空が広がっていた。
そしてその中には、怪物なんて居ない。
ただ一つ、人型が浮いている。
レイが来ると言った瞬間、全員行動を開始。
地上へと転移する。
「師匠、何ですかあれ」
「分かんない…………何も、分かんない」
皆が空を見上げる。
空を飛ぶ人型の、人では無い何かを見上げた。
「師匠、戦闘準備を」
「終わってるよ」
天天羅蘇を発動したレイに、ヴァイオレットが応える。
右手には黄金の槍を、左手には反射の円盤を。
ヴァイオレット以外も戦いの準備は出来ている。
アリスは魔道具を完全装備、アルスはナイフ二本と、緊急の医療道具の詰まったカバン。
山野は拳銃二丁と他諸々。
替えのマガジン複数と、アサルトライフル。
ニーライナは魔道具の鎧を纏い、巨大なハンマーを握っている。
「標的、視認。枝の存在を確認…………」
空に居る何かの声が、レイの頭に響く。
その声をヴァイオレットの魔法で拡散、五人の中で情報を共有する。
「排除する――――――」
聞こえたと同時、ヴァイオレットが槍を放った。
槍は空中で分裂、何かに当たった瞬間、全てが黄金の光を放ちながら大爆発を引き起こした。
「…………木?」
「木ですね」
ヴァイオレットの槍は、突然現れた木の壁によって防がれた。
「制裁……天譴、森羅」
瞬間―――巨大な阿修羅像の様な木像が現れて、握る剣を奮ってアリスを弾き飛ばした。
「六道、モデル・ウィング!」
レイが飛び上がり、何かへと襲いかかる。
義手の手の甲に仕込まれたモデル・ランスを発動して、それを思い切り突き出した。
しかし、地面から伸びた木がレイの体へと突然絡みついて、当たる前に動きを強制停止。
槍の先端は何か、レイを見下ろす男の眼前で止まっていた。
「我が名はマティアス―――世界樹の守護神であり、世を砕く者」
「木の神様には何かと、縁があるなっ!」
モデル・ウィングを解いて、世界樹を炎で焼き切る。
「指折り一打、七極千火!」
レイは叫ぶと、左手の指から更に伸びる炎の指を振るう。
炎の指は壁に伸びるインクの様に、空中に炎で線を引いた。
「吹けッ!」
言った瞬間、炎の線から炎が吹き出す。
無抵抗な人間相手に使えば、一瞬で皮膚も肉も焼けて、骨しか残らない火力だ。
しかし―――男は掌の表面に木を張り、無傷で対処。
その木から、更に大量の木が溢れ出して、レイを押し離す。
「天譴…………八咫烏」
「なっ!」
突然現れた、大量の鴉の群れ。
軽く百を超える軍勢に驚きながらも、空中では飛行などで魔力の消費が激しいと、一度足の炎を消して急落下。
何発か炎を放つが、鴉の表面が焦げただけだ。
途中で足元から炎を噴射して、起動修正。
追う鴉の先頭を跳ぶ様に、民家の屋根スレスレで高速飛行する。
「ニーライナさんっ!」
「応、任せろ!」
屋根に立っていたニーライナの横を通り過ぎる。
ニーライナなハンマーを振り上げた。
魔力を込めると、ハンマーのヘッドが展開。
背後の頭から蒸気が噴き出すと、ニーライナがハンマーを振るうと同時に炎噴射。
勢いをつけて、鴉の群れを一撃で半分以上破壊した。
「まだまだ終わらねえぞッ!」
叫ぶニーライナ。
炎噴射の勢いで身を回転させて、取り逃した鴉も破壊する。
その一撃は鴉を完全に破壊しても勢い止まらず、民家の屋根を砕き、その衝撃は家中に。
完全に家を破壊した。
幸い、空が割れた騒ぎで街の住民の避難は進んでいるので、中に人は居なかった。
「おい小僧、あいつ何か分かったか?」
「名はマティアス、世界樹の守護神だと」
「世界樹…………ああ、その腕の素材だ。世界樹のは昔っから世界中に根っこ伸ばそうとしてるからな、適当な理由見つけて出て来たんだろ」
マティアスの言った枝とは義手の事だと理解。
一度ランスを仕舞って、天に目を向けると、いつの間にかマティアスの姿は消えていた。
「消え――――――っ!」
背後―――慌てて足元から炎噴射して逃れようとするが、間に合わない。
背にマティアスの拳がめり込み、レイは弾き飛ぶ。
飛ばされたまま、骨に異常が無いことを確認。
勢いに対する炎の逆噴射で停止して、手元に小さな太陽、炎の球を作り出し、マティアス目掛け放った。
しかし、先程と同じ様に掌に木を張って防御。
炎の球を最も容易く、片手で止めてしまう。
「動くんじゃあ、ねえぞッ!」
叫び、マティアスの背後からの攻撃。
炎を噴射しながらの攻撃だが、マティアスは空いた片手でそちらも防御。
「天譴…………森羅」
「遅くなりました、マスター!」
マティアスが言って、二体目の阿修羅が戻ろうとするレイの行手を阻む様に登場。
それと同時にアリスが駆けつけ、阿修羅に弾き飛ばされた事の再現とでも言わんばかりに、今度は自分が阿修羅を蹴り飛ばした。
「マスターはそちらを。周りは私とアルス様とお師匠様が」
「任せた!」
言うと、阿修羅を仕留める為にアリスは走り去る。
レイはマティアスの元へと戻ると、新たな炎の球を放り、元からマティアスが片手で止めている物に融合。
更に火力を高めるが、マティアスの様子は変わらない。
炎の球に指を食い込ませて、破壊。
ニーライナの事も、軽く力を込めるだけで押し飛ばす。
「…………天地、空海。先の木馬は腐り果て。長きの矢継ぎは終わりが見えよう」
「小僧、黙らせろッ!」
「はいっ!」
ニーライナが詠唱を開始。
ただでさえ神の術、天譴。
詠唱などされた日には、何が起こるか分かったものじゃない。
レイは炎の球を幾つも放るが、全てマティアスの片手で払われる。
「世継ぎは神託、世継ぎは信仰。天を仰ぐは地を踏み外し、破滅の世は我が手に残ろう―――」
「黙って、寝てろっ!」
最短の高火力。
モデル・アサシンを発動して、ほぼゼロ距離で解放しようとした瞬間、地面から伸びた木が炎を抑え込み、逆にレイを燃やす。
「――――――天譴、天変地異」
一度目を瞑ってから、マティアスは言った。
瞬間―――街中の大地を砕いて樹木が生える。
それは避難する市民を、駆けつけた兵を、そして街の中心にある城までもを飲み込んで、成長。
幾つもの巨樹が絡み付いて、巨大な一つの木を作り出してしまったのだ。
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